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労働者の過半数代表者

おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

今年は、花粉が酷い気がするんですが、皆様、いかがお過ごしでしょうか。

 今日は、月組バウホールの初日ですね。月組のみなさん、がんばって!

 宝塚歌劇団は、ご存知のとおり女性だけで構成される劇団です。劇団は、花、月、雪、星、宙の5つの組に分かれており、それぞれが1つの独立した会社のようになっているそうです。10代から30代くらいの生徒さん(劇団員)が各組にだいたい80名くらいずつ配属されています。
 そして、その生徒の中から、組長、副組長が選ばれ、各組を統制しているらしいです。

 宝塚歌劇団の話が長くなりましたが(ファンからすれば短すぎてイントロにもならないくらいの話ですが)、集団を一致団結させるには、それをまとめる役目の人が必要不可欠、ということを言いたかっただけ。

 ということで、本日は、労働者の過半数代表者についてお話します。

過半数代表者とは

 就業規則を作ったり変更したりするとき、会社は労働者の意見を聴かなくてはなりません。しかし、労働者がたくさんいる時に個別に意見を聴くことは無理ですから、法律は、労働組合または、労働者の過半数を代表する者にその意見を聴くことを求めています。

労働基準法
第90条 使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。

 労働基準法には、合計29回、「労働者の過半数を代表する者」という言葉が出てきます。会社が労働者の権利義務に関することをしようとするときには、労働組合があれば労働組合に、労働組合がなければ「労働者の過半数を代表する者」の同意を得たりその意見を聴いたりしなければならないことになっているのです。

過半数代表者の選出方法

 1998年の労働基準法施行規則改正前には、誰を労働者の過半数を代表する者とすべきか決まっていませんでした。

 しかし、労働者の過半数を代表する者は、労働基準法上、重要な役割を担っています。

 そこで、1998年と2018年に労働基準法施行規則が改正され、労働者の過半数を代表する者の選出方法が以下のように決められました(労基則6条の2第1項)。

① 労基法上の管理監督者(41条2号)でないこと

② 選出目的を明らかにした投票、挙手等の方法による選出されること

③ 使用者の意向に基づき選出されたものでないこと

 また、使用者は、労働者が過半数代表者であること若しくは過半数代表者になろうとしたこと又は過半数代表者として正当な行為をしたことを理由として不利益な取扱いをしないようにしなければなりませんし(同条3項)、過半数代表者が法に規定する協定等に関する事務を円滑に遂行することができるよう必要な配慮を行わなければならないこととされています(同条4項)。

労働基準法施行規則
第6条の2 法第18条第2項、法第24条第1項ただし書、法第32条の2第1項、法第32条の3第1項、法第32条の4第1項及び第2項、法第32条の5第1項、法第34条第2項ただし書、法第36条第1項、第8項及び第9項、法第37条第3項、法第38条の2第2項、法第38条の3第1項、法第38条の4第2項第1号(法第41条の2第3項において準用する場合を含む。)、法第39条第4項、第6項及び第9項ただし書並びに法第90条第1項に規定する労働者の過半数を代表する者(以下この条において「過半数代表者」という。)は、次の各号のいずれにも該当する者とする。
一 法第41条第2号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと
二 法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であって、使用者の意向に基づき選出されたものでないこと。
② 前項第1号に該当する者がいない事業場にあっては、法第18条第2項、法第24条第1項ただし書、法第39条第4項、第6項及び第9項ただし書並びに法第90条第1項に規定する労働者の過半数を代表する者は、前項第2号に該当する者とする。
③ 使用者は、労働者が過半数代表者であること若しくは過半数代表者になろうとしたこと又は過半数代表者として正当な行為をしたことを理由として不利益な取扱いをしないようにしなければならない
④ 使用者は、過半数代表者が法に規定する協定等に関する事務を円滑に遂行することができるよう必要な配慮を行わなければならない

選出方法が不適切だとどうなるか

 労働者の過半数代表者の選出方法は、以上のように規則で定められていますが、独立行政法人労働政策研究・研修機構の2017年の調査(過去3年間の調査)によると、以下のような問題が浮かび上がってきます。

● 「過半数代表者を選出したことがある」事業所 43.1%
 「過半数代表者を選出したことがない」事業所 36.0%
 「不明(選出したことがあるか分からない)」 10.1%

● 過半数代表(事業場における過半数労働組合または過半数代表者)
  「いる」  51.4%
  「いない」 36.0%

● 事業所規模別の過半数代表者がいる割合
  「9人以下」 35.7%
       「10~29人」 69.5%
  「30~99人」 85.5%
  「100~299人」92.7%
  「300~999人」94.3%

● 選出方法
  「投票や挙手」 30.9%
  「信任」    22.0%
  「話し合い」  17.9%
  「親睦会の代表者等、特定の者が自動的になる」6.2%
  「使用者(事業主や会社)が指名」 21.4%

● 過半数代表者の職位
 「課長クラス」、「部長クラス」、「工場長、支店長クラス」、「非正社員」もあり。

 多くの事業所において、労働者の過半数代表者の選出方法に問題があることがおわかりいただけると思います。

 このような方法で選出された過半数代表者を前提とした就業規則や労使協定は、その効力が否定されます。

 事業部長に対する意見聴取で就業規則の退職慰労金規定を廃止したことが無効とされた事案、労働者代表の選出手続の適法性の主張立証をしなかったことで裁量労働制の主張(したがって時間外労働手当てが発生しないとの主張)が認められなかった事案、変形労働時間制および固定残業制を定める労使協定および給与規定の効力が否定された事案など、多くの裁判例で就業規則や労使協定の効力が否定されています。

 就業規則や労使協定の効力が否定されるということは、会社にとっては大きな打撃です。会社を守るために作ったはずのルールが、全ての労働者に対して、効力を持たなくなるということだからです。

 特に小規模の事業所は、過半数代表者の選出すらしていないことが多いようです。過半数代表者がいない場合、使用者は会社のルールすら作成できない状態にあることをよく認識しておく必要があります。

 社内のルール作成に当たっては、その内容を吟味することは当然ですが、作成手続きにも配慮するようにしましょうね。

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