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退職と賞与
おはようございます。弁護士の檜山洋子です。
大切に育ててきた従業員から、ある日突然、会社を辞めたいと言われた時のショックは大きいです。
これまで苦楽を共にしてきたんじゃなかったのか?
これから組織の中心になって活躍してもらおうと思っていたのに・・・
様々な思いが交錯します。
だんだんと憎い気持ちも沸いてきたりして、できる限り不利な条件で辞めさせようとしたり。
そろそろボーナス支給の予定日が近づいているけど、その前に辞めてくれんか?
かわいさ余ると憎さが100倍になるというアレですね。
支給日在籍要件
ただ、もともと、就業規則や賞与規程等に、賞与はその支給日や基準日に在籍する従業員に支給する、という定めをおいている会社が多いと思います。
そうすると、退職日によっては、賞与を支払わなくていいことになる可能性があります。
え、でも、賞与って、支給日までの半年間の功労に報いるために出すのでは?という疑問が沸いてきます。
実際、この支給日在籍要件の有効性が問題となった最高裁判所の判決があります。
大和銀行事件(最高裁判所第一小法廷昭和57年10月7日判決)は、次のように述べて、支給日在籍要件を有効としました。
・・・被上告銀行においては、本件就業規則32条の改訂前から年2回の決算期の中間時点を支給日と定めて当該支給日に在籍している者に対してのみ右決算期間を対象とする賞与が支給されるという慣行が存在し、右規則32条の改訂は単に被上告銀行の従業員組合の要請によって右慣行を明文化したにとどまるものであつて、その内容においても合理性を有する・・・
また、京都新聞社事件(最高裁判所第一小法廷昭和60年11月28日判決)も、以下の理由を示して支給日在籍要件を有効としました。
・・・賞与はその支給日に在籍している従業員及び嘱託に対してのみ支給する、ただし賞与の計算期間中に在籍し支給日に在籍しない定年退職又は死亡退職の従業員及び死亡解嘱の嘱託に対しては例外的に当該賞与を支給する、という慣行が存在していた・・・
・・・賞与の受給権の取得につき当該支給日に在籍することを要件とする前記の慣行は、その内容において不合理なものということはできず、上告人がその存在を認識してこれに従う意思を有していたかどうかにかかわらず、事実たる慣習として上告人に対しても効力を有するものというべきである・・・
解雇と支給日在籍要件
退職する従業員が自分で退職の日を選択した結果として、賞与の支給日に在籍しないことになり、賞与を支給されないのは仕方ないかもしれません。
しかし、解雇の場合は、従業員は自分で退職の日を選ぶことができません。
解雇の場合でも支給日在籍要件は有効と考えていいのでしょうか。
裁判(下級審)の傾向としては、懲戒解雇のみならず普通解雇の場合でも、支給日在籍要件の有効性を前提とした判断がなされているようです。
しかし、このような裁判例に対しては有力な学説からの批判があります。
解雇は従業員が自分で退職時期を選べないのに、賃金の後払い的な性格を持つ賞与を支払わないことにしていいのか?と。
このような見解があるということは、今後裁判になった時に、支給日在籍要件が無効と判断されたり、その要件自体は有効としつつ具体的な場面においてその適用を否定される可能性はあります。
実際の支給日と支給予定日
支給日在籍要件は、実際の支給日に在籍していることを要件として賞与を支給するものです。
では、当初予定されていた支給日に支給せず、退職者の退職を待ってから実際に支給し、その支給日に退職者が在籍していないことを理由に不支給とすることはできるのでしょうか。
この問題について、「賞与は年2回6月、12月に支給する。但都合により時期を変更することがある」旨の給与規程の定と支給日在籍者を支給対象者にする慣行がある会社において、6月の賞与を9月支給に遅延した場合、その遅延に宥恕すべき特段の事情がないなら、実際の支給日である9月に在籍した者だけを対象に賞与を支給することは合理的ではないとした裁判例があります(ニプロ医工事件(最高裁判所第三小法廷昭和60年3月12日判決))。
支給日在籍要件の適用は慎重に
このニプロ医工事件のように、支給日在籍要件自体は有効なのにもかかわらず、その要件の適用場面を限定的に捉えることもありますので、具体的な事情に応じて支給日在籍要件は慎重に適用するようにした方が良さそうです。
ただし、具体的な場面ごとに違った適用をしていると、従業員によって不公平な結果になって不満が勃発するかもしれません。
できるだけ客観的に公平な取扱いにすることも重要です。
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