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どんな夫婦であろうとも、結局自分らしくいられれば。

仲の良い女友達と3年ぶりに会った。

3年ぶりにちょっと混んだ電車に乗って
3年ぶりに都心へ行き
3年ぶりに友達に会った。

結婚前は、よく3人で飲んだ。

私たちの記憶は、
美味しい酒と美味しい食べ物で
ほぼ埋め尽くされている。
写真を見返しても
ほぼほぼ手に酒か食べ物を持ってる。

ディズニーランドではなく
ディズニーシーばかり行くのも
酒が目当てだった。

誰かの放つ

「そろそろディズニー行きたくね?」

の一言に、
3人がポワワーンと思い浮かべるのは
スモークターキーレッグとビールとか、
寒い中すするホットワインとか、
もはやディズニーに行く意味とは?
という感じだった。

勿論我々が行く意味とは
〝あの空間で酒を飲むため〟
に尽きるのだが。

27歳の頃、
東村アキコ先生の
『東京タラレバ娘』という漫画の1巻を
初めて読んだ時の衝撃。

「え?!これウチらのこと?」

と、ページをめくるたびに思って
気付いたら1冊読み終わった。
マジで衝撃。

「彼氏欲しいー!」とは言うものの、
3人で合コンには行くものの、
誰かにラブ的な何かが起こりそうになるものの、
何だかんだで彼氏は出来ず、3人で飲む。
ひたすら飲む。
それをツマミに飲む。

ある時私が結婚し、
もう1人の友達も結婚し、
もう1人の友達も彼氏と同棲し、
子どもも生まれて環境がどんどん変わった。
段々と会える回数も減っていった。

『東京タラレバ娘』は
結局途中で読まなくなった。

コロナが流行ってからは
気付けば3年も会わずに
時間だけが経ってしまった。
電車で1時間の距離が
とてつもなく遠い距離になってしまった。

同棲していた友達もコロナ禍に結婚し
そのお祝いを兼ねて
私たちは3年ぶりに会うことになった。

久しぶりに会ったのは
昼の12時。
つまり、ランチ。
アルコールもほぼ無し。

私たちから酒を取ったら、一体何が残るの?
と心配される方のために一応伝えておくと、
美味いご飯は健在だし、
結局たらふく食べたのに
次に行ったカフェで全員甘いものを注文する。

私たち−酒=美味いご飯+甘いもの

ということになった。

独身を謳歌していた時とは違い、
今や全員パートナーがいる。

そうなると、
我々が話すことはただ一つ。

この3年間、
それぞれが溜めに溜めた旦那エピソードを
ここぞとばかりに吐き出すのが自然の摂理…

そう思っていた。

私はそれぞれの友達が話す
それぞれの家庭の凄まじい地獄絵図を聞いて
ゲラゲラ腹を抱えて笑う覚悟で来ていた。

しかし一向にその話にならない。

私の手元には、
ジョーカーの手札がうじゃうじゃあり、
友達の話したエピソードに対応できる
ありとあらゆる旦那との話を
アレコレと用意していた。

しかし一向にその話にならない。

3年という年月は
私の想像を遥かに超えるほど
心の距離を遠くにするものだったのだろうか。
酒がないと私たちの心は
これほど遠くにあるものだったのだろうか。

いや、そんなはずはない!

友達の美しい挙式の写真に
心底ウットリし終わったあたりで
仕方ないので腹を括り、
本日の本題について
思い切って2人に投げかけた。


「ところでさぁ…
旦那さんと喧嘩とかする?」


この一言で、

「するよぉ!ウチはさぁ!」

と、友達2人が
酒を飲んでいる時のような切れ味で
それぞれの手元のカードを
パシっ!パシっ!と開き始めるはずだ!

くるぞくるぞくるぞーーー!!!

私も持ち手のカードを眺める。

〝アタイにはジョーカーしかねぇぜ〟

負ける気がしない。


水のグラスの氷がカランと音を立てる。


友達2人はお互いの顔を見合わせて、


「いやぁ…しないなぁ…」

「うん、うちも特にしないかなぁ?」

同じような顔で私を見つめてきた。


「…え?…喧嘩もせず、ただ仲良しってこと?」

「うん、仲良しだよー」

「ちょっとまって!
○○のとこ、子どもいるよね?!
もうすぐ1歳でしょ?
子どもいるのに喧嘩しないの?」

「あー…出産後に退院した直後に
1回だけあったかなぁ…
でもそれ、私も悪かったし…
ホルモンバランス的にもそういう時期だし…」

そうそう。
そういうホルモンバランスだったから
次男の出産後に退院した日に
我が家は地獄絵図になったんだった。
未だに私はその日を思い出すと
ハラワタが煮えくりかえる。
私の非など、1ミリもない。
悪かったとか、1ミリも思わない。
悪いのは全部旦那。
そんで多分、次の日もその次の日も喧嘩してる。
ちなみに、悪いのは全部旦那。

私はてっきり世の中の大多数の夫婦は
絶対に喧嘩しているもんだと思っていた。
いや、喧嘩してなくとも
夫婦間で愚痴の一つや二つや百個はあるだろうし、
喧嘩のない仲良し夫婦なんて、
空想の中の御伽話か
誰かの痩せ我慢が作り出した幻想だと思っていた。

だって大して仲良くない人とでも
なぜか夫婦あるあるで
ちょっと盛り上がれる。

奥さんにこう言ったら、不穏な空気になった、とか
旦那さんが何度言ってもこういうことする、とか
面白おかしく話す人達もいるし

相手に期待しちゃだめ、とか
夫婦円満の秘訣はとにかく謝ること、とか
仙人のような佇まいで話す人達もいる。

こういった夫婦エピソードは
全人類共通とはいかないまでも
大多数の夫婦がもっている鉄板ネタだと思ってた。


ところが、だ。

この席にいる3分の2が
愚痴も喧嘩もディスりもない
ただの仲良し夫婦だと…?
え…?どういうこと…?
私の思ってた世の中って
本当は間違ってたってこと…?
いや、そんなはずは…
ここはどこ?
私は誰?

めちゃくちゃオシャレな店だったのに、
誰もいなかったら
ガタンと席を立って叫びたかった。
あのでっかい窓から見下ろす
都会の街並みに向かって

「嘘でしょーーーー!!!」


と腹から叫びたかった。

グラングランする頭で手元を見ると
手に握りしめていたはずのジョーカーは
気付けば白紙のペラ紙になっていた。

もしも酒が飲めたなら
多分5杯くらいは
余裕で飲み干してたはずだ。

結局私は、
1人で我々夫婦の凄まじい地獄絵図エピソードを語り、
2人はゲラゲラ腹を抱えて笑ってくれた。

話しながら思ったけど、
旦那だけがヤバいんじゃなくて、
私もヤバいんだわ。相当。

ヤバい旦那×ヤバい嫁が巻き起こす
我が家のやり取りを聞き、
2人が涙を流して大笑いしてくれて
時々ちゃんと私のフォローもしてくれて
3年分溜めに溜めた話を
私が勝手に吐き出してスッキリした。

そうそう、これがやりたかったの。
出来れば聞く側も。


友達が言っていた。

「でもさぁ、嫌な感じの喧嘩じゃなくない?」

「ほんとそう!
それに結婚して子ども産んでも
変わらずようちゃんらしく生きてることが分かって良かったよ!」

2人が夫婦で喧嘩することを否定せず
私らしいと良い感じに笑い飛ばしてくれたので
ジョーカーから白紙になった手持ちの札は
最後はトランプの8くらいの価値になった。

ちなみに最後の方に
友達の1人が無理矢理絞り出した旦那さんとの喧嘩の内容が

「私が勝手にアイス食べちゃってさぁ…」

から始まり、
案の定喧嘩のケの字もないホッコリエピソードで終わったので
上っ面じゃなくて本当に喧嘩をしていないことが
ビシビシ伝わってきた。
もう私の負け。完敗。乾杯。

酒も飲んで無いし
オシャレな店だったのに
声量デカめ、
笑い声デカめ、
水のお代わり多めで、
3人で集まると居酒屋みたいなテンションになる。

仲良しの友達が少ない私。

自分からなかなか連絡しない私。

それでも私の生き方をいつも否定せず
面白がってくれる2人だからこそ
一緒にいて居心地がいいんだろうなぁと思った。

ライフスタイルが変わるにつれて
友達とどんどん疎遠になることって多いけど
この2人とはこれからも会いたいなぁと
帰りの道すがら強く願う。

そんでいつかまた
3人で一緒に酒を飲もう。

その時は、
それぞれの自分らしいエピソードを持ち寄って
また楽しく飲めたらいい。

まぁどんな話だろうと
私たちはきっと酒のツマミにでもして
ゲラゲラ笑うんだろう。


その日は家に帰ってから友達の影響で
旦那と喧嘩しないように頑張ってみようと一瞬思ったけど、ほんと一瞬だった。

すぐに戦いのゴングを鳴らし合う我々夫婦には
喧嘩のない平穏な夫婦生活など
1億回生まれ変わったとしても
やって来ない気がする。

つまり、私にとっては
喧嘩のない仲良し夫婦というのは
やっぱり空想の中の御伽話なのだ。

仕方ないので
これからも私たちらしく
お互い我慢せず、
お互い大人気なく、
お互いおちょくりあって、
喧嘩を通してコミュニケーションをとる夫婦でいたい。

いや、ほんとはそんな夫婦でいたくない。

喧嘩でコミュニケーションとか
ヤバいでしょ。やっぱ。

私が変わるのは無理だから
そろそろ旦那が諦めて
ちょっと大人になってくんないかな。
うん、なんないよね。
知ってる知ってる。
お互いそういう精神だからダメなんだよね。

「2人とも夫婦喧嘩しないんだってよ?」

と、帰ってから旦那に伝えたら

「ほーん…」

と、なんとも言えない返事をされた。

まぁ逆の立場だったら
間違いなく私も

「ほーん…」

って流しながら言うか

「…だから何?」

とキレ気味に言うかのどちらかだわ。

でも、息子達とお留守番
本当にありがとう。
お陰で最高に楽しめたよ。

夫婦といえども、色んな形がある。

どんな形も面白いし、
結局1番大事なのは
自分らしくいられるかどうかだよな、と
何となく思った。

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