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お前自身がまぶしすぎて-矢吹薫解禁

今までのコラムに何度か名前は出てきている。しかし彼のことをメインテーマとして書いたことはない。書けなかったというのが正直なところか。その男の名は矢吹薫。今日はこの矢吹薫について書いてみたい。矢吹薫いざ解禁。

銀蝿一家の一員といえど、彼には無類のアイドル性がある。甘いマスクにスタイルの良さを持ち合わせ、ルックスは抜群なのである。逆にツッパリのイメージは全くない。

矢吹薫のことが書けなかったと言ったが、彼の音源を聴ける環境がなく、頭の中に何曲かがぼんやりと記憶として残っているだけだったからだ。さすがにそのぼんやりとした記憶でコラムを書くのは無理があった。

デビューから何枚かのシングルは買っていたが今はすべて持っていない。銀蝿一家のレコードはすべて大切に保存しているにもかかわらず矢吹薫は見事に1枚も残っていない。これには理由があって、中学生の当時好きだったちょっと不良なクラスメイトの女子(not ポニーテール)の「矢吹薫ってかっこいいね」の一言にオレはなんの躊躇もなく矢吹薫のシングル盤をプレゼントしてしまったのだ。記憶の中では「お前がまぶしすぎて」「ポニーテールBaby」「哀しすぎて…哀しすぎて…」の少なくとも3枚はプレゼントしている。そのおかげもあってそれ以来その子と一緒に下校しながら、ひたすら銀蝿一家の話をして帰ることができたのはいい思い出。

ファーストアルバムの「出発-TABIDACHI」はそのクラスメイトがカセットテープに録音してプレゼントしてくれたが、そのカセットテープもどこかへ紛れ込んでしまい、そのまま38年矢吹薫の曲を聴くことなく生きてきていた。

シングルの特典だったと思われるポストカードだけ我が家に残っていた。トレードマークのレスポールと共にまるで貴公子のような風貌の矢吹薫。やはりこれを見ても足が長くかっこいい。

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無性に矢吹薫が聴きたくなって、思いつきで矢吹薫のベスト盤的CDを購入してみた。とにかくちゃんと聴くのが38年ぶりだ。懐かしくて泣きそうになった。このアルバムはシングル曲に、ボーナストラックを加え全23曲入りのなかなかのボリュームのあるCDだ。ブックレットはカラーで写真や当時のジャケ写も載っていて、なかなかお得感のあるCDだった。

当時、誰が作詞作曲しているかもチェックする間もなくクラスメイトにプレゼントしてしまっていた。「お前がまぶしすぎて」がTAKUの作品だということくらいしか記憶になかった。

この「お前がまぶしすぎて」は、これぞTAKU節といえる作品だ。ぜひTAKUがボーカルのバージョンを聴いてみたくなる。とにかくゴキゲンなナンバーで甘い矢吹薫の声がまた非常にうまくハマっている。All Right! Come on Baby!としっかりTAKUが前面にも出ている。これはTAKUが作った数ある曲達の中でも最もTAKUらしい曲ではないかと思う。この曲がデビュー曲で、続くセカンドシングルは「ポニーテールBaby」だ。ここら辺のポップチューンの畳み掛け具合は銀蝿一家として矢吹薫を一気にスターに押し上げようとする企みが見える。

「お前がまぶしすぎて」でのTAKUとの相性が抜群だったので次のシングルもTAKUの作品で来るのかと思いきや、続く「ポニーテールBaby」の作詞作曲は翔くんであった。T.C.R.横浜銀蝿R.S.でのカバーバージョンで聴き慣れているせいもあって矢吹薫のオリジナルバージョンを今聴くととにかく新鮮でたまらなかった。翔くんらしいハッピーで痛快なナンバーだ。

ここで気づいたのだが、矢吹薫の作品は意外と翔くんが作っているものが多い。翔くんが歌えばそれは横浜銀蝿になるが、矢吹薫が歌うと矢吹薫としてのオリジナル感がしっかりと出て、かつポップ感が増している。それにしても彼の声が甘い。翔くんとは対照的な声なのがまた組み合わせとして面白い。

TAKUと翔くん以外の作家陣を見てみると、なかなかの凄腕が揃っている。この辺は岩井小百合同様銀蝿一家の枠を越えたシンガーとしての地位を確立させたい意図が見てとれる。例えば、初期チェッカーズのほとんどの曲を作っている売野雅勇さん、芹澤廣明さんのコンビ。このコンビの曲は、藤井郁弥が歌ったらそのまんまチェッカーズになりそうな曲だ。さらにはドラムと「メリージェーン」のイメージが強いつのだ☆ひろさん、グループサウンズとして活躍したザ・ワイルドワンズの加瀬邦彦さん、機動戦士ガンダムII 哀・戦士編」の主題歌を歌う井上大輔さん等錚々たるメンツの作家陣。作詞翔くん・作曲井上大輔さんの「時間は止まって」は名曲だ。

当時NHKで放送されていた「レッツゴーヤング」という歌番組。この番組にサンデーズという番組のオリジナルグループがあった。若手の男女8人くらいのグループで歌や踊り、そしてアシスタント的なこともやっていた。このサンデーズに矢吹薫が在籍していたことを去年に知った。たまにCSでこの「レッツゴーヤング」を再放送しているのだが、当時好きだった少女隊が出る回の再放送を見ていたら矢吹薫がサンデーズとして出演していたのだ。当時毎週のように見ていたはずの番組だが全く記憶にない。ちょうど再放送されたこの回では、矢吹薫が自身の曲「ビコーズ」を歌っていたので永久保存版となったのは言うまでもない。

このサンデーズというグループ。歴代で川崎麻世、松田聖子、田原俊彦、新田純一、ひかる一平、大沢樹生、保坂尚輝あたりがメンバーにいたと思うが、どういう経緯で銀蝿一家の矢吹薫がこのメンバーに入ったのかは非常に興味深い。

このベスト盤を聴いていてとても印象深い曲が「初対面・恋・開花(ヒトメ・ボレ・ダゼ)」だ。この曲は作詞作曲が翔くんの作品でファーストアルバム「出発-TABIDACHI」に収録されていた曲だ。


  渚・横浜・本牧・舞踏館
 (みなとヨコハマ  
  ホンモクディスコティック)
  愛・体験・不思議・夜
 (愛を感じた Ohミステリーナイト)

  初対面・恋・開花・輝・我心・全部
 (ひとめぼれだゼ キラリall my heart)
  悩殺・唇・鳴呼・貴女命
 (いかすくちびる アッアー 
  いとしいぜー)

  真紅・燃焼・小馬結
 (まっかにもえてる ポニーテール)
  指先・輝映
 (ゆびさき キラリ)
  光沢・噂・高級宝石
 (ひかるは うわさのダイヤモンドリング)
  疑・差出人・贈与
 (だれからのプレゼントto you)

  躍動・腰踊・又・舞踏
 (おどるツイスト&ダンス)
  夜・隙間・今夜・初・恋人発見
 (よるのすきまに 今夜はじめて
  星を見つけたのさ)


歌詞カードを見て驚いたが、歌詞はすべて無理くり漢字を並べているという翔くんならではの遊び心満載の歌詞、さらにはメロディーが頭から離れないゴキゲンなスーパーポップチューン。翔くんと矢吹薫の組み合わせがとことん合っていることを証明している。この曲、翔くんが歌ってもばっちりハマりそうなのでぜひ聞いてみたいものだ。

アルバム全編を通してアキ&イサオがガッツリ参加してほとんどの曲を編曲している。ロックでありながら歌謡曲のキャッチーさを絶妙にブランドしていた矢吹薫の歌は同性のオレが羨むくらいにまぶしかった。アキ&イサオ作曲のインスト曲「9th High」はチョッパーベース炸裂でかなりファンキーでかっこいい曲だ。ちなみに横浜銀蝿の「渚のサーフロード」もカバーしている。このインスト曲では矢吹薫自身もギターを弾いていると思われる。

今でも音楽を続けている矢吹薫。現在は四谷のハニーバーストというライブハウスを運営しているそうだ。世の中が落ち着きを取り戻して自由にライブを楽しめる状況になったらぜひ一度遊びに行ってみたい。

銀蝿一家というある種特殊な集団の中で、ギンギンのアイドル路線で異彩を放った矢吹薫。もはやツッパリや不良という概念は微塵もない。ここまで自由に幅広くアーティストを輩出していた当時の銀蝿一家の勢いというものを強く感じる。

ちなみに我が家に残っていたとある雑誌の1984年のアイドル人気投票の結果は以下の通りである。

〈男性アイドル〉
1位:田原俊彦 2位:近藤真彦 3位:シブがき隊
4位:THE GOOD-BYE  5位:風見慎吾 6位:嶋大輔
7位:T.C.R.横浜銀蝿R.S.  8位:矢吹薫
 9位:渡辺徹
10位:竹本孝之 15位:紅麗威甦

〈女性アイドル〉
1位:松田聖子 2位:中森明菜 3位:小泉今日子
4位:堀ちえみ 5位:河合奈保子 6位:石川秀美
7位:早見優 8位:伊藤麻衣子 9位:岩井小百合

流石にジャニーズ強しの結果ではあるが銀蝿一家の躍進ぶりがハンパない。このチャートを見ても分かる通り、岩井小百合と矢吹薫の存在が銀蝿一家の裾野をかなり広げている。やはりこの時の銀蝿一家の勢いは凄かったのだ。そのノリにノッテル銀蝿一家の男性アイドル部門隊長として矢吹薫が急上昇していたのが分かる。これはユタカプロダクション、嵐レコードの策略ズバリといったところだろう。確かに周りの友達には「なんだ全然ツッパリじゃねーじゃん」と心が冷めてるやつがいたことも確かだ。しかしそれ以上に銀蝿一家に幅広いファンがついて、アイドル雑誌に載ってない時はないくらいに露出していた銀蝿一家。ツッパリだけでなく全方位に向けて勝負をかけていた感じが頼もしかった。

「お前がまぶしすぎて」でデビューした矢吹薫自身が誰よりもまぶしすぎるほど輝いていたことを改めて感じることができた今回のベスト盤。いい買い物をした。このまぶしすぎる矢吹薫の魅力にズッポリとハマってしまっている。なんたって仕事中ずっとPlease Please Me…Come on Baby!と脳内リピートされているのだからなかなかのハマり具合だ。

恋するクラスメイトと話したいがために簡単にプレゼントしてしまった矢吹薫のレコード達。今となれば甘酸っぱい思い出ではあるが、数年前に同窓会で会ったこのクラスメイトに「矢吹薫もらったっけ?覚えてない笑」と言われた残念な結果を最後に付け加えておく。次に会った時には「オレの矢吹薫を返してくれ」と言いたいくらいに今オレの中で今矢吹薫が熱い。


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