見出し画像

解雇通知の渡し方

 おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

 経営者は、決断の連続です。

 大切に育ててきた従業員を解雇しなければならないこともありますが、いつ通知するか、どう通知するか、決断しなければなりません。

 そのような時、以下の方法を参考にしてください。

解雇通知書の書き方

 解雇が無効だとして裁判になるケースでは、会社から出した解雇通知書が不十分であることが往々にしてあります。

 就業規則のどの条項に基づいて解雇するのか、どんな種類の解雇なのか、実際に起きたことが就業規則のどの条項に該当するのか、などを書いて渡さなければならないのですが、具体的な言動の部分の記載が薄いことが多いのです。

 一応就業規則の第何条の何番目に違反している、ということは書かれているのですが、従業員の具体的などのような言動がそれに該当するのか、の説明がほとんど書かれていないのです。

 普段文章を書くことが少ない経営者が、事務職の従業員に解雇通知書を作成させているんだろうと思うのですが、それだと、通知書を受け取った方は、いったい自分の何が悪くて解雇されるのか全くわかりません。

 会社のお金を横領したとか、罪を犯して逮捕された、会社に全然出てこない、というような明確な理由がある場合でも、その理由が漠然と曖昧に書かれているだけだと、「えー!それ自分じゃないですけど」と弁明することもできません。

 「いつどこでだれが何をどのようにして」という5W1Hを意識して、できるだけ詳しく説明するように書きましょう。

 よく言われるのが、『裁判になった時に裁判所に提出する書面と同じくらい詳しく書こう!』です。

 普段から文章を書き慣れていないと、結構難しいかもしれません。

 実際に目の前で起こっていることを、誰が読んでもわかるように文章にすることはなかなか難しいのです。

 小説やエッセイのようなファンシーな書き方をする必要はなく、事実を淡々と誤解のないように書くことが大切です。その意味で、“裁判所に提出する書面のように”と言われるのです。

いつ渡すか

 そうやって詳しく説明した解雇通知書は、できれば休みの前の日に本人に渡すようにしましょう。

 その際に、その日に解雇の通知をしたんだ、ということを明確に告げましょう。

 もちろん、解雇を通告するまでに、弁明の機会を与えておく必要がありますから(懲戒解雇だけでなく普通解雇の場合にも弁明の機会は与えておくべべきです)、解雇通知書を渡すその日までにはすでに本人からの弁明は聴き取っているはずです。

 本人の弁明を踏まえたとしても解雇やむなしと判断して解雇通知を渡しているのです。

 ですから、堂々と、「あなたを解雇します」と明確に伝えましょう。

 ただし、後々のトラブルを避けるためには、本人に自主退職の道を開けておく方がいいでしょう。
 つまり、「翌日(及び翌々日)の休みの間によく考え、次の出勤の際に自主的に退職することを申し出てくれれば受け付けます、その場合は、解雇通知は撤回します」と伝えておきます。解雇の撤回は、本人の同意なくしてはできないとされていますが、本人から解雇ではなく自主退職を、と言われる場合は、解雇撤回について本人の同意があったと見ることができるので、問題はありません。

 できるだけ本人の意思で退職したことにした方が、後々のトラブルは避けることができます。

 また、詳細な解雇通知書を渡していますので、それを持って本人が法律相談に行ったとしても、相談を受けた弁護士は会社側の主張を知ることができるので、労働者側の一方的な説明だけに基づくことなく、ある程度客観的なアドバイスをすることができます。

 そうすれば、無用な争いはやめておいた方がいいかもよ、というアドバイスを受ける可能性も高まります。

 ただし、労働者から相談を受けた弁護士をして「これは戦えない」と思わせる必要があるので、解雇通知書には事実のわかりやすい説明だけでなく、確固たる(裁判になっても勝てる)客観的な証拠が揃っていることを示しておかねばなりません。

渡した後どうするか

 解雇通知書を渡したら、そのまま出勤しなくなる人も少なくありません。

 しかし、上記のような方法を取っておけば解雇通知は既に完了しているので、出勤しなくなったら、解雇通知を渡して解雇を通告したその日に効力が生じた解雇がそのまま残るだけです。

 解雇通告を明確にしておけば、本人と連絡が取れなくなっても、宙ぶらりんに労働契約が残ってしまう、ということはないのです。

毅然と対処

 長年育ててきた従業員ほど、解雇するのは辛いことです。

 「解雇」って言えば心を入れ替えてもう一度がんばってくれるのではないか、と甘い気持ちを抱いたり、恩を仇で返しやがったヤツには自主退職の道は与えない、などと意固地になったりしていると、結局は、その従業員との関係はこじれていき、長期の紛争になってしまいます。

 十分な調査と聴聞を踏まえて会社としての決断をしたならば、あとはいろんな思いは胸の内に閉じ込めて、毅然とした態度で解雇に踏み切るようにしましょう。

 損切りも時には必要な決断ですよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?