裁判所から給料差し押さえの通知が届いたら

 おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

 今日は事務所の引っ越しです。2018年の独立の際は何もかもがゼロからのスタートで事務員もいない中、進行中の案件を抱えながらでしたので、本当に大変でした。

 それに比べると今回は10分の1くらいのプレッシャーですが、それでも満身創痍の中での荷造りは堪えます・・・すっかり事務所の他のメンバーに甘えっぱなしです。

 さて、今日は、ごくたまに顧問先からも相談を受けることのある、従業員の給料の差し押さえについてです。

 裁判所から、従業員の給料について、債権差押通知書が届き従業員への給料の支払いはしないように、と言われたら、会社はどうすればいいでしょうか。

債権差押えの手続き

 従業員が債務を負っているにもかかわらず、その支払いをしないでいると、その従業員の財産を差し押さえる手続きを取られることがあります。

 そして、債権者が従業員の就業先を知っている場合には、少しずつでも確実に回収できる給料の差押えをしてくることが少なくありません。

 給料の差押えをするには、債権者は、当該従業員に対する債権について裁判所の判決や強制執行認諾文言付の公正証書等に基づいて、債権差押えの申立をします。ここでいう「債権」は、従業員が会社に対して持つ給料支払い請求債権のことです。会社から従業員に給料が支払われてしまうと、従業員がそれをすぐに使ってしまうかもしれません。そこで、この給料支払い請求債権を従業員の債権者が差し押さえて、従業員ではなく債権者に支払うことを命じるのです。

 裁判所は、債権者からの差押命令申立に理由があると判断すれば、債権差押命令を出し、第三債務者(債権者から見ると従業員が債務者で、従業員に対して給料支払い債務を負っている会社は第三債務者ということになります。)である会社に送達します。

 債権差押命令を受け取った会社は、債務者である従業員(Aさん)への差押債権(給料債権)の弁済が禁止されます(民事執行法145条1項)。

 債権差押命令を受け取った後は、会社が従業員Aに給料を支払ってしまったとしても、会社は差押債権者に対して、従業員Aへの給料はもう支払ったから差し押さえるものはありませんよ、と言うことができず、差押債権者から取立てを受ければ、これに応じなければなりません(民法481条1項)。

 二重払いをすることになってしまった会社は、従業員Aに対して、その分を求償することができます(民法481条2項)。しかし、差押えを受けるような従業員Aが支払ってもらった給料を大切に預金していることはあまりなく、さっさと使ってしまっていることが多いですし、生活に困窮していることも大いにあって、そのような従業員から厳しく取り立てることはなかなか困難です。
 ですから、会社としては、裁判所からの通知が届いたら、それに従うのがよいでしょう。

どこまで差押えられるか

 給料や賞与の請求権のような継続的給付債権に対する差押えの効力は、「差押債権者の債権及び執行費用の額を限度として,差押えの後に受けるべき給付」にも及びます(民事執行法151条)。
 つまり、毎月発生する給料にも差押えの効力が及ぶので、差押債権と執行費用が全部回収される金額に達するまで、毎月の給料が差押えられ続けます。

 ただし、債務者にも生活がありますから、給料債権全額の差押えはできません(全額の差押えを認めるような法律は、国民の最低限の生活を保障した憲法に違反するものとして認められないのです)。
 つまり、給料などの債権については、「その支払期に受けるべき給付の4分の3に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は、差し押さえてはならない」こととされています(民事執行法152条1項)。

 この場合の「支払期に受けるべき給付」の額は、給与債権の名目額から所得税、住民税、社会保険料、通勤手当を控除した手取額です。

 ただし、養育費のような扶養義務等の債権に基づく差押えにおいては、差押禁止の範囲は「2分の1」です(民事執行法152条3項)。

陳述書

 第三債務者である会社は、裁判所書記官から差押債権についての陳述の催告を受けたときは、陳述すべき義務を負い、故意または過失によって陳述をしなかったとき、または不実の陳述をしたときは、これによって生じた損害を賠償しなければなりません(民事執行法147条2項)。

 陳述書は提出しないといけないんですか?と良く聞かれますが、提出しないといけませんよ!

 陳述書に必要事項を記載して送付した後は、差押債権者に連絡して支払いについて問い合わせてもいいですし、差押え債権者からの取立を待ってもいいです。

当該従業員に対する処分

 給与の差押えをされると一瞬驚きますし、陳述書の提出などで煩わしい思いをすることもあります。

 しかし、業務自体に関する非違行為ではありませんので、差押え自体を理由に懲戒処分をすることはできません。

 ただし、金銭問題を抱えている可能性がありますので、会社の経理等には関与させない方が良いでしょうね。

 また、プライベートで大きなトラブルを抱えている可能性もありますので、本人の意向に反して深入りしないように注意しつつ事情を聞き、会社として何か手助けできることはないかを探ってみることが大切でしょう。

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