ビジネスと人権に関する指導原則と日本の計画
おはようございます。弁護士の檜山洋子です。
昨日は、ビジネス上のリスクとなる人権として法務省の整理したもの(法務省人権擁護局・(公財)人権教育啓発推進センター「今企業に求められる『ビジネスと人権』への対応)のうち、自社の従業員に関するものを中心に紹介しました。
それ以外にも、サプライチェーン上関わりのある人権や、地域社会における人権についても、ビジネスを行う上では人権リスクとなりうるものがあります。
どこにそのようなリスクが潜在しているかを検討するに当たっては、ビジネスと人権に関する指導原則を確認する必要があります。
ビジネスと人権に関する指導原則
国連は、2011年、「ビジネスと人権に関する指導原則」(単に「指導原則」と呼ばれます)を策定し、以後、ビジネスと人権に関する国際的な基準となっています。
指導原則は、次の3つを柱として、あらゆる国家及び企業に、その規模、業種、所在地、所有者、組織構造にかかわらず、人権の保護・尊重への取組を促しています。
① 人権を保護する国家の義務
人権及び基本的自由を尊重し、保護し、充足する国家の既存の義務
② 人権を尊重する企業の責任
全ての適用可能な法令の遵守と人権尊重が要求される、専門的な機能を果たす専門化した社会的機関としての企業の役割
③ 救済へのアクセス
権利と義務が、その侵害・違反がなされた場合に、適切かつ実効的な救済を備えているという要請
そして、国家の義務(State Duty)として10の原則、企業の責任(Corporate Responsibility)として14の原則、救済へのアクセス(Access to Remedy)として7の原則を定めています。
「企業の責任」として明確に定められていることからわかるように、指導原則は、国家だけでなく民間の企業も人権に対して責任を負う、つまり、人権を尊重する社会的道義的責任があることを明示しています。
国別行動計画(National Action Plan on Business and Human Rights、NAP)
指導原則は、世界の各国に対し、指導原則の普及・実施に関する行動計画を作成することを奨励しています。
イギリスが2013年に早々とNAPを策定し、それに続いてイタリア、オランダ、ノルウェー、アメリカ、ドイツ、フランスがNAPを策定しました。2019年には、タイがアジアで初めてNAPを策定しました。
日本の動きは遅く、2020年10月にようやく、NAPとして「『ビジネスと人権』に関する行動計画(2020-2025)」が公表されました。
そこには、ビジネスと人権に関して、政府のみならず、企業のとるべき行動についての記載があります。
つまり、企業に対して、ビジネスにおける人権への影響の特定、予防・軽減、対処、情報共有を行い、人権デューデリジェンスを導入することを求めています。
そして、分野別行動計画として、
(ア)労働(ディーセント・ワークの促進等)
(イ)子どもの権利の保護・促進
(ウ)新しい技術の発展に伴う人権
(エ)消費者の権利・役割
(オ)法の下の平等(障害者、女性、性的指向・性自認等)
(カ)外国人材の受入れ・共生
という6つの横断的事項を挙げています。
ビジネスと人権に関して企業が責任ある行動を促進させ、企業活動による人権への悪影響を受ける人々の人権保護・促進を図ることにより、日本企業の企業価値と国際競争力の向上などが期待されています。
日本におけるビジネスと人権
日本におけるビジネスと人権は、まだ始まったばかりです。
しかし、それは、これまでビジネス上人権が無視されてきたという意味ではありません。無意識にせよ、人権を尊重する精神を持って経営にあたられている会社は既にたくさんあります。
そのような会社にあっても、今後は、人権に意識を向けて意図的に人権尊重をするようにして欲しいと思います。
そうすることで、隠れていた人権リスクを発見することができますし、人権を守られる側の会社に対する信頼度が上がり、競争力を増強することができるからです。
そのために、人権デューデリジェンスを実施し、改めて自社の人権リスクに対処するようにしてみましょう。