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わたしが海の外に行き、暮らす理由

海の外に行く。

こう聞くと、なんだかスゴイ事をやるように聞こえる。それもそのはず、日本は島国なので、母国を離れるためには船か飛行機に乗るしかない。散歩がてらにドライブがてらに、ちょっくら出てみよっかというお手軽感はないのだ。

だからこそ海外旅行に行くだけでも、よっし行くぞという意気込みが必要になる。


まずはチケットを買い、空港に行き手荷物検査を受けて、イミグレを通り抜け、中国人の観光客がSK-IIを買い込んでいる(うらやましい)免税店をやり過ごし、搭乗口で遅延のアナウンスを聞いてブーブー文句を言って、やっと飛行機に乗って海外に行けるのだ。

こんな面倒な手順を踏まないと海の外へ出られないなら、新幹線に乗って、スカイツリーを見てディズニーランドに行くほうがいい。という母親の言葉はごもっともだと思う。

私も海外へ出る前、特に準備をして空港に行き、搭乗手続きをしている間は「あぁ、なんて面倒なんだ。誰が決めたんだ、海外旅行なんて(いや自分だけどさ)。帰りたい。帰ってスマホゲームでもして過ごしたい」と毎回100%思っている。それがどんな行き先であっても。

でもそこまでして、なんで私は海の外に行きたいんだろう。



出国が大変な分、異国の空港に降り立った瞬間はいつでも特別だ。飛行機を降り、へびのお腹の中みたいな通路を通って空港内に向かうとき、足元がふわふわしてまるで月の上を歩いているように感じる。あぁ、とうとう来てしまった。海の外、異国、外国、日本ではない場所。

ワクワクしている自分のすぐ後ろに、ビクビクしている自分が張り付いている。私の服の裾をぎゅっと握りしめて「大丈夫かな、大丈夫かな」と何度も尋ねてくる。


真っ赤なパスポートをグッと握りしめて、入国審査の列に並ぶ。前に見えるのは真っ黒に日焼けした、眉間に深いシワが入った審査官のおじさん。

変なことを聞かれたらどうしよう。と不安になる一方で、同じく列に並び話す人たちの聞き慣れない言語の響きにワクワクしてくる。どこの人かな? と必死に聞き耳を立てて、パスポートを盗み見するが、結局わからない。


ワクワクとビクビクが交代にやってきて、旅が始まったことを教えてくれる。


きっと、この一瞬。

色んな気持ちがぐるぐると胸の中を泳いで、言葉で言い表せられない瞬間を感じるために、私は海の外に出るんだと思う。美食や絶景や異文化体験とかではなく。きっと。


あと、4日後。
私はまた海の外に行く。あの一瞬のために。
そしてその知らない場所を言葉で言い表せるようになりたいから、暮らすのだ。

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