法人格否認の法理
おはようございます。弁護士の檜山洋子です。
法律の世界では、人のことを「自然人」と呼び、自然人以外に「法人」という存在がある、ということを知った時には、「???」という感じでした。
しかし、しょせんは法人は自然人が作ったもの。
時に形だけの存在で実態が伴わないこともあります。
そんな時にまで「法人」を楯にとられると何かと不都合なことがあります。
そこで、時と場合によって、法人格を否定してその背後にいる自然人や別の法人に、当該法人が負うべきだった責任を取らせようという考え方が出てきました。
それを法人格否認の法理といいます。
黒川建設事件(東京地方裁判所平成13年7月25日判決)
この事件では、東京地方裁判所は、本来会社が支払うべき退職金について、法人格否認の法理を使って、会社の株主に支払うよう命じました。
事案の概要
原告らは、B社に雇用された後、B社の資金繰り悪化に伴う解散により、同じグループ内の新設のA社に移籍し、取締役になりました。
A社のグループ会社3社でA社の株式の98%を保有しており、この3社の株式の大半を実質的にはY1が持っていました。
Y1は、資金繰りの悪化したB社を分社化して、負債部門だけを残したB社を清算し、B社の設計業務を新設のA社に、B社の建設業務を新設のY2社に移管しました。
つまり、負債を清算して実質的にはB社を存続させたことになります。
実際、Y2社の社名には、B社のかつての商号を使っていました。
グループ会社再編から約10年後には、グループ全体が一企業体のようになり、グループ各社はその企業の一部門のようになっていました。
A社の財務経理は、 Y2社の財務部が掌握し管理していました。そして、Y1は、グループ統括部の長等として、A社の財産を実質上支配管理していました。
グループ各社の人事・財務は一括してY2社が管理しており、それ以外の業務執行についても、各社の代表取締役や取締役会に一定の裁量はあったものの、その権限は予め大幅に制約されていました。
原告らが取締役を務めるA社は、設立当初から実態がほぼなく、Y1はA社の設立当初からA社の決算を粉飾し、大きな債務超過を隠蔽していました。また、A社の営業利益をY2社に吸収させるなどして、A社の財務会計を自由に利用していました。
原告らは、A社を退職しましたが、退職金も支払われないままでしたので、Y1とY2に対して未払い退職金等を求めて訴訟を提起しました。
裁判所の判断
東京地方裁判所は、以下のように述べ、本件では法人格否認の法理の適用の効果として、YらはA社と同一視されるから、原告らのYらに対する請求は認められる(連帯債務となる)としました。
1 法人格を認めるべきではないことがあることについて
2 どんなときに法人格が否認されるか
3 A社は法人格が否認されるべきことについて
法人格否認の法理はあくまでも例外
法人格否認の法理は、法人が権利義務の主体となるとする法律の原則を変形させて、必要な救済を図るためのものです。
したがって、あくまでも例外的な措置ですから、頻繁に認められるものではありません。
しかし、本件の裁判で問題となった会社のように、法人格を経営者の都合のいいように利用しているだけというような場合には、法人格を否認されて、背後で法人を利用している個人や他の支配会社が責任を追及されることになります。
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