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大英(ドロボウ)博物館について、プロガイドの私が思うこと。

 最近、洗濯物をたたみながら、YouTubeのUFOキャッチャーゲーム動画をみるのが楽しいです。特にハーゲンダッツの乱獲シーンにトキメキます。
 
 こんにちは。方向オンチの英国ガイド、露原耀袴です。今日も迷っています。

 たまにはガイドらしい記事を書いてみようと思いまして。なにせ去年三月のロックダウンから、まったく働いていませんので、確実に仕事を忘れつつあり、危機を感じているわけです。
 そんなこんなで、リハビリも兼ねて、ガイドらしいトピックをということで、ロンドン観光の王道、ガイドとして絶対避けては通れない観光スポット、大英博物館について書いてみたいと思います。


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(大英博物館。正面入り口)

 世界で最も有名な博物館の一つです。コレクションの数は約800万点! 随時ディスプレイしてあるものだけでも、8万点だそうです。たった1パーセントしか表に出ていないわけですね。残りの99パーセントは、地下の倉庫にしまってあったり、よそに貸し出されたりしているそうです。
 
 大英博物館が設立されたのが、1753年、その三年後の1759年から一般にドアを開いています。その頃からずうっと今日まで、入場無料です。(特別展は別ですが)。
 無料で見学できることもあって、こちらの博物館はいつも世界中からのお客様でいっぱいですが、そんな人たちを狙う、スリや置き引きなど、違法な職業の人たちも多く出入りしています。と、いうか溜まり場になっているんですね。座るところもトイレもあるし、ちょっと高いけどお茶も飲めるし、暖かいし、冬場には最適な仕事場なのかもしれませんね。

 あ、タイトルの大英(ドロボウ)博物館というのは、そういう意味ではありません。
 世界中のお宝を略奪してできた博物館、という意味でつけられたあだ名のことです。


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(大英博物館グレートコート)
 
 例えば、エジプトのロゼッタストーン。
 大英博物館の目玉展示物です。800万点のお宝の中でもトップクラスのお宝!
 時は紀元前196年、若きファラオ、プトレマイオス5世の即位記念日の為に作られた石碑の一部です。
 失われた古代エジプト文字、ヒエログリフを解読できるようになったのは、このロゼッタストーンが発見されたからです。つまり、古代エジプトの謎を解き明かす、重大なカギでした。

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(ロゼッタストーン。博物館内にレプリカもありますが、そちらはケースがなく、ご自由に触っていただけるようになっています)

 実はこちら、発見したのはフランスのナポレオン軍で、当然、自分の国に持って帰ろうとしたのですが、その前にイギリス軍に敗れてしまうので、泣く泣く戦利品を引き渡したというわけです。
 これ、フランスが勝っていたら、今頃はルーブル美術館とかに展示されていたんでしょうかね? ロゼッタストーンが発見されたのは、ルーブルが開館して間もない頃ですから、本当に持って帰ってこれたなら、大手広げて迎えてくれたんでしょうねえ。 

 数年前にエジプトを旅行して、カイロ博物館で、ロゼッタストーンのレプリカ(イギリス寄贈!)を前に、現地のガイドさんの案内を受けたときは、生きた心地がしませんでしたねえ。口が裂けても、ロンドンで方向オンチガイドしている、とは言えません。

 

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(ラムセス二世の胸像 (photo from Wiki Commons) 穴を開けてロープを引っ掛けて像を倒そうと試みたあとが、左の腕の付け根に残っています)

 こちらは、ロゼッタストーンから、すぐ右手に展示されている、こちらもエジプトからきた彫像です。エジプトのファラオ、ラムセス二世の胸像です。
 こちらもロゼッタストーンと同様、ナポレオン遠征隊に発見されたけれど、イギリスに負けて取り上げられてしまったお宝です。
 胸像って言ってますけど、元は全身像だったんですよね。それを無理矢理動かそうとして、爆薬仕掛けて、今の姿になっちゃったんですけど。


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(パルテノン神殿、正面の三角屋根を飾っていた彫刻の一部です。唯一頭部が残っているのが、お酒の神様ディオニュシオス。ローマで言うバッカス神です)

 次はギリシャはアテネ市、アクロポリスの丘の上に立つ大神殿、パルテノン神殿に飾られていた彫刻群です。英国貴族のエルギン卿が持ち帰ってきたので、「エルギン・マーブル」と呼ばれることも多いです。一応許可をもらって、あとお金も払っています。ただ、この許可はその当時、ギリシャを支配していたオスマン帝国のスルタン(皇帝)からでした。ですので、19世紀にギリシャが独立してから、返還要求が出されるようになったわけです。

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(パルテノン神殿、内部の柱の上部に飾られていたフリーズ浮彫。神殿の主である女神アテナイをお祭りする「パンアテナイア祭」に参加する、アテネ市の兵士たちです)

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(パルテノン神殿、メトープ。外側の柱の上、欄間のようなところにはめ込まれたレリーフ。人間であるラピス族と、下半身が馬のケンタウロス族との戦いがかかれています)

 先ほどのロゼットストーンの方も、当然、エジプトから返還要求が来ています。特に今、カイロの郊外に大きな博物館を立てているところです。新型コロナウィルスの影響で、工事が遅れているようですけれど、この新しい博物館の為にも、ぜひ返して欲しいところでしょう。

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(イースター島のモアイ像。「ホア・ハカナナイア」。目立つので、待ち合わせ場所に便利です)

 こちらは、イースター島のモアイ像です。ホア・ハカナナイアという名前があります。19世紀にイースター島に立ち寄った、イギリスの戦艦が、持ち帰ってきたものです。4トンくらいあるのですが、よく持って帰ってこれたものです。
 こちらは、2018年から返還要求がされています。どうなるのかはまだわかりません。話し合いは続いています。

 まあ、そんなこんなで、ドロボウ博物館だとか、略奪コレクションだとか言われている次第ですが、大英博物館側からの主張は、
1)うちに来ていなかったら今の状態にない。ヘタしたら破壊されていたかもしれない。
2)うちは世界でも最高レベルで管理と保存しています(修復含む)。
3)うちは「人類みんなの博物館」世界中の誰もが自由に見学できるように、無料で解放しています。

と、言ったところです。(意訳あり)
 まあ、盗人猛々しい、と言われても仕方のない主張ではあります。しかし、口がうまいなあ。しれーっと論点をすり替えて来ているところなんて、さすが外交上手! と思わなくもないです。
 
 多分、私と同じイギリス公認ガイドの多くは、本音はどうあれ、イギリス側の主張に同調するスタンスをとっていると思います。ガイド養成学校でもそう習いますしね。
 
 でも方向オンチで、常に迷っているガイドの私は、イギリス側の主張に賛成しないし、だからと言って、コレクションを略奪品と呼んだりもしません。

 だって私にそんな権利はないですから。

 毎日のように大英博物館に、お客様をご案内して、お金をいただいて、これでご飯を食べていますから。
 端的に言えば、私もドロボウの仲間なんですよ。
 
 エルギン・マーブルやモアイの返還要求が来ていても、向こうの気持ちはわかるけれど、当然の要求だと思いますが、本音は
「返還されちゃったら、困るよなあ」
と、いうところです。だって、返してしまったら、お仕事減りますもの。ご飯食べれなくなりますもの。子どもたちの教育費をためれなくなりますもの。

 でもね、「世界中から略奪して来た、大ドロボウのお宝コレクション!」と大きな声で言いながら、たくさんお写真をとって、もちろん無料で観賞して行かれるお客様には、「なんだかなあ」と、思うのですよ。

 こんなことをして、イギリスは、イギリス人はひどい連中だ、って、鬼の首を取ったように言われますけど、あなた、そのひどいやつらの盗品コレクションで、たくさんお楽しみいただいたじゃありませんか? 

 もちろん、そんなことは言いませんが。でもずっと言いたかったので、noteに書かせてもらいました。

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(ロゼッタストーン型のUSBメモリ。大英博物館内のショップで販売しています。大人気のお土産。£14.99 4GB(!) 個人的にはお土産なら、ヒエログリフで書かれたピーターラビットの絵本です。こちらもショップで取り扱っています)

 それでは、コロナが去って、自由に旅行ができるようになったら、イギリスにも来てください。その時にはぜひ、イギリスが誇る大博物館をご見学くださいね。

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