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自宅待機命令中の賃金支払義務

 おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

 最近は自宅で過ごす時間が長くなり、エアコンの故障が多くなっているというニュースを聞きました。特に最近の夏は異常な暑さで、夜中もつけっぱなしという話をよく聞きますので、エアコンの稼働率はものすごいことになっているのでしょう。

 ということで、今日は自宅待機命令に関するトピックです。

懲戒処分としての自宅待機命令

 自宅待機命令は、「命令」というだけあって、従業員本人の意思とは裏腹に、会社への出勤を停止する処分です。

 自宅待機命令が懲戒処分として発せられる場合は、「自宅謹慎」とか「懲戒休職」という名前で呼ばれることもあります。

 そして、懲戒処分である以上、就業規則等に懲戒事由を規定しておく必要がありますし、自宅待機命令に付すことが相当であると言えるほどの事由が必要です。

業務命令としての自宅待機命令

 懲戒処分を下すに当たっては、当該従業員の行為が懲戒処分に値するほどのものであることが必要です。

 そのため、関係者からの聴き取りや帳簿類の調査など、事実関係の調査を行った上で、会社としてどのような処分を下すのが相当かを検討することが必要です。

 その間、もしかすると非違行為をしたかもしれない従業員を通常業務に就かせることは適切でないことがあります。

 例えば、会社の金を横領しているかもしれない従業員について、その調査中に引き続き経理を担当させていると、新たな横領行為を誘発する可能性がありますし、非違行為の証拠を隠滅・隠匿される危険性もあります。

 また、ハラスメントの実行者であると疑われる従業員を野放しにしておくと、万が一ハラスメントの事実があった時には、被害者の従業員に与える影響が取り返しのつかない結果につながる危険性があります。

 そこで、懲戒処分の有無を決定するまでの期間中、本人に会社への出勤をさせないこととするために、出勤停止・自宅待機・休業を業務命令として命じることができます。

 ただし、その業務命令が権限濫用になる場合には、命令自体が無効とされることもありますので、調査等に必要な範囲内に留めておくことが必要です。

賃金の支払義務

 “懲戒処分“としての出勤停止の場合は、原則として賃金を支払う義務はありません。また、勤続年数にも算入されません。 

 “懲戒処分“としてではなく“業務命令“として行う自宅待機の場合には、従業員側に就労請求権はありませんので、賃金を支払っている限り就業規則に明確に定めていなくても業務命令として行うことができます。

 つまり、就業規則に定めがないものの、業務命令として自宅待機を命じる時には、賃金の支払いをすることが必要ということです。

 もし、賃金の支払いをせずに自宅待機命令を発しようとするのであれば、事故発生・不正行為再発のおそれや証拠隠滅のおそれがあり、そのことについて従業員に帰責事由があるなど、当該従業員の出社を認めないことに実質的な理由のあることが必要です。

 ただし、懲戒処分の前提としての調査等のための自宅待機命令は、通常はまだ従業員の非違行為に白黒の判定がついていない状態で出されるものです。したがって、その期間中に、本人の帰責事由を認定してしまって無給とすることは少々危険です。

 業務命令による自宅待機中は賃金を支払っておく方が無難でしょう。

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