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労働者の不利益になる労働条件の変更

 おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

 今年はもう梅雨入りしてしまいましたね。蒸し暑くなったと思った瞬間の梅雨入りで少し驚いてしまいました。

 さて、今日は、就業規則による労働条件を、労働者の不利益になる内容に変更することが許されるのはどんなときか、について説明します。

合意を得るのが原則

 就業規則を変更して、労働条件を労働者の不利な内容に変更しようとするときは、原則として、労働者の合意を得る必要があります。

 労働契約法には、以下のような定めがあります。

 (労働契約の内容の変更)
第8条 労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。

(就業規則による労働契約の内容の変更)
第9条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。・・・

 つまり、労働条件を変更するとき、そしてそれが就業規則の変更によるときは、いずれも労働者との合意が必要だ、ということです。

 逆に言えば、どんな内容の変更であっても、労働者が合意しさえすれば労働条件の変更は可能ということです。

 ただし、労働者は通常、使用者よりも弱い立場にあり、使用者の労働条件変更の申出を拒絶しにくい立場にあります。

 ですから、労働者が本当に自由な意思で合意したと言えない場合には、「合意あり」とは認められませんので、注意が必要です。そして、自由な意思で合意したと言えるには、変更の必要性だけでなく、変更によって労働者が被ることになる不利益の具体的な内容と程度についても、情報を提供して説明しなければなりません。

 このような情報提供と説明がない場合には、いくら労働条件変更について確認の署名捺印をもらったとしても、条件変更について合意があったとは見てもらえません。

有利な変更には同意は不要

 就業規則に定める労働条件の変更について、労働者の合意が必要なのは、条件を労働者の不利益な内容に変更するときです。

 労働条件を有利に変更するときには、労働者の合意は必要なく、当然に、新しい“より有利な条件“が効力を持ちます。

 その根拠は、労働契約法12条の、「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。」という規定にあります。
 つまり、より有利な条件を就業規則で定めると、旧条件は「就業規則に定める基準に達しない労働条件」として無効になり、その無効になった部分は「就業規則で定める基準」、つまり新しく就業規則で定めた新しい基準によることになる、ということです。

合理的な変更の場合

 以上のとおり、労働条件を労働者の不利益に変更しようとするときは、原則として労働者の合意を得る必要がありますが、例外として合意がなくても変更できる場合があります。

 つまり、労働契約法は、以下のように定め、合理的な変更の場合には、労働者が合意する必要はないとしています。

 (就業規則による労働契約の内容の変更)
第9条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

第10条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。・・・

 合理的な変更かどうかは、「労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして」判断されます。

 そして、変更後の就業規則は、労働者に周知させなければなりません。ただし、一人一人に変更内容を説明することまでは必要ではなく、事業場全体に変更内容を知ることのできる状態においておけば足ります。

 合理的な変更が周知されれば、変更後の就業規則が有効になって労働契約の条件となりますが、変更内容が合理的でないとしても、変更後の条件が完全に無効となるわけではありません(反対の見解もあります)。

 つまり、不合理な変更であっても、その変更に個別に合意した労働者に対しては有効になりますし、また、変更自体が不合理でも変更後の条件自体は合理的という場合(例えば変更前の条件があまりにも緩すぎて、いきなり世間一般の基準に変更しようとするときは、変更の度合いが大きすぎて変更自体は合理的とはいえないものの、変更後の世間一般の基準自体は合理的と言えるような場合)には、条件変更後に入社した従業員に対しては有効な条件として効力を持ちます。

就業規則によっては変更されない、という特約

 労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、合理的な変更であっても効力を生じません。

第10条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。

労働条件の変更はハードル高し

 以上、労働条件を変更できる場合を説明しましたが、実際の現場においては、労働条件を労働者の不利益に変更することは結構ハードルが高いです。

 まず、そもそも労働者が納得して合意してくれることが少ないです。だって、不利益変更ですから・・・

 そして、合理的な変更として有効な変更になりうるとしても、納得していない労働者を変更後の就業規則で規律するのは、実際問題として困難を伴う可能性があります。

 労働条件を不利益に変更しつつ、気持ち良く働き続けてもらう・・・うーん、難しい・・・

 やはり、しっかりと話し合い、理解を求めて合意してもらうのが一番なんでしょうね。

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