微動探査による地下空洞の調査事例

横山 芳春 博士(理学)

都市の地下で発生する空洞化と陥没
 東京都調布市東つつじケ丘2の市道で、道路の陥没事故がありました。幸いにも人的被害はありませんでしたが、その後も11月になって近傍で地下に空洞が見つかるなどがあり、地下の外環道シールド工事との関係性は調査中とされていますが、そもそも地表には影響がないとされた「大深度地下利用」において9月より地表に振動が伝わる、タイルが剥離するなどの現象がみられており、住民の間には不安が広がっています。新たに発見された空洞は地表から5mほどの深さにあり、地中レーダー探査等でも探知しづらいとされています。地盤の陥没につながる恐れもある、都市地下における空洞の調査は都市部において重要な課題であると考えられます。

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10月18日の調布市陥没現場の様子 毎日新聞より

 空洞化は、桑野(2019)によると、1)地中の都市インフラ老朽化により漏水が発生、周囲の土砂が侵食されることによるケースと、2)自然にある地下水によって地盤が侵食、空洞化が進むという事例に大きく分けられています。いずれのケースでも、「地盤内の水の作用によって土粒子が運ばれて空洞ができて、それが拡大・成長して陥没に至る過程は同様である」とされています。調布市の陥没・空洞化の事例では、もともと周辺の地盤にこのような空洞化が起きやすい原因がなかったか、表層近くの地下水の水位とその変動、地下水を通す地層(透水層)とその上の地層が軟弱や崩れやすいなどがなかったかから、調査が進むものと考えられます。そこに、地下工事による振動等の影響で「ゆるみの進行」が生じていたかなどが焦点となるとみられます。

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地中で空洞ができるメカニズム

桑野玲子(2019),地盤陥没対策にかかわる技術開発・研究の最近の動向,生産研究, 71 巻 4 号の「図1」を抜粋

地下空洞に対する「微動探査」の事例
 地表に機材(微動計)を置くするだけで非破壊で地下の構造を把握できる  地盤調査法「微動探査」は、近年では住宅地盤の地震時のゆれやすさや共振のしやすさといった、地震対策で住宅分野における活用が進んでいます。もともとは、地下の地震波の伝わりやすさから、地下の地質構造を把握することを目的としております。下の写真のように地面を掘削することなく、1.2m四方ほどの敷地があれば調査が可能で、ガレージや庭先、前面道路上で調査ができます。調査時間も短く、1か所について1か所17分ほど(極小アレイ探査1地点の時間)と短時間で調査をすることが可能です。これまでの各地の被災地や地下空洞が懸念される地点でのテスト調査で、一定の成果が出ております。地下のやや深い地点で空洞を探知したテスト事例について紹介します。

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 テストを行った場所は、あるローム層の分布するローム台地にある住宅街の一角です。地中に戦時中の地下壕があり、近隣では陥没事故なども起きているため、地元の自治体の方のご相談で空洞調査に微動探査を活用できないかを試した事例です。およそ空洞がある位置は絞り込まれていましたが、その幅が狭いことが想定されましたので、60㎝半径に機材(微動計)を4台配置する「極小アレイ探査」を、連続的に約1mおきに5地点で実施してみました。

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 微動探査では「S波速度」という、地盤の中を地震の波(横揺れ、主要動となるS波)の通る速さを得ることができます。S波速度の遅い地盤はゆるい地盤、速い地盤はかたい地盤と考えられますが、空洞部ではS波速度が極端に速いか、周囲より遅い数値として得られることが、この場所や他の地点のテストなどからわかってきました。この場所では、中央の調査地点3と、隣の調査地点4で、深さ約6.1~9.0mの付近に、周囲の同じ層と比べて不自然にS波速度が遅い部分(黄色で着色)を検出できました。

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 この結果を、S波速度別に色を塗って地下のS波速度の速さを図で示す(S波速度構造)と、傾向が良くわかります。上下の地層よりS波速度が遅く、両側の同じ深さの地層と比べても地点3、地点4のみ、S波速度が遅い部分が確認できました。ほぼ連続した場所で微動探査をして見られた不自然な層は、局所的に物性が周囲と異なる部分があるということが分かります。この場合は、原因として地下に空洞であることが考えられました。

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 5地点以上を連続して調査した場合は、下の図のような断面図を作ることができ、地点3~4の間の一部分で左右の地点とは連続しないS波速度の遅い部分を検出することができました(図は防災.科学技術研究所・先名重樹主幹研究員作成)。なお、各調査地点の間は、ピンポイントのデータからグラデーションで作成しているので、厳密に調査地点の間がわかるわけではなありません。地点3~4の間も表層付近にあるS波速度の遅い層とつながって見えている部分もありますが、実際には連続しているものではないとみられます。

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微動探査結果と空洞の位置の比較
 微動探査で空洞と考えられる位置を、調査地点に示していると以下のようになります。地点3~4の範囲にとどまり、幅約2m以内にあることが絞り込まれました。

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 別途、空洞内の調査などから得られた実際に空洞が入っているおよその位置を書き込むと、以下の図の青色の点線のあたりと考えられます。微動探査で空洞化が想定されている地点と良く一致していることがわかり、微動探査により幅の狭い空洞の位置を特定することができました。推定される深さもよく一致しており、地中レーダー等では深さが深すぎて探査の難しい、深さ6m以深にある空洞を特定できました。

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 この場所の近くの異なる地点では地表下1~2mで下水管があり、その下の地盤に空洞があるとみられる地点でもテストを実施しました。その結果、下水管と空洞のいずれもがS波速度の遅い層としてとらえられる事例も得られました。このほか、地震被害があり地下に空洞ができているとみられる地域で微動探査を実施した結果、ボーリング調査による空洞化が想定される震度で、著しくS波速度の低い層が検出できるなど、空洞を対象とした微動探査で一定の成果を得ることができました。

 これまでのある程度深い場所にある地盤の空洞化調査では、費用と日数をかけてボーリング調査を実施して空洞の位置を把握したのちに孔内カメラや3D レーザースキャナーによる調査、また薬液注入などによる埋め戻しが必要でした。微動探査では1か所が17分ほどの調査で、費用もボーリング調査に比べて安価でできることから、事前に微動探査で空洞があるとみられる場所の絞り込みに使って、孔内調査や埋め戻しの際のボーリング掘削と併用することで迅速かつ広範囲の調査が可能となることが期待されます。

 また、微動探査では地表に孔を空けたり大きな機材を搬入する必要がなく、機材を置くだけで、アスファルト舗装やコンクリート敷きの上でも調査が可能であることから、陥没の危険があり大きな機材の搬入や地表に穴の空けられない場所でも迅速な調査を行うことができ、住宅街での空洞化調査などに向いている調査方法であると考えられます。

 地下に空洞化・陥没の可能性が考えられる際には、微動探査による空洞検知できる可能性を是非ご検討ください。

微動探査で空洞調査を実施する際のメリットと考えられる点
・調査地の面積や調査密度、知りたい空洞の深さや大きさから調査数を自由に設定できる
・ボーリング調査などより安価、短時間で大きな機材を搬入せずに調査ができる
・地中レーダーで調査の難しい深さ3m以深の空洞も検知できる
・カメラ等を挿入、薬液注入を実施するボーリング位置の絞り込みやにも活用可能
・アスファルト舗装やコンクリート敷きの上でも、穴をあけずに調査することができる
・空洞の上に下水管などがあっても、その下にある空洞が検知できるケースもある


地盤災害ドクター 横山芳春

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<経歴>
https://note.com/yokoyama1128/n/ne906bc5252e4

<研究論文など>
https://note.com/yokoyama1128/n/na6e545d44d9b

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