2019年6月18日に発生した山形県沖を震源とする地震(現地調査速報)

2019年6月20日 ※別途公開していた報告書をnoteに転記したものです。
横山 芳春 博士(理学)

①概要
 2019年6月18日22時22分に、新潟県村上市府屋で震度6強を記録する地震(山形県沖を震源とする地震、以下当地震)が発生しました。被災された方には心よりお見舞いを申し上げます。当地震の震源は山形県沖の日本海で震源の深さは約14km、地震の規模はマグニチュード6.7とされる。北米プレートとユーラシアプレートが接し、歴史的にも津波地震の多い日本海東縁部におけるひずみ集中帯で発生したと考えられます。
 筆者は千葉県内の自宅において震度6強の地震発生を知って情報を収集し、すぐに現地に向けて車で出発。6月19日未明には新潟県に入り、初動の現地情報収集として液状化被害、津波状況、家屋および構造物被害の初動現地確認を目的とした調査を実施することとしました。調査の行程は、外環道、関越道を経由して新潟県新潟市東区沿岸から村上市へ、村上市からは国道7号線にて同市北部の府屋に出て、鶴岡駅周辺の鶴岡市街地まで調査を実施しました。に村上市府屋から鶴岡駅の拡大図を示します(図1)。


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図1 調査地点図(村上市府屋~鶴岡駅)

②地震の特徴
 防災科学技術研究所Hi-net観測網の報告によると、当地震は北西―南東圧縮の逆断層型の地震で、観測された最大加速度はK-NET温海(YMT004)における653gal(三成分合計)とされる、同地点における強震波形(図2)によると継続時間は20秒ほどです。
 観測された震度は、新潟県村上市府屋で震度6強、山形県鶴岡市温海川で震度6弱、山形県鶴岡市温海、鶴岡市道田町で震度5強とされています。

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図2 KIK-net温海における強震波形

③地盤の液状化
 概ね震度5強以上の地震が発生した際、地盤の液状化がみられることがあります。新潟市東区から北区、聖篭町、村上市、また鶴岡市の海岸部を車で予察的に確認した限りでは、目立った液状化痕跡は認められませんでした。
 一方で、個人のSNS投稿および報道で「液状化か?」と報じられた鶴岡中心部のJR鶴岡駅南側に位置する駐車場では、顕著な液状化現象が発生していました(図3)。地中から砂と水が吹き上げた場所の地表にみられる噴砂孔が列をなし、砂が盛り上がった丘状の噴砂丘が複数個所で認められ、地盤の液状化であると判断される。特に車がスタック(筆者現場到着15分前に救助)していたとされる地点では、大量の泥水が噴出していたが、噴砂丘は、駐車場内においてこのような泥水のない地点においても認められました。
 この地点は鶴岡市を南北に流れる赤川の氾濫原に位置し、液状化しやすい地形条件といえます。鶴岡市液状化マップでは、市内中心部全域が液状化の「可能性は高い」とされていました。


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図3 鶴岡駅南側駐車場における液状化

 ただし、駐車場近傍の道路やビル周辺を簡単に歩いてみた範囲では、顕著な液状化の現象は認められませんでした。この駐車場のある場所は、SNS経由でいただいた情報提供によると、地上5階、地下1階建ての商業施設がかつてあった場所とのことで、この地下階を埋め戻す際の土砂が、液状化しやすい粒のそろった砂分の多い材料で十分な締固めが行われていない場合、液状化が極めて発生しやすくなる可能性があります(埋立地や埋め戻し地がすべて液状化の危険性が高いわけではありません)。
 この場所で地表にみられる噴砂を採取して確認すると(図3右下)、水気をよく含んだ海浜の砂のような粒揃いの良い(淘汰の良い)、泥分の乏しい細かい砂(細砂)でした。必ずしも、地上に噴き出した噴砂と地下で液状化した層そのものの土質は一致しない(より粗い礫や砂が含まれるケースがある)場合もありますが、噴砂を見る限りでは液状化しやすい淘汰の良い細かい、またゆるい砂を含んだ層があったものと考えられます。


④津波
 当地震では、地震発生直後に山形県から新潟県、石川県能登に一時津波注意報が発令され、新潟港で10㎝の津波が観測されています。地形上、津波が増幅されやすいと考えられる、新潟市で日本海に注ぐ阿賀野川の河口部で津波痕跡の有無を観察しました。阿賀野川河口においては、右岸側(東側)から伸びる河口砂州の影響で阿賀野川に押し寄せる津波が左岸(西側)側に増幅した影響もあったものか、左岸のヨシ原海岸側において津波らしき痕跡が認められました(図4)。
 この地点では、大きくヨシ原が上流側になぎ倒されており、海岸側ではヨシなど植物の根元側が津波によって海側からもたらされたと考えられる砂に数㎝以上が埋没している様子が観察できました。ただしヨシ原はある一定の地点からはなぎ倒されておらず、その下部に漂着物が集積しており、エネルギーが失われた津波はヨシをなぎ倒せずに間を抜けて消散していったものと考えられます(図4左上、右上)。
 図4左下は海側から上流側を見ていますが、上流向きの漣痕(カレントリップル)が明瞭であり、若いヨシでは葉の先端部近くまで砂に埋没した様子もうかがえました。
 津波の特徴は、陸方向への押し波と、海方向へ戻っていく引き波です。この場所の観察からは押し波がヨシ原で受け止められて消散していき、顕著な返し波がみられなかった可能性が考えられます。

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図4 新潟市阿賀野川河口における津波とみられる痕跡

 当地震で観測された津波は10㎝程でしたが、地震調査推進本部のまとめによると、過去の山形沖地震による津波は、1833年に発生した庄内沖の地震(M7.7)では「山形県沿岸の湯野浜~鼠ヶ関、佐渡の相川、能登半島の輪島を5~8mの高さの津波が襲い、多くの溺死者が出ました」とされております。もう1ランク大きい地震であった場合、巨大な津波が押し寄せていた可能性もあり、注意を要すると考えられます。

⑤建物および構造物の被害
 建物および構造物の被害については、新潟市から村上市、鶴岡市の全地点で車から目視、又は徒歩による目視調査を実施しました。
とくに、震度6強を記録した村上市府屋付近においては集中的な調査を実施しました。この結果、ブロック塀の落下、はらみ出しが3件みられました。家屋については瓦の落下、外壁の落下やひび割れなどが多数みられました。なお、同様の被害は北上して鶴岡市鼠ヶ関、早田、小岩川、温海、温海温泉などの集落にもみられました。
 ブロック塀などについては、府屋駅北の大川河口南側における海岸低地と台地との境界部における被害が目立った(図5)。台地に上ってゆく道の北側(図5の上2枚)と、南側(図5の下4枚)で被害が目立ちました。
 道の北側(図5の上2枚)では、斜面に沿った住宅において、合わせて2mを優に超える高さの塀となっており、詳しい構造は不明であるが、下部の塀の上に8段積みのブロック塀がみられ、一部ブロック塀の一部落下及びはらみ出し、ひび割れがみられました。

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図5 新潟県村上市府屋におけるブロック塀などの被害

 道の南側(図5の中段、下段の4枚)では、ブロック積み擁壁の上に、4~5段のブロック塀が乗っており、その一部が斜面側に向かってズレが発生していることがわかります(図5中段左)。さらに、ブロック塀の背後には地盤に大きなひび割れが発生しており、家屋の一部にひび割れが延伸している様子もみられ、家屋への影響も懸念されます。高さ6段未満(高さ1.2m未満か?)のブロック塀であるが、控え壁は塀の中央側には見ることができませんでした。
 その他、府屋駅すぐ東ではブロック塀最上段の落下がみられたほか、鶴岡市小石川では、5段積みブロック塀が縦方向に下段から最上段まで縦に割れている様子が確認できました。

 家屋の被害としては、村上市府屋(図6)、鶴岡市小岩川(図7)など、村上市北部から鶴岡市南部では瓦の落下、外壁の落下やひび割れ等が目立ちました。確認した範囲では、家屋の倒壊や大きな損壊は認められませんでした。これら海岸部においては都市部の新興住宅街とは異なり、古くから続いてきた集落とみられることから、比較的築年数の古いと考えられる木造、在来工法における住宅被害が目立っていました。

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図6 新潟県村上市府屋における家屋の被害

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図7 山形県鶴岡市小岩川における家屋等の被害

 このような瓦の飛散や、ブロック塀の破損は比較的短周期成分の地震動によるとされ、奇しくも昨年の6月18日に発生した大阪北部地震(M6.1)でも同様の被害が目立っていました。築年数の古いと考えられる木造、在来工法では固有周期が伸びる傾向があり、かつ地震の継続時間もさほど長くなかったことから、建物との共振による被害は顕著ではなかったとも考えられる。家屋被害については、建築分野などの専門家による調査、見解を待ちたいところです。


⑥その他地震に関する状況等
 現地においては、当地震の翌朝までに大半のライフライン復旧が進み、鉄道の運休などのほか大きな混乱などは感じられませんでした。死者・行方不明者や現時点で家屋の倒壊などはなく、大きな余震も発生しておらず、村上市北部や鶴岡市南部においても店舗等も営業していたことから、大地震発生直後にガソリンスタンドへの長蛇の列や急激な品薄、買い占めという事態は発生しておりませんでした(図8)。
 車で住宅から避難された方も多くないとみられることから、鶴岡市内のガソリンスタンドで給油した際にも全く並んでいる列はなくむしろ空いている状況でした。


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図8 山形県鶴岡市のガソリンスタンド

 なお、当地震に関する報道関係者様への対応としては、フジテレビ Live News it!に情報提供および地盤・地震の専門家としてのコメント、日経BP社の日経X TECH様よりインタビュー記事のための電話取材と写真提供を実施しています。


地盤災害ドクター 横山芳春

<SNS>
https://twitter.com/jibansaigai

<経歴>
https://note.com/yokoyama1128/n/ne906bc5252e4

<研究論文など>
https://note.com/yokoyama1128/n/na6e545d44d9b

<メールアドレス>
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