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ヤツメ鰻まつり

フランスにはテーマ付きの楽しい祭りがたくさんある。<ワイン祭り>とか地元の名産物の収穫を祝って行われるもの、<ジャンヌ・ダルク>祭りなどの様に伝統、歴史を祝うものもある。祭りには行った事があるし、特にボルドーのワイン・フェスティバルでは案内役スタッフとして参加した事もあった。その他ボルドー時代では今から話す<アスパラガス祭り>が楽しかったのを覚えている。ジロンド川の右岸にあるブライという町は人口4000人程の町であるが、ヴォーバンの要塞が残っていて、さらにはワインの生産地と言う事でも知られている。また、ホワイトアスパラガスもよく採れて美味しいので毎年アスパラガス祭りが開催されている。

私がブライを最初に訪れたきっかけは、パリで行われた某ワイン・サロンに行った時にフランス全国から生産者が出展するなか、なぜかブライから来ているという方達と話しが合い、ワインも一番気に入ったからである。当時はボルドーに住んでいたので「では今度ブライの町に伺います。」という事になった。私にとってワインで何が大切かというと<郷土性>である。せっかくフランスに住んでいるのだから、気に入ったワインと出会ったらそのワインの生産されている場所まで出来るだけ出向いて、生産者と会って、畑やその周辺を見たいという最高の贅沢でこれ以上ないわがままがなにより大事である。

以来、ブライの事はかなり気に入って、特にしっかりして暖かみのある味わいと手頃な価格の地ワインはこれからの私のワインライフの中心に取り入れていっても良いかなと思った位。

ある日偶然ブライでの<アスパラガス祭り>情報を得て、試しに行ってみる事にした。地元の祭り拝見と、単に美味しいアスパラガスを食べたかったからである。また、ワイン生産者もスタンドを出すだろうから同時にワインも楽しめるだろうという企みもあった。しかし今回はアスパラガスの他にもっと強烈なものについて話すので、地元ワインについてはまたの機会にとっておこう。

祭りは2日間に渡って行われ、コンサート、アスパラガスを使った料理のデモンストレーションではボルドー市から来たミシュラン星付きのレストランのシェフも活躍していた。子供達の仮装大会に、もちろん地元のアスパラガス生産者のスタンド展示、レストラン、ピクニックなど盛り沢山の内容であった。

アスパラガスは主にホワイトであったが、パエリア料理をする時に使う大きな平たい鍋で蒸し焼きにして、色々なソースをつけて食べる。最高に美味しい。驚いたのがもっとビッグな鍋で数人で協力して作り上げるアスパラオムレツであった。見ただけでさすがにお腹一杯になった。

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良い思い出であったが、一番印象に残っている祭りは他にある。それはブライから車で一時間程のサント・テールという町で開催される<ヤツメ鰻祭り>である。オランダ人で昔レストランを経営していた友人に誘われて行ったものの、祭りのタイトル<ランプロワ、lamproie>がまさかヤツメ鰻の事とは夢にも思わなかった。「絶対面白いから。」と言っていたが、ランプロワがどんなものかは彼女自身もその時はよくわかっていなかったと思う。

友人運転の車で直接会場に行ったので中心地は通らず、本当に何も見ないで到着した。いや、実際何も無い村だったのであろう。私達は目立っていた。特にアジア人である私はまるで奇妙なものを見るような人々の視線を思う存分浴びたのであった。何人かの人たちに「ランプロワって何か知ってる?」「食べたことある?」と聞かれた。それはよくこんなものを食べる為にわざわざボルドーから一時間近くもかけて来たねーと言わんばかりであった。

取り敢えず鰻の様にニョロニョロしたものだとは思っていたが、鰻なら大好きなのになあ位にしか考えていなかった。ところがその考えは甘いという事に気がついたのは地元の人がすすめるエキシビジョンを見始めたときであった。

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恐ろしい形相を見た途端帰りたくなった。目つきの鋭さ、牙のような齒を一度見てしまったら、たとえその部分を食べる訳でなくとも実際口の中に入れるには勇気と覚悟が必要だと思った。食べることをパスするのも可能であったが、せっかく来たのだから食べずに帰ることは私達の意地が許さない。

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「先に食べれば良かった…、」と心から自分達の浅はかさを反省した。なにせエキシビジョンにはビシーッとランプロワの写真が貼ってあり、顔のどアップも実物よりも大きく写されているものもある。今回まさかnoteでこの祭りの事を書くとは思っていなかったので写真も撮ってなかった。いや、むしろ必要がなかったらカメラを向けるのもおぞましいといったところだ。

祭り自体は前述の<アスパラガス祭り>より地味であった。それは恐らく町の規模が違うからであろう。全体の人口はブライの半分以下であり、また、特に若い人が少ないように感じた。内容のせいかもしれない。何せ子供達があのランプロワ料理を好んで食べるとは思えない。

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料理の見た目はフランスのブルゴーニュ地方の名物 <ブッフ・ブルギニョン>(ビーフの赤ワイン煮)のようにもみえる。ただし大きな違いは<シヴェ>と言って血を加えて煮込む料理であるというところ。さらにチョコレートも入れる。私は味付けなしのランプロワは食べたことないが、ランプロワ自体の味が既に強烈だと思う。それ迄フランスで食べた料理の中で一番目眩がしそうだったのはこれである。これを食べごたえがあると言って表現して良いのかもわからない。しかも味わう前に写真を見てしまったので、ジビエ料理よりも衝撃的だった。

ここまで言ってしまったのだから皆さんにも是非トライしていただきたい。フランス料理のイメージを多少壊してしまったかもしれないが、このヤツメ鰻に関してはその姿と味が見事にマッチしていて、また一年に一度地元民が団結して盛り上げて宣伝するところがとても良いと思う。また、盛り上げて…、という事に関して是非お話ししなくてはならない<コンフレリ>の存在について詳しく話したいと思うので引き続き次回にご期待いただきたい。


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