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食欲の正体

私たちは毎日

「お腹がすいた」という空腹感と「お腹がいっぱい」という 満腹感を感じている。


どちらも過不足なく栄養素を摂るためになくてはならないものです。


食欲に負けてついつい食べてしまう

特定の食べ物を繰り返し食べてしまう「ヤミツキ」

実は、脳の働きによるものなのです。

■空腹感と満腹感は脳で生まれる
空腹を感じた時、お腹が鳴るし、無意識にお腹をさすったりすることから、胃腸こそ空腹感と満腹感を生み出す臓器と考えている人もいるかもしれない

これらの感覚をつくり出しているのはなのです。

脳の大部分を占める大脳の下に「視床下部」という場所があります。この視床下部に空腹感を生み出す神経細胞が集まった「摂食中枢」が、その下あたりに、満腹感を生み出す神経細胞が集まった「満腹中枢」があります。

摂食中枢は食べることが必要になると、脳内のさまざまな場所に信号を送り、食べる意欲をわかせ、噛む、飲み込む、唾液を出す、消化・吸収をするといったことをうながします。一方、満腹中枢は十分に栄養が足りた状態になると、食べたい気持ちと食べる行動をおさえるのです。

では、脳内の神経細胞はどのように体内の栄養状態を把握するのでしょう。


食事によって得られた栄養素は血液の流れにのって脳の摂食中枢、満腹中枢にいき、満腹中枢の神経細胞の働きを活発にして、摂食中枢の働きをおさえる。活発になった満腹中枢の神経細胞は、食べることをおさえるように、脳や体の各部分に信号を送るのです。
満腹中枢は胃の中に食べ物が入ってきて膨らむことによっても神経細胞の信号を介して反応し、食べることを抑えています。


「別腹」も脳が起こしている
バイキングなどでたくさん食べた後でも、甘いものなら食べられる、いわゆる「デザートは別腹」
これは先に述べた食欲中枢のはたらきと矛盾するではないかと思うでしょう。お腹がいっぱいになれば満腹中枢がはたらき食欲は抑制されるはず。実はこの別腹も脳によって引きおこされているのです。

人は同じ味のものを食べ続けると飽きてくる。同じ味に対して「もうこれ以上食べられない」という感覚が大脳の「前頭連合野」という場所で形成されます。但し、前頭連合野が形成する「もう食べられない」はお腹がいっぱいだからではなく、同じ味に飽きているだけ、これを「感覚特異性満腹」といいます。人は同じ味のものを食べ続けると飽きてくる。「もう食べられない」はお腹がいっぱいだからではなく、同じ味に飽きているだけ、食後に出てくるのはたいてい甘いものです。

今まで食べた食事にデザートのような甘い味のものがないので、食べられてしまうという訳です。

また、お腹がいっぱいでも、「デザートを食べたい」という信号が摂食中枢に送られてくると「オレキシン」という物質が放出されます。オレキシンは、胃の運動に関わる神経細胞にはたらきかけ、胃の入口に近い部分の筋肉をゆるめ、出口に近い部分のはたらきを活発にして胃の中身を押し出し、食べ物が入るすき間をつくっているのです。このすき間を私たちは別腹と感じているのかもしれません。


「やみつき」は脳の進化が関係している
では楽しむにとどまらず、やめたいのについつい食べ続けてしまう「やみつき」は、どのようにしておこるのでしょう。前頭連合野からのおいしいという信号は視床下部の神経細胞に伝わり快感を感じるようになり、この快感の情報が視床下部の下にある中脳に伝わり、「ドーパミン」という脳内物質が放出される。ドーパミンは脳の報酬系(もっと食べたいと欲求する気持ちをおこす脳の回路)のはたらきを活発にします。

脂質や糖質などが豊富な高エネルギ―(高カロリー)の食べ物は人間にとって価値の高いものであり、私たちの脳を強力に刺激します。200~300年前までは、食べ物は簡単に手に入らず、餓死する人もたくさんいたため、私たちの脳はおいしくエネルギー(カロリー)の高い食べ物を見つけると食べて生存の可能性を高めようとしてきたのです。

「やみつき」が起こる背景には脳の神経回路が報酬の大きい行動をするよう設計されてきたことが関連しているようです。これは食べ物が貴重な時代には有効でしたが、現代は魅力的な食べ物があふれており、たくさんの食べ物の広告などの情報にもさらされているため、「食べ過ぎ」や「やみつき」をおさえるのに苦労する環境にあります。
生存の可能性を高めようと活性化されてきた報酬系ですが、皮肉にも肥満予防のため抑えなければならない状況なのです。

■食欲をコントロールしてリバウンドしないようにする
早く痩せたいとあせると、急激に食事量を減らしてしまいたくなる。でも、体は極端に少ない食事量に適応できず、満腹中枢がいつまでたってもはたらかない。これでは食欲の中枢に意志の力で反抗した無理な状態が続くため、我慢できずに元の食事に戻ってしまうことが多いのです。しかも必要な栄養素の欠乏が続いたため、筋肉量も減り基礎代謝が下がり、エネルギーを消費しづらい体になってしまう。さらに「いつでもエネルギーを取り出せるよう、体内に脂肪をためておこう」とするようになり、以前より太りやすい体質になってしまうのです。


リバウンドしないようにするためには、食欲の中枢をなだめながら、体重を減らしていく必要があります。食事を少し減らすと、食べ終わった後でもわずかにお腹がすいている、つまり摂食中枢のはたらきがわずかに強いのです。でも、その状態をしばらく続けると、体は「この量でも大丈夫」と食後に満腹中枢が摂食中枢よりも強くはたらくようになっていくのです。

このようにして、少しずつ食事を減らしていくといつの間にか、ダイエットを始めたころよりも少ない量で満足できるようになり体重も減ってその状態を維持できるのです。


食事の減量は、特定の食材を減らしたり、一食抜きをするなどではなく、栄養バランスの偏りなく減らすことも忘れてはいけません。
「食欲」は生きるために必要であり、人生を楽しむためにも欠かせないものです。食欲を上手にコントロールしながら、親しい人と食事を楽しむ、旬の食材を味わうなど食環境にもこだわって、心と体の健康を維持していきましょう。


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