しゃべるピアノ

転入してきた高校の音楽室には、「しゃべるピアノ」があるという。
それは普段は見えない、聴こえない。
学校七不思議の一つに数えられている。

こんな噂を聞いて、黙っていられる私ではない。
転入から二ヶ月経った日の放課後、音楽室へ足を運んだ。試験期間中だから、ここで活動する合唱部は今いない。
引き戸に手をかけると、幸い鍵は開いていた。スリルと背徳感に、心臓が早鐘を打つ。

「もしもーし。しゃべるピアノさーん。」
しーんと静まり返った室内。射し込んでいた夕日が沈み、あたりは暗闇に包まれる。
やっぱり噂にすぎなかったのかな。
しょんぼり帰ろうとすると、
「カンッ」
音がして、ビクッと震える。
恐る恐る振り返るが、誰もいないし、ピアノがもう一台現れてもいない。
もう一度あたりをよく見回すと、ペダルの先に、何かが落ちている。
近寄ると、それは鍵盤がついたスコップ。いや、こっちではシャベルって言うんだった。

「しゃべるピアノ」は、「シャベルピアノ」だった。

#ショートショートnote杯

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