電話越しのお姉さんへ
十七年前、あなたの優しい声に救われました。誠実なあなたと初めて電話で交わした言葉を、今でも忘れることができません。
「はい、こんにちは。どうされましたか」
あなたの声は、機械越しなのに、無機質でなく、温度のある声でした。そこにほっとして、私はあなたに助けを求めました。
きっと、声の調子、拙い話しぶりから、電話慣れしていない子どもであることを、電話のプロのあなたのことだから、すぐに見抜いたことでしょう。けれどもあなたは、幼い私を邪険に扱うことは、決してありませんでした。小学四年生の小さな相手に対して、あなたは終始敬語で、穏やかに、じっくり向き合ってくださいましたね。そんなところに私は惹かれていったのです。
私は電話が苦手でした。見知らぬ大人が怖かったです。そんな私の心を、温もりのこもったあなたの声が、少しずつ溶かしてくれました。
途方に暮れていた私に、あなたは一つ一つ、丁寧に質問をしてくださいましたね。そして、そんな私にぴったりのアドバイスをくださいました。おかげさまで、無事、おいしい生チョコレートを作ることができました。
チョコレートを見かけたとき。電話対応をするとき。バレンタインデーが近づく頃。今でもあなたを思い出します。私も、あなたを手本として、電話対応をするときは誠意を尽くそうと努めています。
明治お客様サポートのお姉さん、お元気ですか。どうか、冷たいクレームに心を病まず、これからも温かい声を聞かせてください。十七年間お礼を言えずじまいでごめんなさい。あのとき言えませんでしたが、ずっと感謝の気持ちをお伝えしたかったです。あなたのことを忘れたことはありませんでした。あなたはもうお忘れかもしれませんが、陰ながら、あなたの幸せを願って、今日もチョコレートを一つ、かごに入れます。
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