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『聖書』に見る初期キリスト教の信仰

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記事一覧

初期キリスト教信仰について(おわり)

初期キリスト教信仰について(おわり)

パウロの受難物語

福音書においては、イエスが逮捕されるところから内容的には「イエスの受難」を主に取り扱うようになります。使徒言行録では、あたかも「イエスの受難」を扱うように、21章においてパウロが逮捕されてから、最後28章にかけては、「パウロの受難物語」のような印象を受けます。ただし、ローマについてからのパウロがどうなったかについては、紀元150~200年頃に書かれた新約聖書外典の「パウロ行伝」

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初期キリスト教信仰について②

初期キリスト教信仰について②

 さて、早速、初期キリスト教信仰についてみていきます。

 まず、以下のパウロの年表と新約文書の年表をご覧ください。わたしたちは、「新約聖書」について、キリスト教の始まりから既にそうであったかのように感じると思いますが、たとえば「新約聖書」の最初の文書は「マタイによる福音書」です。これは、「マタイによる福音書」が「新約聖書」の中で最も古い文書であり、次いで「マルコによる福音書」がその次に古いという

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初期キリスト教信仰について⑮

初期キリスト教信仰について⑮

問題宣教者アポロ2

 使徒言行録18章24節から、「アポロ」という人物が登場します。このアポロについては、使徒言行録とパウロの直筆の手紙である「コリントの信徒への手紙1」にその名前が登場する人物として知られています。以下、アポロについてわたしのブログでも紹介していますので、そちらもご覧ください。

http://blog.livedoor.jp/yokoya2000/archives/79829

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初期キリスト教信仰について⑯

初期キリスト教信仰について⑯

パウロのエルサレム行き

 使徒言行録20章において、パウロの行動を説明する箇所において「わたしたち」という、執筆者があたかもパウロの同行者であるかのような記述が良く出てくるようになります。
 この20章以下は、どちらかというと、パウロにおける「受難物語」の導入部分みたいなもので、パウロはエフェソの教会の人たちに対して、「”霊”」による導きによってエルサレムに上ることを伝えます。
 パウロはここで

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初期キリスト教信仰について⑭

初期キリスト教信仰について⑭

アキラ、プリスキラとの出会い 使徒言行録18章では、パウロがコリントに来た時に、パウロよりも早く、既にローマでキリスト教信仰を伝えていたアキラ、プリスキラ夫妻と、コリントで出会い、意気投合します。
 ポントスとはトルコ北東部の黒海に面する地方で、こうした地域の人がローマに仕事で移り住むというような交流が当時すでに存在していたことを示しています。
 

 当然、このアキラとプリスキラは「ギリシャ語を

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初期キリスト教信仰について⑬

初期キリスト教信仰について⑬

パウロの同伴者とは何者なのか? パウロはその宣教旅行において何人かの人物と共に移動しています。たとえば、使徒言行録13~14章における、いわゆる「第一回 宣教旅行」においては「バルナバ」が同伴者でありました。
 このバルナバは、キプロス島出身のギリシャ語を話す離散のユダヤ人であり、初代エルサレム教会の使徒たちによって承認され、アンティオキア教会の指導者として、エルサレム教会の人たちによって派遣され

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初期キリスト教信仰について⑫

初期キリスト教信仰について⑫

バルナバとの確執後、エルサレム教会のシラスに頼った宣教活動 使徒言行録15章において、パウロはバルナバとの信仰的な違いが決定的になり、バルナバではない別の人物、「シラス」と共にシリア州・キリキア州を回ったとあります。この「シラス」は前回触れたように、「①パウロの弟子であるシラス」である可能性と、「②エルサレム教会で指導的な立場にあるシラス」と二通りの可能性があり、比較的新しい写本では②の人物である

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初期キリスト教信仰について⑪

初期キリスト教信仰について⑪

アンティオキア教会と初代エルサレム教会との確執 使徒言行録15章は、歴史的にも重要な最初の「教会会議/公会議」がエルサレムで開催されたことを記念するものですが、それは建設的なものであったというよりは、この事によって、いよいよパウロと初代エルサレム教会との信仰的な軋轢があちこちに知られるようになるきっかけになった可能性を示しています。
 アンティオキア教会とエルサレム教会とは、地図で言えば以下のよう

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初期キリスト教信仰について⑩

初期キリスト教信仰について⑩

アンティオキア教会での出来事 現在はトルコ領アンタキヤですが、新約聖書の成立した時代においてはシリアのアンティオキアと呼ばれていた町に、キリスト教の歴史で、最初に「キリスト者(クリスティアノイ)」と呼ばれる人たちが出たのがこの町でした。

・このアンティオキアで、弟子たちが初めてキリスト者と呼ばれるようになったのである。(使徒言行録11:26c)

 そして、このアンティオキアにおいて、いわゆる「

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初期キリスト教信仰について⑨

初期キリスト教信仰について⑨

「ヘブライ語を話すユダヤ人」の教会と「ギリシャ語を話すユダヤ人」の教会 使徒言行録6章から8章にかけての復習ですが、「初代エルサレム教会」がエルサレムにおいて「初期ユダヤ教」の人たちから迫害を受けるようになりました。そして、「ギリシャ語を話すユダヤ人(ヘレニストと言う)」は、エルサレム以外の町に存在したユダヤ人による会堂へと、自分たちの信仰生活を維持するために広がっていきます。その意味では、これは

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初期キリスト教信仰について⑧

初期キリスト教信仰について⑧



初代エルサレム教会が抱えた問題・そのころ、弟子の数が増えてきて、ギリシア語を話すユダヤ人から、ヘブライ語を話すユダヤ人に対して苦情が出た。それは、日々の分配のことで、仲間のやもめたちが軽んじられていたからである。(使徒言行録6:1)

 使徒言行録には記載がありませんが、およそ「初代エルサレム教会」における一つの権威として「生前のイエス」に従っていた人たちの存在がありました。パウロの直筆の手紙

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初期キリスト教信仰について⑦

初期キリスト教信仰について⑦



 さて、キリスト教の初期の歴史を知る上で、「使徒言行録」は唯一の資料ということがあります。しかし、「使徒言行録」は、初期のキリスト教の歴史について断片的にしか情報を留めておらず、しかも、「理想化された歴史」として、「ルカによる福音書」がそうであるように、「救済史」的なかたちで物事がつづられています。

 そのため、「使徒言行録」から「歴史的情報」を取り出すときには注意が必要です。書かれている事

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初期キリスト教信仰について⑥

初期キリスト教信仰について⑥



福音書に見る信仰のかたち 既に、見てきたように、新約聖書にふくまれる4つの福音書から、その特徴的な人物を挙げると「洗礼者ヨハネ」と「歴史的イエス」とが主なもので、歴史的イエスの十字架の死後、復活の第一証人として「マグダラのマリア」がいます。また、福音書ではほとんど見向き去れませんが「主の兄弟ヤコブ」という、「ガラテヤの信徒への手紙」に登場する「歴史的イエスの兄弟」にして、初代エルサレム教会の重

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初期キリスト教信仰について⑤

初期キリスト教信仰について⑤

 まず、わたしがまとめた洗礼者ヨハネからパウロに至る、信仰の変化についての図を以下にしめします。

 この図は、右上を起点として、左に行くほど、今日のキリスト教信仰に近くなり、下に向かって歴史的に新しくなるよう、大雑把に配置してあります(厳密ではありません)。

4つの福音書の大まかな流れ では、まずキリスト教信仰の起点は何かと言えば、4つの福音書に共通して記述される「洗礼者ヨハネ」です。「キリス

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