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ジャケがいいシングルはだいたい名作説

あの頃は7インチのシングルレコードが当たり前だった。1枚700円。月の小遣いで買える値段だ。ひとつのアーティストや歌手に夢中になっているだけなら数ヶ月に一枚がリリースされるこのシングルレコードは小遣いで買えた。

しかし、銀蝿一家が好きな者にとってはどのレコードを買うかは重要なチョイスだったはずだ。銀蝿一家というくらいだからとにかくアーティスト数が多い。T.C.R.横浜銀蝿R.S.はもちろん、Johnny、紅麗威甦、杉本哲太、桃太郎、嶋大輔、岩井小百合、麗灑、矢吹薫、BLACK SATAN… 次々にリリースされる銀蝿一家のレコードを集めることは困難を極めた。当然買えるものをチョイスしないといけない。

どのレコードを買い、どのレコードを我慢するか。買うレコードを選ぶとき、もちろんA面の楽曲の善し悪しは一番肝心なポイントであることは言うまでもない。B面の曲は試聴なんてない時代だから曲名でなんとなく想像してみたり。

まだアルバイトもしたことのない子供の頃の話だ。小遣いを貯めてレコードを買ってイマイチな内容だった時はダメージが大きすぎる。だからチョイスは間違えたくはない。そこで重要になってくるのがジャケ写だ。ジャケ買いという言葉があるくらいジャケ写は重要だ。これはもう好みの問題なので、好きか好きではないかで選ぶしかないのだが、ジャケ写が好きで買ってみたけど内容がイマイチだったということは銀蝿一家ではなかった気がする。

銀蝿一家がリリースしたシングルレコードはいったい何枚くらいあるのだろう?と数えてみると1980年から1985年の間に軽く50枚を越えるほどのシングルレコードがリリースされていた。これだけのレコードをすべて揃えるのは不可能であり、自分の小遣いの範疇で買えるレコードを買うしかなかったのである。

自分で買った銀蝿一家のレコードは今でも宝物として大切にしてある。レコードを手にした瞬間の興奮、家に帰ってレコードに針を落とす瞬間のワクワクした気持ち、そんな想いが詰まっているコレクションはどれも青春の大切な思い出だ。

そんな青春の詰まったレコードの中で、特にジャケットが好きなシングルレコードを集めてみた。いわゆるジャケ買いしたものだ。5枚選んでみたが、どれも実は存在そのものが名盤なんじゃないかと思ったシングルレコードだったことに気づいた。銀蝿一家に於いては、ジャケがいいレコードは中身も当たりなのだ。


■紅麗威甦/好きさ好きさ好きさ好きさ好きさ

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紅麗威甦は横浜銀蝿の弟分でありながら、ジャケ写には横浜銀蝿のモノクロオンリーとは違ってカラー写真が使われることが多かった。この作品もライブでの4人のメンバーの写真がカラーで使われている。同じ700円を出すならカラーのジャケ写の方が満足感があったような気がする。

このジャケットのために撮り下ろした写真ではなく、ライブでのカットが使用されているのは、この曲がライブ感のあるドライブ感が溢れたナンバーであることにぴったりとハマっている。そして紫色のロゴの上に手書きの好きさ好きさ好きさ好きさ好きさの文字が。とにかく明るくポップなイメージのこのジャケ写は凄く印象に残っている。

ジャケ写だけでなく、曲のクオリティはかなり高い。A面「好きさ好きさ好きさ好きさ好きさ」はTAKUの作詞作曲。TAKUらしさ全開のグルーヴ感のある名曲だ。レコードでは杉本哲太のボーカルにTAKUが掛け合いでコーラスするというなんとも胸が熱くなる組み合わせだ。「On the Machine」でもそうだが哲太とTAKUの歌の組み合わせは相性がいい。TAKUのコーラスの素晴らしさの影響もありとにかく疾走感があって最高だ。またTAKUの書いた歌詞はテンポの良い言葉が並び、その歌詞を歌う杉本哲太の声が非常にマッチしている。


  俺と (お前)熱い(恋に)
  抱かれ (揺れて)甘い夢を
  好きさ! (好きさ!)好きさ!(好きさ!)
  好きだぜ HONEY!
  いかした BABY TO-NIGHT!!

  俺とお前で EASY
  飛ばしていこうぜ BABY
  ポニーテール It's so good!
  白いマシンで
  Just my funny date!!
  潮風を受けて走る
  横浜の夜は2人
  好きさ BABY!
  LOVE TO-NIGHT…いかすぜ!!

B面の「瞳で言いわけ…」は、以前ミッツのコラムで書いたのでそちらを参照していただきたい。メロディもいいし、桃太郎のボーカルとエイトビートが最高だ。 A面B面共に大好きな曲が収録されているこのシングルが紅麗威甦のシングルの中で一番好きなシングルだ。



■嶋大輔/暗闇をぶっとばせ

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このシングルが嶋大輔のシングルの中では最高傑作だと思っている。A面「暗闇をぶっとばせ」は嶋大輔史上一番好きな曲だ。大ヒットした「男の勲章」に続けとばかりに嵐さん作詞・Johnny作曲の完璧な楽曲となっている。


  暗闇にまぎれて 息ずくお前の
  夢に 明日はあるのかい
  朽ち果てた過去にだけ
  しがみついていりゃ
  夢も 光失せちまうぜ

  錆び付いた心に 渇いた涙
  愛の言葉さえ なくした
  最後のチャンスさえ 背をむけてりゃ
  夜明けなんて 望めないぜ

  生傷たえない 俺はチャレンジャー
  牙をむいた 野良犬
  暗闇を引きさく 俺の叫びは
  明日への 挑戦状


嵐さんらしい男っぽい歌詞に当時は熱くなった思い出がある。特にAメロの男らしさ溢れる歌詞には完全にノックアウトされた。今読み返してもこの歌詞は熱くなる。またJohnnyの作ったメロディーもまた秀逸だ。アッパーで前向きな曲として作り上げている。そこまでテンポの早い曲ではないのにかなり疾走感のある曲となっているのは動きまくるベースラインとイントロ、間奏、アウトロのギターソロの存在が大きいだろう。このギターはアキ&イサオのプレイなのだろうか。本当にいいギターフレーズだ。

アッパーなA面とは違いミディアムテンポのB面「ルンルン気分でRock'n Roll」はTAKUの作品だ。とにかく大輔の声質にハマりまくった名曲だ。これもまたベースラインが抜群だ。コーラスと共にベースもTAKUのプレイだろうか。

ジャケ写もかなりお気に入りで、リーゼントをかきあげこちらを睨みつける大輔がとにかくかっこいい。そして大切なタイトルロゴ。暗闇をぶっ飛ばしているイメージがそのままデザインされたロゴはめちゃくちゃカッコいい。

ラジオで翔くんや横山みゆきさんにいじられて大輔が恥ずかしながら告白していたのが裏ジャケの写真。カッコつけてる大輔のパンツが写ってしまっているという。とにかく恥ずかしくて初回プレス以降は写真を差し替えてもらったとか。


■岩井小百合/水色のラブレター

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デビューイヤーに4枚のシングル、1枚のアルバムをリリースし日本武道館での初ライブを終え、いよいよ年末の新人賞レースに打って出るタイミングで発売された5枚目のシングル「水色のラブレター」。これまでの集大成ともいえるほどの名盤シングル。これがとにかく素晴らしいシングル盤なのだ。

始まったばかりの淡い恋に心を躍らせる少女の気持ちを歌った「水色のラブレター」。H2Oの「想い出がいっぱい」や中森明菜「DESIRE-情熱-」を作った鈴木キサブローさんが作曲、桑江知子「私のハートはストップモーション」を作った竜真知子さん作詞のタッグ。歌謡曲においては抜群のタッグである。ちなみに竜真知子さんの旦那さんは、紅麗威甦の曲も作っているNOBODYの相沢行夫さんだとか。万全の組み合わせで制作された勝負のシングル曲はとにかくポップ。跳ねるようなリズムに乗ってアイドルの王道のようなポップチューンを歌う岩井小百合はとにかく輝いていた。最優秀新人賞に向けて最高の大勝負を賭けた力作だ。ラブレターが届くのを心待ちにしている少女の気持ちをとても上手く表現できている。


  愛しているなら どうぞ
  水色の びんせんにして
  それだけで 心がわかる
  恋を運ぶ 水色のラブレター


B面の「もう一度LOOK AT ME」では、今にも壊れそうな恋心を切なく歌いあげた。A面とB面では真逆の恋心を見事に表現している。たまに見せるちょっと大人びた岩井小百合もまた魅力的なのである。こちらも鈴木キサブローさんと竜真知子さんのタッグだ。以前にも書いたが、デビュー当初は横浜銀蝿が完全バックアップして銀蝿一家のマスコットガールとして売り出したが、この頃にはこの年デビューしたすべての新人の中で一番になるために有名作詞・作曲家を招き、本気モードとなっていたのだ。


このシングルはジャケ写も抜群だった。小さなハットをかぶり、このシングルが発売された秋らしい服装で微笑みかける岩井小百合がとにかく可愛かった。タイトルロゴもポップで最高だった。このシングルが岩井小百合史上もっとも輝いていた瞬間なのではないだろうか。


■杉本哲太&LONELY-RIDERS/On the Machine(翔と桃子のロックンロール)

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このシングルについては以前コラムで書いたので詳しいことはそちらを参照していただきたい。そのコラムにも書いたがこのシングルは最強だ。メンバー、曲、歌詞の世界観、ジャケットのイラスト、さらにはB面には紅麗威甦の「桃子の唄」が収録されていて名盤中の名盤なんである。


コラムを書いていて嬉しいのはもちろん読んでもらえること。さらに何よりも一番嬉しいのはコラムの感想やご意見をいただけることだ。以前この曲のコラムで「どういった目的でこの曲がリリースされたのか知りたい」といったことを書いたわけだが、何名かの方にメッセージをいただいて、ちょっと謎が解けて嬉しかったのだ。

どうやら当初は漫画「ハイティーン・ブキ」の映画化は銀蝿一家の歌や出演で話が進んでいたのではないか?ということだった。原作の牧野和子さんも銀蝿一家のファンだったことも教えていただいた。ありがたい。最終的には近藤真彦が歌を歌い、たのきんトリオで映画が撮影された。確かにあの当時は、ジャニーズ事務所と銀蝿一家は人気を争う関係にはあったはずだ。さすがにジャニーズ事務所には敵わないが、銀蝿一家の勢いはそれに追随しているものだった。そう考えると、このシングルレコードに賭ける銀蝿一家の強い想いは納得できるものである。

とにかく、このシングルレコードの完成度はとんでもないものである。タラレバを言っても仕方がないが、もしこの曲が映画「ハイティーン・ブキ」の主題歌になっていたら、この曲はベストテンの1位になっていたであろう。そして銀蝿一家の運命はまた違ったものになったに違いない。この後俳優として大きく羽ばたいた杉本哲太の運命もまた違ったものになっていたかもしれない。


■Johnny/$百萬BABY

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なんとかっこいいジャケ写だろうか。シルエットのJohnnyとタバコの煙がいかしている。「ジェームス・ディーンのように」もそうだったが、Johnnyのレコードはジャケもかっこよくて最高だった。あの頃の自分にとってJohnnyはもっとも憧れるスターだった。当然ジャケの善し悪しに関係なく購入するわけだが、ジャケも曲もいいのだから文句のつけようがない。

そしてこの「$百萬BABY」。Johnnyの2枚目のシングルとしてリリースされ、オリコン1位に輝いた。その前の「ジェームスディーンのように」が売れるのは分かる。当時人気絶頂の横浜銀蝿の中で一番人気があったJohnnyのソロだ。売れないわけがない。2枚目のシングルを売るのは難しいものだが、Johnnyはそのハードルをいとも簡単に飛び越えてみせた。

松本隆さんの書いた歌詞が妙に男っぽくて聴いてるこちらがドキッとするようなJohnnyの男臭さがたまらない。


  I Love you I need you
  これが最後の賭けさ
  いいぜ 俺から
  ハートで勝負してやる
  星くずは 100万$さ


B面の「土曜の夜はHighway Danceで」については以前のコラムに書いたのでそちらをご覧いただきたい。この曲はこれぞJohnnyというナンバーである。土曜の夜に車を飛ばすという実にJohnnyらしい曲である。シリアスな雰囲気が漂う「$百萬BABY」は少し大人な男の雰囲気があるJohnnyだが、B面ではやんちゃなJohnnyのイメージぴったりで、この2曲のバランスはかなり良い。Johnnyのシングルの中では一番に好きなシングル盤である。



以上、ジャケと内容共に文句のつけどころのない名盤5枚を紹介してみた。ここで、なんで横浜銀蝿がないんだ?と思う人も多いことだろう。確かにここに横浜銀蝿が入っていないのは大問題だ。ただ、選んでいる時にA面とB面のバランス、さらにジャケットのインパクトを考えると、どうしても横浜銀蝿のシングルレコードは選べないのだ。それはB面がアルバムに収録されている曲が多かったりするのでシングルレコードとしての評価としては少し劣ってしまった。しかしもちろん横浜銀蝿の全てのシングルが名盤なのは間違いない。ちなみに横浜銀蝿の個人的なベストシングルは「お前サラサラ・サーファーガール おいらテカテカ・ロックンローラー 」になる。

ジャケ写の好みで選んでみたら、内容もばっちりな名盤揃いだったという検証コラムでありました。今みたいにデザインでコンピューターをバリバリ使いこなして制作されてはいなかった頃のジャケ写だから、味わいもあったりして、銀蝿一家に限らずこの頃の歌謡曲のジャケットって結構好き。みなさんも懐かしのレコードを引っ張り出して、好きなジャケットの曲を聴いてみることをおすすめします。


it's only Rock'n Roll


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