09_楽園13_ヘッダ

神影鎧装レツオウガ 第七十六話

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Chapter09 楽園 13


 時間は少々巻戻り、初出撃した迅月《じんげつ》と赫龍《かくりゅう》がグラディエーター部隊を撃破した直後。
 遙か上空、放物線を描いていた金属立方体が唐突に爆発した。グレンのトルネード・ブラスターが直撃したためだ。
『なんじゃあ?』
 パイロットに連動し、首を捻って訝しむ迅月。丁度その横合いから、大鎧装サイズの大型車輌――オウガローダーが海面下から現われた。
 今までブリーフィングをしていた、現在は風葉《かざは》や利英《りえい》達が待機している格納庫。備え付けのカタパルトを用いて、一気に跳びだしたのだ。
 陽光を反射するその大型車輌に、巌《いわお》は頷く。
『良しファントム3、手筈通り頼むぞ』
『ああ、任せておけ』
 一拍遅れて、同じように海面下から現われるディスカバリーⅢ部隊。その出現を背後に、オウガローダーは加速した。ロケットの如くに。
 轟、轟、轟。
 車体後部から迸る、凄まじい霊力光。オーバーブーストをかけた疾走の行き先は、周知の通り辰巳《たつみ》が囚われているEフィールドだ。
「社長の予測通り、ですね」
 そうした一連の光景に、サラはひっそりとつぶやく。直後、金属質の輝きがメインカメラ越しに閃いた。
 見上げる。薄墨の空に踊るのは、軽く十を超える金属立方体の編隊。Eフィールドから射出された、グラディエーター部隊の第二陣である。いよいよ近付いて来たのだ。
 グレンに撃墜された僚機なぞ気にも留めず、第二陣は放物線の頂点を超える。自由落下が始まる。
 その最中、金属塊が人型へと形を変えた。更に霊力の装甲をも展開、戦闘態勢を整える。
『落ちながら変形した!?』
『行動パターンを変えて来ましたか!』
 動揺が走る大鎧装部隊へ、上空のタイプ・ブルーとタイプ・ホワイトは照準を向ける。
 響くロックオンアラート。零壱式《れいいいちしき》、ディスカバリーⅢ、どの大鎧装も回避、あるいは防御行動を取ろうとする。
 だが、オウガローダーだけは動きに動揺が無かった。上空からどれだけ弾幕が降り注ごうと、その疾走は些かも揺るがない。
 炸裂、炸裂、炸裂を撒き散らす霊力の弾丸。その照準を急加速で振り切り、あるいは急減速で攪乱しながら、オウガローダーは爆進する。Eフィールドへと。
 そんなオウガローダーを奇襲すべく、タイプ・レッドがスラスターを点火。幅広の剣を逆手に構え、狙うはオウガローダーの天板中央。
『おーお。忠実で正確だねえ、人形くん達は』
 そんなタイプ・レッドの動きを当然見透かしていた冥《メイ》は、刃が装甲を斬り裂く一秒前にブレーキを踏みつけた。
『だから、動きが読めるのさ』
 ドリフトするオウガローダーの車体。目標を見失った刃は当然空を切り、着地したタイプ・レッドは追撃を見舞うべく顔を上げる。
『ガァァアアアオオオオオオオオオンン!』
 しかしてその追撃は、迅月の放った一撃によって永遠に中断された。
 くずおれるタイプ・レッド。その首から上は吹き飛んでいる。後方に居る迅月のソニック・シャウトが、タイプ・レッドの頭部を消し飛ばしたのだ。
 そんな合間にも遠ざかっていくオウガローダー。その後ろを追うように、零壱式部隊が歩みを進める。先行するオウガローダーに比べると、零壱式部隊の前進はかなり鈍い。警戒しつつの前進である以上、むしろ当然なのだが。
 どうあれ、優勢なのは味方の零壱式部隊の方だ。それを確認したディスカバリーⅢ部隊と迅月は、彼等の作戦目標であるモーリシャス本島へ向き直る。
 薄墨に沈む海の向こう、先程まで戯れていた砂浜のずっと先。市街地に堂々と建てられた、レイト・ライト社――に偽装された、グロリアス・グローリィの本社ビル。それを見据えたディスカバリーⅢ各機と迅月は、一斉にスラスターを点火。前進を開始した。丁度、零壱式部隊とは逆方向に。先程格納庫で取り決めた役割分担――詳細は不明だが、グロリアス・グローリィの引っ越しとやらを、阻むために。
 当然、グラディエーター部隊にそれを見逃す理由は無い。次々と着地するタイプ・ブルー、及びタイプ・レッド部隊は、敵の前進を阻むべく隊列を組む。更に上空で旋回していたタイプ・ホワイト達が、その陣形を援護すべく銃口を閃かせる。
 踊る跳弾、鈍るディスカバリーⅢの前進。そうした一部始終に、マリアは眉根を寄せる。
『やはり、そう簡単にはいきませんか……!』
 そうマリアがぼやいたのと同時に、ディスカバリーⅢ四号機――マリアの駆る機体へ、タイプ・レッドが襲いかかった。
 躊躇無い突撃。振りかぶる両刃剣。しかして、マリアに動揺は無い。
『邪、魔ッ!』
 マリアは叫ぶ。照準し、引金を引き絞る。その入力に従い、ディスカバリーⅢ四号機に装備された両腕部マシンガンが唸りを上げる。
 弾丸、弾丸、弾丸の嵐。真正面からそれに晒され、全身蜂の巣となるタイプ・レッド。倒れ、程なく爆発。
 一機撃破。そんな安心の隙間を縫うように、別のタイプ・レッドが横合いから突撃。携えた両刃剣を振り上げる。
『う、ッ!?』
 身構えるマリア。しかして、その刃は振り下ろされない。その隙を突いたディスカバリーⅢの三号機が、タイプ・レッドを背後から両断したからだ。
「おや?」
 バイザーの下、サラは片眉を吊り上げる。さもあらん、三号機の両腕はマリアの四号機と違って、巨大なチェーンソー――オスミウム・カッターに換装されていたからだ。ディスカバリーⅢの両腕は状況に応じて換装が可能なのだが、こんな装備を見るのはサラも初めてであった。零壱式部隊と同様、BBB《ビースリー》側もまた新装備を用意していたのだ。
『あ、ありがとうございます』
 礼をするマリア。良いって事よ、と言わんばかりにチェーンソー腕を振る三号機。そんな二機を狙い、タイプ・ブルーがミサイルランチャーを照準。
 射出、着弾、炸裂。流れるような射撃でこそあったが、それに巻き込まれる程マリア達は鈍くない。
 弾かれるように跳び退く三号機と四号機。それとほぼ同時に響く轟音、立ち上る霊力光。
 しかしてそれらは空振りであり、それを承知したタイプ・ブルーも爆煙越しに標的を追いかける。
 しかして、それは悪手であった。
 晴れ行く爆煙。その向こうから、燃える鏃がこちらを見ている。それを認識すると同時に、タイプ・ブルーは胸部へ大穴を開けられ、爆散した。
 ディスカバリーⅢ二号機が装備していた、対大鎧装弩弓砲――ブレイズ・バリスタが、爆煙ごとタイプ・ブルーを撃ち抜いたためだ。
「ひゃあ、凄い威力。でも、ちょっと大きすぎるかな。試作品だからなんだろうけど」
 そうサラが指摘した通り、このブレイズ・バリスタは少々大きすぎるのが欠点だ。何せ発射の際には足を止めた上、左右の腕を接続して弩弓砲にする必要があるのだから。
 そんな弩弓砲を二号機は分離変形させ、腕に戻した。移動するためだ。因みに折り畳まれた弩弓はそれ自体がメイスじみた鈍器ともなるのだが、やはりどうしても機体バランスは狂ってしまい。
 必然、動きが鈍ってしまう二号機。その隙を、上空を飛ぶタイプ・ホワイト二機は見逃さない。
 照準。発砲。降り注ぐ銃弾、銃弾、銃弾の雨霰。それを回避すべく、大急ぎでスラスターを噴射するディスカバリーⅢ二号機。だが完全には間に合わず、何発かの弾丸が装甲を打ち付けた。
 幸い二号機は装甲も増設されているため、致命傷には至らない。設計段階から指摘されていた機動力不足への配慮だ。
 とは言え、不利である事自体はに変わらない。二号機が戦車だとすれば、タイプ・ホワイトは戦闘機なのだ。機動力に差がありすぎる。いくら装甲が厚かろうと、このまま集中砲火を受け続けてはひとたまりも無い。
 故に、ディスカバリーⅢ一号機は二号機の危機へと割って入った。
「へぇ? 中々早い」
 そうサラが感心する程の速度で、一号機は高々度高速戦闘用試験装備、ハイブースト・アームのスラスターを呻らせた。ロケットじみた形状のアームから生み出される加速のまま、一号機はタイプ・ホワイト二機の間をすれ違った。衝撃波が、タイプ・ホワイトのバランスを崩す。
 危うく墜落しかけたタイプ・ホワイト達は、当然ながら標的を変更。旋回しながら一号機へ向き直る。
 しかして一号機の旋回は、タイプ・ホワイト二機よりも更に先んじていた。
 向き直るタイプ・ホワイト達。その胸部に、巨大なドリルが突き刺さった。
 ドリルの名はスピニング・アンカー。ハイブーストアーム先端から射出された有線アンカーの着弾を確認した一号機は、間髪入れず電撃術式を起動。放射された大電力が、タイプ・ホワイトの内部機構をずたずたに引き裂いた。
 動きを止めるタイプ・ホワイト。一号機はすぐさまスピニング・アンカーの回転を停止し、アーム内蔵の巻き取り機構で回収。トドメの追い打ちとして腕部側面装甲が展開し、霊力光線砲――エーテル・ビームガンが出現、照準、発射。
 熱と指向性を備えた光の線は、タイプ・ホワイトの装甲を貫通。爆散せしめた。
 隊長機でもある一号機はそのままホバリングし、周囲を俯瞰する。
 各機の尽力により、グラディエーター部隊は概ね――。
『タイガーッ! かみつきボンバーッ!』
 ――いや、迅月が今しがた最後の一機を破壊せしめた。これにて一掃完了だ。後は目的地へ向けて前進するのみである。
『各機、目標地点へ急ぐぞ!』
『了解!』
 短い号令の下、的確な前進を開始する五機の大鎧装。そんな各機の性能を、サラは概ね把握した。これから彼等が取るだろう戦術も、概ね見当が付いた。
 それを、阻止するためには。
「まずは飛び道具担当の三号機、を……!?」
 静かに大鎧装の顔を動かしたサラは、しかしバイザーの下で目を見開いた。
 グロリアス・グローリィ本社へと前進しているため、サラには背を向けている筈の大鎧装部隊。
 その中でただ一機、迅月だけが背後へ、サラの伏せている方向へと振り返っているではないか。
『ぐるるああああおおおぉぉぉぉん!!』
そして、ソニック・シャウトを発射したではないか。
「なんと!?」
 切瑳に光学迷彩術式のマントを脱ぎ捨てながら、サラの駆る大鎧装――ライグランスは大きく跳び退いた。そのコンマ五秒後、身代わりのマントがソニック・シャウトによって爆砕。陽炎のような霊力光を撒き散らす。
「灼装《しゃくそう》っ! 展開!」
 そんな光を隠れ蓑に、ライグランスは戦闘形態に移行した。
 めらめらと燃える鎧。大鎧装にも匹敵する、長大な円弧を描く太刀。
 ぬらりと光る刃を下段に構えながら、サラは迅月を見据える。迅月もまた、前傾気味に構えながらライグランスを見据える。
 そんな迅月の背後で、ディスカバリーⅢ部隊は振り返っていた。突然現われた敵機に驚き、足を止めてしまったのだ。
「ありゃりゃ、見つかっちゃいましたか……ところで、えーと。ご無沙汰ですね、ファントム2。BBBの皆さんも」
『む? ああ、誰かと思えば焼肉を平らげたお嬢さんか。うむ、お久しゅう。何ともはや礼儀正しいのぅ。感心感心……なのはさておいて、モォードチェインジ!』
 人型に再変形する迅月。そのパイロットの笑みを感じ取りながら、サラは言葉を続ける。
「にしてもおかしいですね、偽装は完璧だった筈なんですが」
『ふふん、儂の直感を舐めてもらっては困るのう。かわいい殺気《シッポ》が見えとったぞ?』
 言いつつ、尻尾でモーリシャスの方向を示す迅月。それに気付いた一号機が、僚機に合図を送る。四機のディスカバリーⅢが背を向け、改めて前進を開始する。
「成、程。今後の課題ですね」
 ――凪守の大鎧装がグラディエーター部隊と交戦し、これを撃破する。そんなギャリガンの予知を元に、サラは幻燈結界《げんとうけっかい》が開く前からこの場所に待機していた。姿は光学迷彩術式で隠蔽していた。
 後はその予知通りに運用されるグラディエーター部隊を囮に敵戦力を見切り、不意打ちを仕掛けて乱戦に持ち込む。
 そんな目論見は、見事に失敗した。ギャリガンは自分の予知を、覆す事が出来なかった。
「やっぱり難しいんですね。術者本人だろうと、運命に抗うってのは」
『何の話じゃ?』
「ただの独り言です。お気になさらず」
 じり、とライグランスは腰を落とす。迅月の前傾姿勢へ対抗する為に。
 二機の大鎧装は睨み合ったまま動かない。その合間にも、ディスカバリーⅢ部隊はレイト・ライト本社へみるみる近付いていく。
 そうしてモーリシャス本島の海岸線に差し掛かった矢先、最後尾の三号機が足を止めた。更に腰だめの姿勢になりながら右腕と左腕を接続、ブレイズ・バリスタを再展開した。あの大型弩弓砲でもって、残り三機の前進を援護するつもりなのだ。ギャリガンが予知した通りに。
「うわー、ホントに的中率高いなあ……やっぱり、社長の計画通り行くのが最良なんですね」
『計画、じゃと?』
「いえ、大した事じゃないんですよ? ちょっとした親切心と言いますか、姉心と言いますか」
 言いつつ、サラは操縦桿を操作。右肩部灼装の炎が明滅し、当初の計画に戻った合図を送る。
 送り先は本社屋上。そこに待機していたもう一機の大鎧装が、するりと光学迷彩マントを脱ぎ捨てる。
「あんまり負担かけさせたくなかったんですよね。遠隔操作って事を差し引いても、あの子結構無理してますし。そもそもヴァルフェリアとしての在り方が私以上に無茶ですし」
 大鎧装は纏う。ドレスにも似た炎の鎧を。更に展開する。右肩部に装着されている長大なコンテナを。
 かくて完成するメガフレア・ライフル。絶大な威力と射程を併せ持つ得物を、大鎧装――スノーホワイトは構える。安定脚《アウトリガ》が展開し、機体を強固に固定。
 そして、トリガーを引き絞る。
 発射されるは一筋の光弾。まっすぐに撃ち下ろす一撃は、今まさに本社を仰いでいた三号機の弩弓砲を、的確に撃ち抜いた。
『な、にィ!?』
 ファントム2を筆頭に、驚愕で動きを止める凪守大鎧装部隊。その隙をサラは、ライグランスは、逃さない。
「おやおや、貴方のダンスパートナーはこっちですよ、ファントム2!」
 踏み込み、振り上げ、振り下ろす。ごく単純な、しかし流麗なライグランスの斬撃。その一撃に、迅月は辛うじて反応した。
『ぬ、ぅ!?』
 斬撃に捉えられるコンマ数秒前、迅月は横殴り気味にシールドを払った。
 呻る大質量。太刀でそれをまともに受ければ、破砕する事は必定。故にライグランスは手首と身体を捻り、斬撃を一旦軌道修正。直後、シールドが過ぎる。灼装の炎が揺らぐ。
 ぶわり。その揺らぎを、ライグランスは自ら拡大する。機体ごと回転する横薙ぎが、改めて迅月を切断するべく迫る。
 そんな一撃に対し、迅月は素早くしゃがみ込んだ。頭頂部の塗料を僅かに削りながら、ライグランスの太刀が空を切る。
 ――ここまで、五秒も経っていない。だが、サラにはそれで十分だった。雷蔵《らいぞう》もまた理解した。
 眼前の相手が、ただならぬ技量を持ち合わせている事を。
「うふ、あはは! 面白いサパテアードですね!」
『左様か! 意味は分からんが、なんだか恐悦至極じゃのう!』
 斬撃、打撃。斬撃、打撃。ライグランスの太刀と迅月のシールドが、凄まじい速度で応酬し、応酬し、応酬し、応酬し、応酬する。
『む、う、う!』
 応酬しながら、雷蔵は思考する。サラの目論見は、一体何なのか。
 そんな思考を巡らす合間に、遠く海上に望むEフィールドが、みしりと鳴動した。
『なっ、なんじゃ!?』
 盾で太刀を受け止めたまま、迅月は振り返る。
 そのカメラに映るEフィールドは、縁の辺りから眩く輝く霊力光の壁を展開。数秒も経たぬ内に、巨大な立方体となってすっぽりと覆い尽くしてしまった。
 同時に立方体内部ではエジプトの風景が組み上げられてもいたのだが、今の迅月にそんな事が分かる筈も無く。
「どうしました? レマーテにはまだ、早いですよっ!」
 そんな迅月を窘めるように、ライグランスの唐竹割りが襲いかかった。

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