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22個目の物語


物語とは、主人公の、ほんの一瞬だけを切り取ったものである

もちろん、伝記などの例外はあるとはいえ、フィクションであろうがノンフィクションであろうが、ほとんどの「読み物」に冒頭の言葉が当てはまるはずである。もし、自分を主人公とする物語があったとするなら、どの瞬間が相応しいであろうか。これを想像するのはなかなか楽しいことである。

小学校の時のリレー大会にアンカーとして出場したあの日、せっかくごぼう抜きでトップになったのに、ゴールテープの手前で派手に転んでしまった<瞬間>

高校の夏休みの文化祭のあの日、あるはずの焼きそばの材料がどこを探そうが見つからず、あわてて買いに向かうも、文化祭が始まるまであと数分まで追い込まれた<瞬間>

結婚して子供が生まれて一年ほど経ったあの日、ふくらはぎを掴まれて、ふと下を向くと、ハイハイしか出来ないはずの我が息子がしがみついていた<瞬間>


他人にとっては、なんでもない、ただの日常のひとコマにしか過ぎない<瞬間>が、自分にとっては人生最大の喜びであったり屈辱であったり、ハイライトになり得る瞬間だったりする。

誰も憶えていない、自分ひとりがこだわってる、そんな話を誰かに喋りたくなることがある。もちろん「だから?」と言われるのがオチなので、口にすることはない。でも、もし、心地良い相槌とともに聞いてくれる人がいれば、その時もまた、人生のハイライトなのかもしれない。

「恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。」には21の物語がある。しかし22個目の物語は読者自身に委ねられているといってもいい。

もちろん21個までが恋愛にスポットをあてたものなので、22個目の物語もまた、人生の中での恋愛におけるハイライトを書き連ねるべきだろう。

22個目の物語は読者の数だけある。いや、文章にする必要はないのかもしれない。ただ瞬間を思い出すだけでも十分ではないか。



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