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直行直帰の営業職の労働時間はどうやって管理する?

 おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

 コロナ感染者の全数把握がなくなって、いったい今どんな感染状況なのか全く気にしなくなり、どんどん夜の懇親会の数が増えています。そんな中、昨日、久し振りに感染者が増加傾向にあり、11月下旬ころから第8派がくるのでは?というニュースを見ました。
 いよいよ自分自身の情報収集と判断で行動しなければならない時期が来ているようですね。
 今年の年末年始は楽しく過ごせますように・・・

 さて、今日は、直行直帰の営業職に事業場外労働のみなし制の適用が認められた裁判例を紹介します。

 直行直帰の場合、タイムカードを押すわけでもなく、上司の目の届く範囲に常にいるとも限らないため、正確な出退勤時刻を把握することがほぼできません。

 そこで、医薬品製造等を業とする被告会社のセルトリオン・ヘルスケア・ジャパンでは、直行直帰の営業職について、一律に事業場外労働のみなし制の適用を受けるものとして扱ってきました。

 被告会社のMR(医薬情報担当者)であった原告は、平成29年7月から令和2年3月まで、自宅と営業先の間を直行直帰する勤務形態で営業職に従事していました。そして、退職後に、自己に適用されていた事業場外労働のみなし制が無効であったとして、割増賃金の請求等を求めました。

 東京地方裁判所(令和4年3月30日判決)は、以下の理由で、原告に事業場外労働のみなし制が適用されることを認めました。

事業場外労働のみなし制が適用される場合とは

 労働基準法38条の2第1項により、事業場外労働のみなし制が適用されるのは、「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事し」、かつ、「労働時間を算定し難い」場合です。

 東京地裁は、最高裁平成26年1月24日判決を引用して、「労働時間を算定し難い」ときに当たるか否かの判断は以下のようにする旨を示しました。

・・・業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等、使用者と労働者との間で業務に関する指示及び報告がされているときは、その方法、内容やその実施の態様、状況等を総合して、使用者が労働者の勤務の状況を具体的に把握することが困難であると認めるに足りるかという観点から判断することが相当である。

具体的にどんな事情があるときに、労働時間を算定し難い、と言えるのか

 本件では、以下の事情により、使用者である被告が原告の勤務状況を具体的に把握することは困難であったと認定し、したがって、事業場外労働のみなし制の適用があるとしました。

  •  原告の業務は、営業先である医療機関を訪問して業務を行う外回りの業務であり、 基本的な勤務形態としては、被告のオフィスに出勤することなく、自宅から営業先に直行し、業務が終了したら自宅に直接帰宅するというもの であった。

  •  原告の各日の具体的な訪問先や訪問のスケジュールは、基本的には原告自身が決定しており、上司であるエリアマネージャーが、それらの詳細について具体的に決定ないし指示することはなく、各日の業務スケジュールについては原告の裁量に委ねられていた。

  •  被告は、原告を含むMRに対し、週1回、訪問した施設や活動状況を記載した週報を上司であるエリアマネージャーに提出するよう指示していたが、証拠 (書証略)によれば、週報の内容は極めて軽易なものであり、何時から何時までどのような業務を行っていたかといった業務スケジュールについて具体的に報告をさせるものでは なかった。

  •  被告では、平成31 年1月以降は、原告を含むMRに対し、 「Salesforce」といったシステムに、訪問先の施設、当該施設側の担当者及び活動結果の種別等の情報を入力させていたが、同システムは、顧客管理のために用いられていたものであり、各日の業務スケジュールについて具体的に入力するものであったとは認められない。

  •  被告は、原告を含むMRに対し、被告の備品であるスマートフォンを用いて本件システムにログインした上で出退勤時刻を打刻するよう指示しており、また、打刻を登録した際の場所が記録されるように、スマートフォンの位置情報を本件システムが利用できるようにした状態で打刻の登録を行うよう指示していたが、本件システムによる記録から把握できるのは、出退勤の打刻時刻とその登録がされた際の位置情報のみであり、出勤から退勤までの間の具体的な業務スケジュールについて記録されるものではなかった。

システム上打刻された時間の全てが労働時間に該当するとは限らない

 また、本件では、原告は、システム上、出退勤時刻を打刻していましたが、その記録にはシステム上の打刻の他に手入力によるものもあり、また、原告が出勤時刻の打刻を自宅を出る前に行い、退勤時刻の打刻を帰宅してから行っていたことから、その打刻の時間内全てを労働に使っていたとは考えられないということで、システム上の出退勤記録ではなく事業場外労働のみなし制度により労働時間を算定すべき(つまり、所定労働時間を勤務したものとみなす)、としました。

 結果的に、使用者に有利な判断が出されてと言えるでしょう。

 しかし、このような直行直帰の外回り営業は、使用者の管理下を外れて公私の区別もなく労働に従事してしまうこともあります。

 会社としては、従業員が過重な労務とストレスに晒されないよう、十分配慮した運用をすることが必要ですね。

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