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普通解雇と懲戒解雇の違い

 おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

 一口に「解雇」といっても、いろいろな種類の解雇がありますが、今日は普通解雇と懲戒解雇の違いについて説明します。

理由の違い

 まず、どんな理由があるときに解雇することができるのか、という点で違いがあります。

 懲戒解雇は、就業規則に懲戒解雇できる事由の記載が必要です。就業規則に書かれていない事由で懲戒解雇をすることはできません。
 普通解雇の場合は、就業規則に解雇事由を規定しておく必要はないという説と、普通解雇の場合も就業規則に定めた事由に限って解雇できるという説があります。ただし、普通解雇事由は、通常、例示的に列挙した上で、最後に「その他前各号に掲げる事由に準じる重大な事由」というように、包括的に解雇事由を規定していますので、ほとんどの重大な事由については解雇の理由になりうることになります。

 懲戒解雇は、就業規則で定めた事由でしかできないので、従業員の具体的な言動が就業規則に定めた懲戒解雇事由に当てはまるかどうかを判断しなければなりません。
 ですから、使用者は、懲戒解雇をした後になって別の懲戒解雇事由が判明したとしても、その事実を懲戒解雇の理由に追加することはできません。

 ただし、就業規則に定めた懲戒解雇事由に形式的には当てはまるといえる場合であっても、「当該行為の性質・態様その他の事情に照らして社会通念上相当なもの」と認められない場合には、懲戒解雇は無効とされてしまいます。

 一方、普通解雇については、どのような事由があれば解雇できるのかについて就業規則上明確でないこともありますので、使用者の判断で自由に解雇することができるようにも思えます。

 しかし、普通解雇についても、“解雇権濫用法理”というルールがあって、そう簡単に解雇できないようになっています。
 つまり、労働契約法第16条に、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定されています。

 客観的に合理的な理由があると言えるには、①労働者が労務を提供できないとか、労働能力や適格性に欠けている場合、②労働者が職場規律に違反した場合、③経営上の必要がある場合(整理解雇)、④ユニオン・ショップ協定(組合員でないと雇用契約しないという協定)に基づく組合の解雇要求がある場合、のいずれかが必要です。

 そして、社会通念上相当であると言えるには、解雇の事由が重大な程度に達しており、他に解雇回避の手段がなく、かつ労働者の側に宥恕すべき事情がほとんどないことが必要です。

 ちなみに、懲戒解雇にも解雇権濫用法理のルールが適用されますが、普通解雇よりも一層厳格に、客観的に合理的な理由があるか、社会通念上相当であるといえるか、が検討されます。

手続の違い

 普通解雇の場合は、30日前までに解雇予告をするか、30日分の平均賃金を支払うかしなければなりません(15日前に解雇予告をして残り15日分については15日分の平均賃金の支払をする、という感じの日割り計算でも大丈夫です。)。

 懲戒解雇の場合には、そのような解雇予告は不要と誤解されている方もいらっしゃいますが、懲戒解雇の場合にも解雇予告は必要です。ただし、労働基準監督署の除外認定を受けることによって、解雇予告せずに解雇することが可能な場合があります。

 また、懲戒解雇は罰としての意味もありますので、懲戒解雇処分をする前に、該当する労働者に弁明の機会を与えなければなりませんし、その他に就業規則に定めた手続があれば、そのとおりに進めなければなりません。

効果の違い

 懲戒解雇の場合、退職金を支払いたくない気持ちはわかります。

 しかし、懲戒解雇の場合は退職金を支払わない、ということを就業規則に規定しておかないと、退職金を不支給とすることはできません。懲戒解雇だから当然に退職金は支払わない、ということはできないのです。

 また、懲戒解雇の場合は、自己都合退職と同じ扱いになるので、失業保険の給付を受けるまでの日数が長くなりますし、次の就職先に対しても懲戒解雇の過去があることを告げなければならないので、退職後の影響も大です。

迷ったら両方しておく

 懲戒解雇よりも普通解雇の方がハードルが低いので、確実に会社を去って欲しいのであれば、使用者としては、懲戒解雇と併せて普通解雇もしておく方が良いでしょう。


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