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令和4年福島県沖を震源とする地震の現地調査速報

横山 芳春 博士(理学)
だいち災害リスク研究所 所長
Be-Do 会長

①地震の概要
 2022年3月16日23時36分ごろ、福島県沖を震源としたマグニチュード7.4の地震が発生しました。この地震により、被災された方々には心よりお見舞いを申し上げます。

 この地震では、宮城県登米市、蔵王町、福島県相馬市、国見町、南相馬市で震度6強を観測したほか、東北地方、関東地方の広い範囲で震度4以上の揺れが観測されています。
 著者は、発災後の現地状況について記録し、今後の地震防災に役立てることを目的として大きな地震の直後に現地入りすることを実施しています。
 今回の地震を受けて、3月21日に海沿いに低地帯が広がり震度6強を記録した福島県浜通り、相馬市(一部新地町)、南相馬市北部の調査を実施しましたので、速報として報告します。

大まかな調査範囲(赤点線で示す範囲)
国土地理院「地理院地図」に20万分の1シームレス地質図を表示

 調査範囲は、上の図の通りです。相馬市では、松川浦沿岸部の低地から基盤となる第三紀層の丘陵地にあって傾斜もみられる和田・岩子地区および尾浜地区相馬港(新地町を含む)、川沿いの低地にある相馬市街地を、南相馬市では川沿いの低地である鹿島地区を中心に調査を実施しました。
 なお、昨年の2月13日にも福島県沖を震源とする地震が発生し、震度6強を記録した相馬市、新地町で現地調査を行っています(昨年の地震についてはNoteの速報を参照)。

②南相馬市鹿島地区
 鹿島地区は、南相馬市の北部に位置している。JR常磐線鹿島駅を起点として、周辺の調査を実施しました。建物外壁のひび割れ、窓や玄関の破損、外壁の剥離・落下、屋根瓦の破損、ブロック塀の倒壊、アスファルト舗装や土間コンクリートの破損などが認められました。

③相馬市和田・岩子地区
 相馬市和田・岩子地区は、松川浦の北西側に位置し、海岸低地(標高1m程度)から、第三紀層の丘陵(標高最大26m、主に15m程度)の高低差があります。各種擁壁、ブロック塀の被害が見られました。
 擁壁、ブロック塀の被害が目立ち、擁壁のはらみ出しによる家屋の被害、ブロック塀の倒壊、落下がみられました。松川浦沿いの塩釜神社では、昨年の地震後にはみられなかった鳥居の「貫」部分の落下がみられました。

④相馬市尾浜地区
 
相馬市尾浜地区は、松川浦の北西側に位置し、海岸低地(標高1m程度)から、第三紀層の丘陵(標高最大26m、主に15m程度)の高低差があり、各種擁壁、ブロック塀の被害が多く見られました。松川浦の北側に位置し、松川浦漁港を有しています。松川浦沿いの海岸低地(標高1m程度)から、第三紀層の丘陵(主に15m程度)の高低差があります。
 各種擁壁、ブロック塀の被害が多く見られました。古い木造、コンクリートブロック造の建物や蔵の被害が目立ちました。とくに、松川浦沿いの低地から、丘陵地頂上より南側(松川浦側)の斜面に多く見られました。
 コンクリートブロックの鉄筋の課題については、詳しい方の見解を待ちたいところです。

建物の被害状況


2021年の地震直後との比較

2021年2月14日の状況
2022年3月21日の状況 屋根瓦の被害が大きいように見える

墓地における被害

擁壁の被害

間知擁壁+コンクリートブロック

同じ地点のおける控え壁の有無による被害の差異

護岸の被害

路面の被害

松川浦大橋の橋脚


歩道橋の被害(尾浜交差点における歩道橋の落下)

道路面の陥没

神社の被害

⑤相馬港
 
相馬港は、南側を相馬市、北川が新地町域となる埋め立て地の港湾で、昨年の地震でも液状化現象による被害が発生していました。噴出した砂が水とともに流れた跡もみられ、淘汰の悪い礫、貝殻などが砂とともに噴出している様子もみられました。液状化に伴うものとみられる、港湾部の沈下、路面や柵の基礎部分の波うち、道路の亀裂、陥没などが発生していました。

⑥相馬市街
 
相馬市は、北側に小泉川が、南側に宇田川がそれぞれ西から東へ流れており、松川浦沿いの低地域に発達した市街です。
 相馬市小泉にある相馬市総合福祉センターでは液状化によるとみられる被害が目立ちました。この場所は小泉川の低地から北側に入り組んだ谷ぞいに位置しており、建物の周囲の地盤が10数㎝程度沈下して建物の抜けあがり現象がみられました。建物側のタイルには、当初地盤面だった高さより低い部分に地震発生時に地盤にある石とこすれたものをみられる多数の傷がみられました沈下量は、沈み込んだ深さから見て建物の西側、南側の沈下が多いようにみられました。建物の周辺、駐車場には多くの噴砂がみられました。

 相馬中村城址より東側、相馬駅までの地域では、建物の外壁や瓦、玄関部分など、また路面の変状などの被害が目立ちました。堀には玉石の護岸の破損、周辺の道路の抜けあがりなどがみられました。建物同士が衝突したとみられる外壁や雨どいの破損などもみられました。

⓻調査全体を通して
 2021年2月の地震に引き続き、1年ぶり程で現地を訪問しました。昨年の地震でも相馬市では震度6強を記録していますが、家屋や構造物の被害は今回の地震の方が目立ったように思われます。特に、松川浦北側〜北西側の丘陵地斜面における擁壁、ブロック塀に関連した被害が顕著でした。

 今後、住宅や構造物等の専門家による、より詳しい調査が進むものと考えられます。過去の地震と同様に、地盤が軟弱とみられる地域、高低差のある敷地での既存擁壁を使用した宅地、また築年数の古い住宅では地震による被害が大きくなることが想定されます。

 今後、全国発生が懸念される大きな地震では、古い耐震性の低い住宅の被害、擁壁、ブロック塀の被害、埋立地や低地では液状化、軟弱な地盤では地震の揺れが増幅される可能性など、また盛土地での被害が拡大する懸念など、危惧するポイントは比較的わかってきている者が多いです。今後の地震防災、土地選び、家づくりに役立て、どうか「関係のないこと」と思わないように頂きたいと考えています。

ご注意点
・本内容は、現地において確認することができた被害・変状を目視したものに基づきます。
・横山個人の調査によるものであり、所属先の統一見解ではありません。
・2021年2月の地震による被害、2011年3月の東北地方太平洋沖地震による被害、地震以外の原因による被害等が混在している可能性があります。
・掲載に差し支えのある写真やなどがありましたら、削除致しますのでご一報ください。
・このページの内容を防災、減災を目的とした報道、調査研究目的にご利用頂くことは阻害いたしませんが、出典、URLを明示頂けますと幸いです。
・内容に関してお問い合わせや現地の情報などがありましたら、ご一報ください。

地盤災害ドクター 横山芳春

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