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配転命令が制限されるのはどんなとき?

 おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

 昨日夕方、タカラヅカで大きな組替えの発表があり、界隈では激震が走りました。

 組替えというのは、その名のとおり、5つある組のどれかに所属しているジェンヌが別の組に異動することです。
 組替えにはいろいろ理由があるそうですが、多くの場合は、より一層の活躍を期待されての組替えであると聞きます。
 とはいえ、10年以上も同じ組でがんばっている姿を応援してきたファンにとっては寂しさもひとしおです。

 組織で働く人たちにも、出世コースに乗っている人に経験を積ませるために配転を命じることがあるでしょう。逆に、社内の人間関係のトラブルを避けるためとか、能力不足を補うためなどの消極的な理由で配転が命じられることもあります。

 いずれにしても、配転命令は労働契約上の人事権の1つとして発することができるものです。

 しかし、どんな配転命令でも100%許されるかといえば、そのようなことはなく、業務上の必要性があり、また、労働者本人の職業上・生活上の不利益に配慮して行われるものであることが必要です。
 そうでなければ、その配転命令は権利濫用として無効とされます。

 今日は、どのような場合に配転命令権の発動が制限されるかについて、簡単にまとめておきます。

労働契約上の制限

 まず、使用者と労働者との間の労働契約の内容として、職種が限定されている場合に、その職種を変更するような配転命令を一方的に出すことは許されません。

 例えば、医師、看護師、ボイラー技士などの特殊な技術、技能、資格を持つ労働者については、その職種を変更するような配転命令はできません。

 裁判では、アナウンサー、タクシー運転手、児童相談員、保険会社のリスクアドバイザー、外科医師、自動車技術者等が問題となりましたが、要は、労働契約の内容が、長期の勤続と共に他の職種に配転されうるという合意があると見ることができるかどうかで、その結論は左右されます。

 長期雇用制度を前提として人材育成の観点から行われる配転命令は有効とされる傾向にありますが、昨日のニュースで流れた日立のジョブ型雇用にあるように、職種や部門を限定して契約している従業員については配転させるには本人の同意や就業規則上の合理的な配転条項が必要です。

 職種だけでなく、勤務場所についても、労働契約で特定されている 場合には、勤務場所の変更を伴う配転をするには労働者の同意が必要です。

権利濫用法理による制限

 前述のように、配転命令は、配転の業務上の必要性とは無関係な不当な動機や目的でなされた場合には、権利濫用として許されません。

 その労働者を退職に追い込むためにする配転命令、会社批判の中心人物に対して罰を与えるためにする配転命令、労働組合の中心人物に対する不利益な配転命令などは、配転命令権の濫用として無効になります。

 また、配転命令の業務上の必要性と人選の合理性に比べて、その配転命令が当該労働者に与える職業上・生活上の不利益が著しく大きくアンバランスな場合には、権利濫用であると判断されます。

 ワークライフバランスが求められる昨今、会社は従業員の私生活における環境にも配慮した配転命令を出すことが必要です。

賃金引下げを伴う配転命令の制限

 配転により賃金が下がることになるのが許されるかどうかについては、会社の賃金体系によって有効か無効かの判断が分かれます。

 職務等級制、役割等級制、降格ありの職能給制などにおいては、降級等によって賃金が下がることが予定されています。ですから、就業規則上、配置換えの権限が明示されていることを前提に、降級等による不利益の程度や内容が権限濫用にならない限り、賃金引下げを伴う配転命令は可能です。

 他方で、降級・降職ありの賃金制度が取られていない会社においては、職務内容を大きく下げて、それに伴って賃金を下げることは、基本的には権限の濫用として無効となります。


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