見出し画像

道路陥没・空洞の現状と原因

はじめに
 近年では、2016年の博多駅前道路陥没事故、2020年の調布市における外環道トンネル工事付近での道路陥没、また2021年には11月2日に東京都武蔵野市吉祥寺、11月11日には北海道三笠市において立て続けに大規模な道路陥没が発生した。これだけ頻発すると、日本の道路は大丈夫か?明日にでもいつも通っている道路が陥没して、車で通過したり歩いている道路から穴の中に落下するのではないか?と考えてしまう人もいると思う。今回は、道路陥没、その原因となる空洞の現状と原因を探ってみる。
※本内容は横山の個人的な見解です。関連組織等の総意ではありません。

近年の陥没・空洞化は増えている?
 初めに言うと、前記した4件はそれぞれが特殊な事例であると言え、大きく異なる原因で発生した陥没であるといえる。博多は地下鉄工事によるもの、調布は「大深度地下」を掘削する外環道のトンネル工事の可能性、吉祥寺は隣地工事の影響も考えられ、三笠市は調査が進むところだが谷をせき止めるような盛土の可能性が高いと考える。現象としてはいずれも「大規模な道路の陥没」だが、これらには大きな因果関係はなく、全く違う要因で土が流出・空洞化するようなことが発生し、結果的に道路の陥没につながったとみて良いと考えている。

 データで見てみると、国交省が公開している「管路施設に起因する道路陥没件数」は、(地震によるものを除き)平成28年には約3,300件あるが、平成19年から1000件以上、陥没件数は右肩下がりで少なくなっている傾向がうかがえる(下図左のグラフ)。なお、施設の布設後40年以上経つと陥没の発生件数、割合とも増加し、50年、60年経つとさらに増加するようで、高度成長期に作られたインフラの破損という心配は残る(下図中央のグラフ)。

画像1

 管路以外の原因を含んだ陥没の件数は、国交省の資料によると、令和元年度で約9000件発生している。

陥没の原因は?
 道路の陥没に至る原因は、国交省の資料「道路の陥没発生件数とその要因」によると、道路排水施設や管渠など、また下水道によるものが多いとされているが、原因が不明として特定できないものも少なくない。

画像2

 ただし、国交省の資料「道路の陥没発生件数とその要因」によると都市部(人口集中地区)、とくに政令市・特別区では下水道によるものが最も多くなっており、次いで道路施設、管渠となり、下水道による割合が多くなっていることがうかがえる。都市部では下水道施設の早期発達と同時に、老朽化が進んでいることも影響しているのではないか。また、政令市・特別区では、原因が不明となる割合がそれぞれ25%を超えて多いことも特徴的であり、道路陥没の原因究明が簡単ではないことがわかる。

画像3

 なお、路面の陥没を引き起こす地盤の空洞化が発生する原因としては、桑野(2019)によると、1)地中の都市インフラ老朽化により漏水が発生、周囲の土砂が侵食されることによるケースと、2)自然にある地下水によって地盤が侵食、空洞化が進むという事例に大きく分けられている。
 いずれのケースでも、「地盤内の水の作用によって土粒子が運ばれて空洞ができて、それが拡大・成長して陥没に至る過程は同様である」とされる。必ずしも陥没は都市インフラに紐づくものではなく、自然の地下水によって空洞・陥没が発生することも念頭に置かないといけない。

画像4

桑野玲子(2019),地盤陥没対策にかかわる技術開発・研究の最近の動向,生産研究, 71 巻 4 号より「図1」を抜粋

陥没の前兆となる現象は?
 道路の陥没となる現象は、桑野(2019)でも「多くの場合、陥没は“突然”起こるように見え地表から前兆を掴みにくい」とされ、地表に事前に前兆がないケースも多いとみられる。白ほか(2021)の報告によると、空洞が存在する場合に路面に顕著に表れる可能性が高い損傷は「路面のひび割れ、縦断凹凸が大きい」とされている。徐々に表層付近に空洞化が進んで、舗装されたアスファルト面下の土が流出していくと、道路面のたわみ、ひび割れなどの現象として発生しやすいものと考えられる。
 いつも通行している道路にこれまでなかったたわみや集中的なひび割れがある場合などは、陥没の可能性も疑われる。ただし、地盤が軟弱な地域などではたわみ、ひび割れや地盤沈下によるマンホールや橋脚付近周辺とに段差ができる(抜けあがり現象)などは頻繁にみられることから、道路に変状がある=空洞、陥没の危険性とは直結しないと考えられる。
 下図のように、側溝と路面の隙間にごく小規模な空洞がある場合などは、水の流れなどにより成長していくと陥没に繋がることも懸念される。

画像5


三笠市の事例
 2021年11月11日、北海道三笠市の幾春別川の南側で大規模な道路陥没が発生した。余談だが、三笠市は筆者が地質・化石の調査などで何度も訪れている場所だ。
 細かい原因究明は今後行われるものと考えられるが、細かい地形や標高差から原因を一考察する(一個人の推測ですのでご容赦ください)。国土地理院の「地理院地図」で見ると、陥没発生地付近は南側から谷が入っており、谷を横断するように道路が走っていることが明確だ。陥没発生地の断面を切ると、谷の上流(南側)からの高低差は7.8mほどあり、盛土の道路であることが考えられる。

画像10

 空洞の深さは報道によると約7mほどとされ、道路面から7m下がると、ほぼ北側の谷底に近い部分にまで陥没が及んでおり、盛土?の高さぶん近くにまで及んでいることがうかがえる。報道の写真で見ると穴の底付近で土の色が変わっている部分は、もともとの地盤なのだろうか。

画像11

 考えられる一つの原因としては、北側の谷側から水が道路下に浸出していき、地下水の道のようになっていた場合、そこから空洞ができて徐々に成長していったということも考えられるのではないか。報道の空撮で見ると、道路の北側にダムのように水が溜まっている様子も見られ、そうなるとさらに道路の盛土?の浅い部分にまで水の影響が及びやすい。直接的な流水による侵食の可能性も考えたが、写真で見る限りでは陥没穴の北側の壁は健全なように見え、その場合にはあまり考えにくいか。

画像12

 なお、当地のストリートビューを見ると、2018年では補修痕、2014年でも鉄板敷きのような部分がみてとれ、以前から何らかの変状があったことも考えられ、正確な原因究明を待ちたいところだ。

空洞の事例
 実際の空洞化・陥没の事例を紹介する。筆者が調査・復旧工事にかかわった事例で、都内の谷底低地部のマンション駐車場で、アスファルト舗装が浮いたような状態で今にも陥没しそうだ、という相談で対応した案件を図化して紹介する。
 この事例では、マンション基礎(杭で支持層に乗っている)は沈下しないが、周囲の駐車場部分は軟弱な地盤で徐々に地盤の沈下が進み、基礎部と駐車場に段差ができていった。そこに車が段差を超えて出入りすることから、その際の振動が駐車場側の路面に伝わることで、舗装下の路盤のゆるみ、流出が発生したことが考えられる。実際にアスファルト舗装を剥いでみると、舗装が宙ぶらりんのように数10㎝ほど浮いている状況となっていた。このまま放置すれば陥没し、車が落下しかねなかった事例だ。

画像6

画像7

画像8

画像9

 また、陥没は地震発生後に増えることも知られており、国交省資料では東北地方太平洋沖地震で約1500件、熊本地震・鳥取県中部地震で合計約1300件の陥没が発生するとされている。実際に被災直後に被害の大きかった地域を訪れると、道路の陥没は良く見られる。陥没以外にも、揺れや液状化による道路の段差、亀裂、波打ちなどは多数発生することが懸念される。地震後に道路を通行するとき、とくに夜に地震があった際などは停電している可能性やよく路面が見えないこともあるので、十分な注意が必要だ。
 下の写真は北海道胆振東部地震の例で、空洞が発生することでアスファルト舗装が落ち込んで大きな穴が開いているようすがうかがえる。

画像13

おわりに
 陥没、空洞は人工的なものは、地下にインフラを埋設して発達した都市においては宿命的なものもある。地下の配管を埋め戻した「埋め戻し土」はどうしても自然の地盤よりも軟弱であることも影響している。管路の耐震化などは急ピッチで進められているところだが、膨大に張り巡らされた地下インフラの老朽化という課題もある。
 地震大国日本では、地震による被害も免れえないだろう。南海トラフ巨大地震、首都直下地震もひっ迫している。平時のインフラ被害としては和歌山県での水道橋破損も記憶に新しいが、災害時のみならず急な発電・送電施設のトラブルによる停電や水道が止まるなどのインフラ被害を想定した備えをしていただきたい。

地盤災害ドクター 横山芳春
だいち災害リスク研究所 所長

<SNS>
https://twitter.com/jibansaigai

<経歴>
https://note.com/yokoyama1128/n/ne906bc5252e4

<研究論文など>
https://note.com/yokoyama1128/n/na6e545d44d9b

<メールアドレス>
yokoyama1128geo(a)gmail.com
 (a)→@としてください

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?