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ソフィア・コッポラ、中年女性を描いたってよ!

ソフィア・コッポラの作品は、そこまでツボではない。もちろん、嫌いではないのだが、まわりに信望者が多いので、その知人たちに比べると、私の場合は「まぁ、普通に好きですよ」という感じのテンション。

たくさんの注目作を作り続けてきた彼女の作品の中で、一番好きな作品は『ロスト・イン・トランスレーション』だろうか。

舞台は同じ東京に長いこと住んでいるが、あんな素敵なシチュエーションに身をおいたことはない。けれど、私は自分の居場所に刹那的に不安になり、「異邦人感」を感じることはよくある。東京に四半世紀以上住んでいても、いっこうに”自分の街だ”と思えたこともなく、東京の街を歩きながらStingの『Englishiman in New York』を口ずさんでは、なんだか目頭にこみ上げてくるものを感じたりも未だにしている。

そのハイセンスぶりがとかく注目されがちなソフィア。女の子たちの精神的閉塞感に寄り添い続けたソフィア。

そのソフィアが中年女性のミッドエイジクライシスを描くとな! 興味深すぎて、公開後、すぐに劇場に足を運んだ。

『オン・ザ・ロック』あらすじ
ニューヨークに暮らす若い母親は、ある日、結婚生活に疑いを持つようになり、稀代のプレイボーイである自分の父親と一緒に夫を尾行することになる。光り輝く街中で冒険を繰り広げる父娘は、街路を行ったり来たりする内にその距離を近づけていく――。

主人公は、ソフィア同様こちらも偉大なる父をもつ(クィンシー・ジョーンズの娘)ラシダ・ジョーンズ。そして、『ロスト・イン・トランスレーション』のビル・マーレイ!!!    少女目線の「父娘」の関係を描き続けてきたソフィアが中年女性の父娘ものに舵を切るのに、これ以上のキャスティングがあっただろうか! とそれだけでスタンディングオベーションをしてしまうくらいのキャスティング。

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観終わった感想は「ソフィア、こっちの世界へようこそ!」だった。

少女な世界観のソフィア作品に食指が動かなくなっていたので、再び気持ちを入れてソフィア作品が観られることが、単純に嬉しい。

そして、ウディ・アレンが #metoo で失速した中、ニューヨークを舞台にした洒脱な会話劇が今後ソフィア作品で観られるであろうことも予感させてくれて嬉しい。私小説的な作品のウディはロマンスがメインテーマだが、ソフィアはあくまで父娘もの。ウディの後継者的な言われ方も多くされているようだが、そのスタンスが決定的に違うのもいい!

お金持ちというと、とかく成金趣味的なものが跋扈する中、文化資産豊富な、「これぞ真のお金持ち!」の世界を覗けるの楽しい(余談だが、編集者として前者を探し、取材のアポをとるのは簡単だが、後者は本当に難しいのである)。

そんな明るい気持ちになる一方で、この映画は、コロナ前、BLM前(おそらく2019年)の空気がギュッと閉じ込められている。特に、BLM後の現在に観ると、感慨深くなってしまうシーンが描かれており、そこに「!?」と思ってしまうと一気にノレなくもなってしまうが、ここは割り切りたい。私たちが勝手に抱く、洒脱なニューヨークの世界観に浸り切るのが得策といえそう。

とにもかくにも、中年女性を描くソフィアの今後が思いっきり楽しみに。彼女にとってもキャリアのシフトチェンジを鮮明に刻んだ記念碑的な作品になるのではないかと思う。

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