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【新入荷詩集】セリザワケイコ『音の蛹』~作詞・脚本家志望の方は必見!

 作詞家・脚本家としてご活躍中のセリザワケイコさんの詩集『音の蛹』を入荷いたしました。現在放送中の「HiHi JetsのHiしか言いません!」(テレビ東京)の主題歌「Hi Hi Let’s go now」や、ドラマ「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい(チェリまほ)」エンディング曲 DEEP SQUAD「Good Love Your Love」、水樹奈々さん、新浜レオンさんへも歌詞を提供していらっしゃる、セリザワケイコさんの詩集です。

【セリザワケイコさん プロフィール】
作詞家・脚本家
日本シナリオ作家協会会員、日本作詩家協会会員
2004年 詩のボクシング全国国民大会チャンピオン
2009年 佐藤佐吉祭最優秀脚本賞(脚本共作)
2010年 ROBOT賞・シアターガイド賞(脚本共作)
2020年 日本作詞大賞入賞(新浜レオン「君を求めて」)

【作詞提供楽曲(一部)】
★DEEP SQUAD「Good Love Your Love」
(ドラマ「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」エンディング曲)
https://youtu.be/2aaUQuXyuCA?feature=shared

★新浜レオン「君を求めて」 
https://youtu.be/InpcJljIIDw?feature=shared

★HiHi Jets「Hi Hi Jets」
https://youtu.be/JKq8iStQs_Y?feature=shared

 このように華々しいご経歴のセリザワさんの原点は、なんと「詩人」だったのですね! この詩集『音の蛹』は、すでに脚本家・作詞家としてご活躍中の2014年に発売されたものです。プロフィールにもありますように、セリザワさんは「詩のボクシング」(自作の詩の朗読対決)全国国民大会の優勝者です。その大会で朗読された詩作品(ショップにてご確認ください)と、その後作られた作品が、全部で36篇収録されています。

おしゃれな横書き

▶読みどころ1:音+視覚+内容の重みに注目

 「ここにある作品は、もともと朗読するために書かれたものです。」と「Editor's Note」(編集後記)にあるように、セリザワさんの詩は、朗読(音声化)した時に感情を揺さぶることに配慮されている点が一つの大きな特徴です。それに加え、脚本家ならではの「視覚的描写の鋭さ」も“凄い”の一言。

 しかし何と言ってもこの『音の蛹』は、「音」「視覚的な描写」に絡まって繰り出される「傷ついた心の表現」が圧巻なのです! 恋愛や友達関係に傷ついた方、辛さ、寂しさ、虚無感を抱えながら、「生きていくのってしんどいな」と思っている方には、是非読んでいただきたいです。「こういう芸術的な吐き出し方がある」「こういうカタルシスの方法がある」と知っていただけたらいいなと思います。

 まずは冒頭のAs a Preface(序詩)「気付くとわたしは」を、許可をいただいておりますので、全文掲載いたします。

「気づくとわたしは」
セリザワケイコ

もうとっくに見放した砂漠のことを考えていた
乾いた空気と照りつける太陽と
夜になれば冷えて天の光を引き立たせる漆黒の砂
空腹と 睡魔と 幻覚と 暴力にうずもれた足
委ねることさえままならず藻掻くことに疲れ
どこからか流れてきた声に存在をなぜと問われて言葉を失い
拒み続けていた救援の糸を掴んだ

几帳面に均されたアスファルトに慣れて
埃に注意していた呼吸を忘れて
真っ新の布をまとっていたはずなのに
気づくとわたしは砂漠に戻っていて
気づくとわたしはいつも砂漠に戻っていて
土塊のひとつで
せめて花なら良かったのに
ここではなんの意味もないけれど

セリザワケイコ「気付くとわたしは」
詩集『音の蛹』より

…すでにこの序詩に、「なんで私はいつもうまくいかないんだろう」という悲しみがにじみ出ているのですが、これはほんの入り口。許せない恋人を憎み切れない苦しみを鬼気迫る行替えで表現した「千両の木」、地下鉄の階段を上がって地上に出た時、目に飛び込んだ雨は涙か「メトロポリストウキョウ」、ファーストフード店の窓際で感じる孤独の描写、都会の雑踏・ものに囲まれた雑多な生活がより一層の心の肌寒さを引き立てる「9.7℃窓際」…と、読む人によっては苦しくてたまらなくなるような詩が続きます。セリザワさんによると、「重すぎる」と言われたこともあるのだとか(笑)。私はこの重みが、本当に辛い人を癒やすのではないかと感じましたけどね。

▶読みどころ2:朗読(音読)で楽しめる

 ですが、もちろん、ほっこりするような温かい詩も収録されています。最終連の「きっといつか/私は/私を好きになる」が印象的な「love letter」、山羊の誕生の場面に重ねて描かれる自分の意志の確立が感動的な「山羊」は、グッとくる大好きな作品です。特に「山羊」は、「震えが止まらない」の繰り返しとスピード感・リズム感がすごい。これは詩のボクシング全国国民大会の決勝で読まれた詩だそうで(つまりこの詩で優勝なさった)、どうりで素晴らしいと思いました! セリザワさんの朗読を聞いたことがある上手宰さんは、「彼女の詩は内容もいいし、朗読もうまい。あれをやられたら対戦者は、ちょっと勝てないよね。」とおっしゃっていましたが、この「山羊」を読んだら本当にそう思います。ぜひ音読して楽しんでいただきたい作品です。

▶読みどころ3:脚本に興味がある方は「からす」を読んで!

 私がこの詩集の中で一番圧倒されたのは、「からす」という作品。カフェで別れ話をする「あなた」と「あたし」を描写する言葉の一つ一つ、登場する小物の一つ一つがすべて二人の心情を象徴しているようで、まるで1本のドラマを見ているように濃厚です。むしろドラマよりも濃厚かも。落としどころのない別れ話の重い空気感と、現実逃避的に注意散漫になっていく「あたし」の心情描写は圧巻。セリザワさんによるとこの作品は、「シリーズ1本の時間軸をぎゅうと歪めていっぺんに感じられるようなものを作れたらいいなぁと思って書いた」とのことですので、まさにその通りの作品になっています。

 特にすごいのは、別れ話をしている描写の中に、ふと差し込まれる回想シーンの巧みさです。「あなた」は暑がりのくせに紅茶を、「あたし」は寒がりのくせにソーダを注文して向かい合って座っているのですが、

狭い布団に寄り添って
喧嘩して離れてもどうしても手が届くあの部屋
思い出して玄関のドアの前に立つと見える景色
隣の屋根から見下ろしている
からす

セリザワケイコ「からす」より一部引用

邪魔なものがたくさんになってしまったんだなぁなたぁたし

ぁぃだ
ふたりで入ったらいっぱいになってしまう湯船
あなた
からす
あたし

からす

セリザワケイコ「からす」より一部引用

幸せな思い出の描写の中に、「からす」が一緒に差し込まれてきます。「からす」が何の象徴か考えると、この切なさの表現はとても真似できない…!ドラマ(映像)と詩が融合されたようなこんなに不思議な作品を、私は初めて読みました。

▶読みどころ4:英訳が載っている!

 最後に言い忘れてはいけないのは、この詩集の訳3分の1の作品に、英訳が付いているということ。珍しいですよね!その都合もあって、全作品が横書きのようです。
 カバーデザインはセリザワケイコさんご本人。紙質にもこだわったそうで、ぼこぼことした素朴な手触りが心地よいです♪
 とにかく、作詞家、脚本家に興味がある方なら、一度読んでみて欲しい一冊です。そのまま歌詞にしてもいいような詩がたくさん載っています。10代~20代の頃には年に100本以上の映画、マンガはそれ以上読んだ(!)というセリザワさんのエッセンスを、是非取り入れていただければと思います。

▼子供の頃は漫画家になりたかったというセリザワさん。熱いです!

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