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『真面目にマリファナの話をしよう』を読んで

数年前に、私は父を癌でなくした。

再発後、父は治療を拒否し、緩和ケアで天寿を全うすることを自ら選択した。抗がん剤の副作用と闘うより、最後まで自分らしく生きたい、と彼は言った。

とはいえ、何か彼が納得してくれる療法はないかと、いろいろ調べている時に出会ったのが「医療マリファナ」だった。厳密には、いくつかの先進国では医療マリファナが解禁されているという事実に出会った。

医療の世界では「カンナビス」と呼ばれるこの植物が、今、たくさんの疾患の治療や予防に効果を持つというコンセンサスが強固になりつつある。ガン、てんかん、多発性硬化症、緑内障、PTSD、睡眠障害、アルツハイマー病など、カンナビスが治療や防止に効果を及ぼすことが少なくても一部の研究によって証明された疾患のリストは尽きない。

現時点で、非合法であり、ゲートウェイドラッグとも呼ばれるマリファナを手放しに礼賛し、「日本でもすぐに解禁すべき!」と訴える気はもちろんない。けれど、この『真面目にマリファナの話をしよう』を読み、「当時、父の療養に使用することができたなら」という思いは強く残った。使用していた鎮痛剤の作用で意識が混濁し、最後の数週間はほぼ会話をすることがままならなくなっていた父の姿を思い出す。

この本を書いた最大のモチベーションは、アメリカや他の国々でなぜ長く禁じられてきた「麻薬」が「奇跡の薬」として解禁されたのか、そのパラダイム・シフトが起きた理由と背景を理解することだった。ところが調べれば調べるほど、日本における認識と、海外とのギャップは広がるばかりだった。世界の先進国のなかでも医療マリファナを禁じている国は日本くらいである。

この一冊は、私たちが当たり前だと思っていることに、「なぜ?」を問う大切さを教えてくれる。ただの嫌悪感で議論を棚上げしていると、いざという時すべてがなしくずしになり、予期せぬ方へと「あれよ、あれよ」と流されてしまう可能性がある。それがいちばん怖いことのように思う。

目の前で起こっている事実から目を逸らさずに、自分の頭で考える努力を。「なぜこうなった?」と日常で感じる疑問や違和感に真摯に向き合うことは、自分らしい生活を営むための、私たちの当たり前を自分たち主導にしておくための、大切な責務なのだと思う。

日本での出版にかなり勇気を要したであろうことは想像に難くない。最後に、文藝春秋社の英断に、そして何よりジャーナリスト佐久間さんの純粋なまでの「なぜ?」との向き合い方に最大のリスペクトを。







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