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神影鎧装レツオウガ 第百四十一話

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Chapter15 死線 09


 もうもうと立ち上る爆煙。シールドクナイがもたらしたそれを見据えながら、辰巳《たつみ》はコンソールを操作。肩部ジョイントから霊力線が延び、幾重にも分岐。編み上がった針金細工のような骨組みは、一瞬で新たなシールド・スラスターへと再構成される。
 軽くシステムチェック。動作、パラメータ、問題一切無し。
「よし」
 唯一懸念があるとすれば、やはりしばらくの間防御がおろそかになってしまう点だろう。シールド・スラスターを構成していた霊力を、シールドクナイは全て炸裂術式として転用してしまうからだ。
 無論、その分のメリットもある。威力、即効性、意外性。どれもシミュレーション通りの結果だ。普通の大鎧装が相手なら、既に相当のダメージを受けているだろう。
 だが。
「成程、成程。実に迫力のある花火じゃあないか」
 残念ながら今オウガ・ヘビーアームドが相対する敵機は、普通の大鎧装ではないのだ。
「無傷、かよ」
 歯噛みする辰巳。晴れた爆煙の向こうから現われた敵機――ネオオーディン・シャドーには、損傷どころか掠り傷ひとつ見当たらない。掲げられた左手、そこから投射される半透明の霊力障壁が、炸裂術式の破壊を全て遮断してしまったからだ。
「何なんだ、そりゃ。新手の防御術式か」
「そうとも。かつてキミが戦った旧型には搭載されていなかったルーン、門壁《スリサズ》さ。実に見事な向上ぶりだろう? もっとも……」
 スリサズを解除しつつ、オーディンは右手を挙げる。貫通したシールドに固定され、爆発に飲まれたグングニル・レプリカ。辛うじて形は残っているが、障壁外に出ていた部分は見事にボロボロだった。
「……それは、そちらも同じらしいね」
 言いつつ、ギャリガンは機体を操作。緩やかに着地した後、ネオオーディン・シャドーは右腕を無造作に振るう。
 びょう。風切る長槍。たったそれだけの動作のうちに、グングニルは元の形を取り戻していた。再構成されたのだ。シールド・スラスターと同じく、されど段違いの速度で。この一点だけで機体と、何より術者の差が分かろうというものだ。
「さて。では仕切り直しだ」
「そのようだな」
 未だ煙と炎を吹き上げるスレイプニルを横手に、オウガ・ヘビーアームドとネオオーディン・シャドーは対峙する。カメラアイ越しに交錯する闘志。片や拳。片や長槍。視線と視線が絡み合い、ぶつかり合う。
 息の詰まるような均衡。頂点に達した時、それは崩れた。
「はッ!」
「しッ!」
 まったく同じタイミングで、まったく同じ方向に振るわれる拳と長槍。
 しかして、それらは攻撃ではない。
「イツツジタツミぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
「ザイイイイドギャリガアアアアアアアアン!」
 迎撃である。
「聞こえて――!」
「います、よっ!」
 オウガの拳はグレンが駆るフォースカイザーの飛び蹴りを、オーディンの槍はハワードが駆るアメン・シャドーⅡの鎌を、それぞれ打ち払う。衝撃。びりびりと空気を振るわせながら、飛び来たアメン・シャドーⅡとフォースカイザーは着地。めいめいが定めた仇敵を睨み据える。
 一秒。
「オマエはオレがあああああああああッ!」
「引導を渡してやるぜェェェェェェェッ!」
 突貫。打突の渦。斬撃の嵐。狂乱、と形容する他無い連撃に晒されるオウガとオーディン。だがその対応には明確な差が生じていた。
「オゥルぁあ!」
 フォースカイザーの中段蹴り。槍のようなそれをサイドステップで躱しつつ、オウガは反撃に転じ――られない。背部ウイングの生み出す大推力が、フォースカイザーの向きを強引に変える。隙を揉み潰す。回転する機体。その運動エネルギーを十全に乗せた斬撃が、オウガを襲う。
 防御。一瞬過ぎった選択肢を、辰巳は即座に捨てる。見るからに強烈な撃力と、何よりあの太刀の閃き。止められるとは到底思えぬ。たとえ利英《りえい》謹製のシールド・スラスターだとしてもだ。
「だったら」
 辰巳はシールド・スラスターを噴射に使う。間合いを詰める。狙うは刃の更に内側。密着状態ならば此方が有利――!
「と、思うよな?」
 何の未練も無く、フォースカイザーは太刀を手放す。明後日の方向へ飛んでいく霊力武装。そして太刀を握っていた腕は、そのまま手刀へと形を変えており。
「ぐ、っ!」
 歯噛みし、辰巳は左上腕の複合盾で防御。衝撃。軋む機体。ダメージ自体は軽微。だが複合盾は損壊。再構成するまでツインペイル・バスターは撃てまい。
「オラオラどうしたこんなモンかァ!? アァ!?」
 当然グレンはこれを逃さぬ。拳打、拳打、拳打。蹴撃、蹴撃、蹴撃。荒々しい、しかし硬軟織り交ぜた打撃の嵐が、オウガを押していく。
「ち、ぃ!」
 歯噛みする辰巳。技量は互角の筈だが、機体性能――増加装甲の重量がため、僅かに後れを取っている。この状況を、打開する為には。
「セット――」
「そォこだあァ!!」
 だがそんな辰巳の声は、グレンの咆哮を伴う回し蹴りに塗り潰された。

◆ ◆ ◆

「引導を渡してやるぜェェェェェェェッ!」
 打突の渦。斬撃の嵐。狂乱、と形容する他無い連撃に晒されるオウガとオーディン。だがその対応には明確な差が生じていた。
「うルルァあ!」
 空を切り裂くアメン・シャドーⅡの鎌。音速に迫るその一撃を、オーディンの槍は易々と弾く。そして返礼とばかりに突きを差し込む。
「まだまだァ!!」
 ハワードは弾かれた反動にあえて逆らわず、むしろスラスター推力をも加算。アメン・シャドーⅡはコマのように高速回転し、グングニルの刺突を回避。そのまま存分に遠心力の乗ったカウンター斬撃を、ネオオーディン・シャドーへと叩き込みに行く。
「門壁《スリサズ》」
 しかしてそれは届かない。スリサズ。シールドクナイすら止めた鉄壁の防壁を、ただの斬撃が破壊出来る筈も無く。
「うがッ!?」
 弾かれる一撃。崩れる体勢。その間隙を、当然ギャリガンは見逃さぬ。
「隙、ありッ」
スリサズ解除、同時に振るわれる長槍グングニル。振り下ろし。とった、という直感をギャリガンは即座に捨てる。
 確かに今のアメン・シャドーⅡは無防備だ。仰け反るような姿勢。特に左膝がこちらへ突き出されている。I・Eマテリアルの輝いている膝が。
「あちゃあ、僕とした事が」
 ギャリガンは舌打つ。名前こそ前身機と同じだが、今のアメン・シャドーⅡはオウガローダーの予備パーツを軸とした、言わばオウガの兄弟機だ。かつてパイルバンカーが装備されていたそこに、アメン・シャドーⅡが何も搭載していない筈が無い。
「貰ったァ!」
 案の定、それは発動した。
 轟と空気を焼き焦がし、両膝から放たれる一対の光線。名をコロナ・バスター。太陽神と繋がりが深いトゥト・アンク・アメン、その権能を応用した超高熱の砲撃術式である。
「むう!」
 しかも、アメン・シャドーⅡはコロナ・バスターの反動でやや下がっている。グングニルの斬撃範囲外だ。ギャリガンは即座に機体を捻る。スラスターを噴射し、二条の光線をかいくぐる。バックステップ。距離を取る。
 ハワードもあえて追わない。防御の門壁《スリサズ》に、攻撃の雹嵐《ハガラズ》。加えてグングニル・レプリカに、機体そのものの高い性能。それら以外にもまだまだ手数があるだろう。おいそれと攻め込める相手ではない。隙を引き出す一工夫がいる。
 故に。
「セット――シューター!」
『Roger Corona Shooter Ready』
 ハワードはアメン・シャドーⅡの背部光輪を、コロナ・シューターを起動。霊力が急速充填され、表面に術式の紋様が走り――と、そこで唐突にアメン・シャドーⅡは鎌を水平に構える。石突に術式で小さな竜巻を発生させ、真横に突き出す。
 直後、その石突がオウガの背を受け止めた。辰巳はフォースカイザーの蹴りにあえて逆らわず、飛ばされる事で威力を減衰させた。そうして、ここまで飛ばされてきたのだ。
 霧散するクッション代わりの竜巻を見やりつつ、ハワードは笑う。
「おう、大活躍中みてェじゃねーかエースのファントム4サンよ。手伝ってやろうか?」
「……お心遣い、痛み入るね」
 体勢を立て直し、アメン・シャドーⅡと背中合わせになるオウガ。その肩越しに、ハワードはのしのしと近付くフォースカイザーの機影を見た。
 そして、オウガの背。光を蓄えているホーミング・シューターの砲口をも見た。
 一つ、ハワードは閃いた。
「ハン、考えてるこたァ同じか」
 ハワードは視線を戻す。真正面。フォースカイザーほど露骨ではないが、それでもじりじりと間合いを詰めつつあるネオオーディン・シャドー。
 背中合わせ。挟み撃たれる恰好。
 だが。
「おいファントム4、ブチかますぞ。合わせろ」
「了解。しかし、おかしな話だ」
「ア? 何がだ」
「こうして肩を並べてる事自体が、だよ――ファントムX殿!」
「ハ! 違えねえ!」
「何をくっちゃべって――」
 やがる。グレンがそう言い切るよりも先に、二人のパイロットは叫んだ。
「ホーミング・シューター! シュート!」
「コロナ・シューター! 行けいッ!」
 発動する術式。火を噴く砲口と光輪。
 幾状もの光雨が、辺り一帯を薙ぎ払った。

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【神影鎧装レツオウガ 裏話】
この辺りの展開を考えてた時の色々(2)

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