違法の冷蔵庫

「粉飾決算発覚の光電機に、新たな不正の疑いです。」
アナウンサーが画面越しに淡々と報じる。

私は、祖父の代から続く家電量販店を守る店主。
幼い頃興味のなかった家電にも愛着が湧き、お客様に買っていただけると我が子を送り出すような感慨がある。

世間が言う“違法メーカー”は冷蔵庫で国内シェア20%を誇り、そこの冷蔵庫は一級品。
だが連日世間を賑わせるこの騒動で、その冷蔵庫は「違法の冷蔵庫」となじられ、少し前まで予約待ちだったのに買い手がつかない。
やるせない思いを抱えながら、相次ぐキャンセルへ対応する。

「光電機の冷蔵庫を予約した及川ですが、もう届いたかしら。」
「はい、昨日入荷しました。ご連絡が遅れ大変申し訳ございません。」
「いいのよ。あそこのを祖母の代から使っていてね、長持ちして性能もよくて。そろそろ買い替え時だから早めにご連絡してたの。」
「ご購入のお気持ちにお変わりありませんか。」
「もちろん。冷蔵庫に罪はないもの。」

#ショートショートnote杯

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