見出し画像

割増賃金か休暇か

 おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

 毎年この時期になると、ゴールデンウィークの計画を立て始めるのですが、今年はコロナがどうなるのか先が見えず、大胆な計画が立てられずにいます。

 昨年に続き、ステイホームで骨休めかなぁ・・・

 ということで、今日のテーマは、「代替休暇」です。

代替休暇とは

 代替休暇とは、割増賃金の支払いの代わりに、通常の賃金を支払いながら与える休暇のことです。

 労働基準法上、使用者は、月60時間を超える労働に対しては、通常の労働時間の賃金の5割以上の割増賃金を支払わなくてはなりませんが、その割増賃金の支払いに代えて通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(有給休暇を除く)を与えることができる、という制度です。

 時間外労働の時間が長くならないようにするため、1か月60時間を超える時間外労働については法定割増賃金率が5割以上とされていますが、臨時的な特別の事情等によってやむを得ず60時間を超えてしまうこともありえます。このような時に、長い時間外労働をさせた労働者に休息の機会を与えるため、1か月について60時間を超えて時間外労働を行わせた労働者について、法定割増賃金率の引上げ分の割増賃金の支払に代えて有給の休暇を与えることができることにされたのです。

(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
第37条 使用者が、第33条又は前条第1項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が1箇月について60時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
② (省略)
③ 使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第1項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(第三十九条の規定による有給休暇を除く。)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項ただし書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、同項ただし書の規定による割増賃金を支払うことを要しない。
④ (省略)
⑤ (省略)

中小企業は猶予中

 現在のところ、中小企業は、月60時間を超える時間外労働に対する50%以上の割増賃金の支払い義務は猶予されています。

第138条 中小事業主(その資本金の額又は出資の総額が3億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については5000万円、卸売業を主たる事業とする事業主については1億円)以下である事業主及びその常時使用する労働者の数が300人(小売業を主たる事業とする事業主については50人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については100人)以下である事業主をいう。)の事業については、当分の間、第37条第1項ただし書の規定は、適用しない。

 しかし、2018年の働き方改革関連法による労基法改正により、この猶予規定は廃止されることになりました。そのため、中小企業も、2023年4月1日からは、月60時間を超える時間外労働に対しては50%以上の割増賃金を支払わなければならなくなります。

 そのため、労働時間の把握や管理がより一層シビアに要求されることになりますし、そもそも労働時間が伸び伸びにならないように、業務の効率化を追求する必要性も高まります。

 そして、代替休暇の制度導入についても積極的に検討しておくべきでしょう。

代替休暇を与えるための要件

 代替休暇は、使用者が労働者の意向を無視して一方的に与えることとすることはできません。

 当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定が必要です。

 労使協定の締結によって代替休暇を実施する場合には、代替休暇に関する事項を、労働基準法第89条1号の「休暇」として就業規則に記載する必要があります。

 また、労使協定は、個々の労働者に対して代替休暇の取得を義務付けるものではなく、労使協定が締結されている事業場においても、個々の労働者が実際に代替休暇を取得するか否かは労働者の意思による、というのが通達(平21.5.29基発0529001号)の内容です。
 ただし、これについては、代替休暇が労働者の健康に配慮するための制度であるなら、就業規則に「代替休暇は、労働者の意向を聴取したうえ、これを指定できる」と規定しておけば、使用者が休暇の取得を指定できると考えるべき、という見解もあります。

労使協定で定める事項

 代替休暇に関する労使協定では、以下の事項を定めることが必要です(労働基準法施行規則19条の2、通達(平21.5.29基発0529001号))。

① 代替休暇として与えることができる時間の時間数の算定方法

  算定方法は、1か月60時間を超えた時間外労働時間数×換算率(※)ですが、この換算率は(60時間を超えた時間外労働に対して5割以上で定められた特別の割増率)-(60時間以内の時間外労働に対して2割5分以上で定められた特別の割増率)ですから、60時間を超える時間外労働に対する割増率と、60時間以内の時間外労働に対する割増率が決まっていればその割増率を、決まっていなければ法定の最低割増率を使って算定方式を決めておく必要があります。
 つまり、60時間を超える時間外労働に対して5割の割増賃金を、60時間以内の時間外労働に対して2割5分の割増賃金を支払うことにしている場合には、換算率は2割5分(5割-2割5分)です。
 1か月100時間の時間外労働をした場合には、代替休暇として与えることのできる時間数は、40(100-60)時間×0.25=10時間ということになります。

② 代替休暇の単位(1日又は半日(代替休暇以外の通常の労働時間の賃金が支払われる休暇と合わせて与えることができる旨を定めた場合においては、当該休暇と合わせた1日又は半日を含む。)とする。)

 「代替休暇以外の通常の労働時間の賃金が支払われる休暇」と代替休暇とを合わせて与えた場合においても、法第37条第1項ただし書の規定による法定割増賃金率の引上げ分の割増賃金の支払に代えることができるのは、代替休暇の部分に限られます(通達)。

③ 代替休暇を与えることができる期間(法第33条又は法第36条第1項の規定によって延長して労働させた時間が1箇月について60時間を超えた当該1箇月の末日の翌日から2箇月以内とする。)

 代替休暇を与えることができる期間として労使協定で1か月を超える期間が定められている場合には、前々月の時間外労働に対応する代替休暇と前月の時間外労働に対応する代替休暇とを合わせて1日又は半日の代替休暇として取得することも可能、とされています(通達)。

④ その他、通達で定める事項

a 労働者に代替休暇取得の意向がある場合には、現行でも支払義務がある割増賃金(法第37条第1項本文の規定により2割5分以上の率で計算した割増賃金)について、当該割増賃金が発生した賃金計算期間に係る賃金支払日に支払うこと。
 代替休暇取得の意向があった労働者が実際には代替休暇を取得できなかったときには、法第37条第1項ただし書の規定による法定割増賃金率の引上げ分の割増賃金について、労働者が代替休暇を取得できないことが確定した賃金計算期間に係る賃金支払日に支払う必要があること。

b a以外の場合(労働者に代替休暇取得の意向がない場合、労働者の意向が確認できない場合等)には、法定割増賃金率の引上げ分も含めた割増賃金(法第37条第1項ただし書の規定により5割以上の率で計算した割増賃金)について、当該割増賃金が発生した賃金計算期間に係る賃金支払日に支払うこと。

 法定割増賃金率の引上げ分も含めた割増賃金が支払われた後に、労働者から代替休暇取得の意向があった場合には、代替休暇を与えることができる期間として労使協定で定めた期間内であっても、労働者は代替休暇を取得できないこととすることを労使協定で定めても差し支えないものとされています。

制度の有効活用を

 2023年から、中小企業に対する規制も始まります。

 月に60時間を超える時間外労働というのは、かなりの時間数ですから、そもそもそのような時間外労働をしなくしていい体制を構築しておくことが大切です。

 しかし、小規模の会社は特に、どうしても時間外労働の時間が延びてしまう期間があるでしょう。

 その場合には、できるだけ労働者に体を休めてもらうための代替休暇の制度導入を検討してみてください。単に割増賃金の支払いを免れることだけを目的とするのではなく、制度の趣旨を十分に理解して、有効活用するようにしましょう。

 労働者が「休暇よりもお金で払って欲しい」と言ったとしても、労働者の心身の状況に配慮しつつ、十分協議した上で休暇の取得を促すことも時には必要です。

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?