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【詩】 水辺の花火

理由など判らないが

あの頃の僕等は

深夜になっても眠気が訪れて来ない

そんな日が続くことがあった


中学の頃だ。

この学校は、中高と寮生活の
男子校で、一部屋を二人で使う


相手が自分と合わないヤツだと

最悪だ

それが原因で、脱走した話しも

何度か訊いた



幸い僕と同じ部屋になったKとは

相性が良かった

眠れずに、ベットの中で寝返りばかりしていた深夜


小さな音が聴こえた


真っ暗な部屋のはずだった

けれど頭の上の方が

薄ぼんやりと灯っている


見ると、隣のベットで寝ているはずのKの姿はなく、空っぽだ


僕は体を起こして、小さな音が

聴こえてくる、窓辺を見た


丸い小さなテーブル

その上にある、ままごとに

使うようなランプが

蛍が10匹集まったような

灯りを放っていた


 Kは椅子に座り、暗くて何も見えない

窓の外を見ながら、口を動かしている

カリカリ カリカリ


急に僕を見て、Kは笑顔で

「Aも寝れないんだろう。こっちで

食べないか」

そう云うKの手には、食べ掛けの
クッキー


「部屋に食べ物を置いちゃいけないんだぞ」

そう云いながら僕もクッキーを

頬張っていた


「なぁ、花火をやりに行かないか」

Kが唐突に云ったのだ


季節は秋になっていたから

パジャマで外に出て後悔した

夜明けが、そこまで来ている川辺


夏の残りの花火を、 Kは逆さまにして枯れ草に三本立てた


「火はあるの?」

Kはパジャマのポケットから

ライターを取り出した


「何で持ってるんだよ、ライター」

「あそこに箱があるだろ。そこに入ってる。タバコと一緒に」


「だってこの辺りは禁煙じゃん」

「我慢が出来ない先生がいるのさ」

ライターの火は川風で、何回も消えた


僕が風除けになって

何とか花火は点火した


しゅるしゅると音を鳴らして

風車のように花火は回っている

そして1分経たずに白い煙だけに
なった


「これにて終了」

呆気ない花火大会だ

「俺たちみたいだと思わないか」


Kは少し流れが早くなった川を見つめて

そう云ったんだ


なんとなく、僕もそう思った


「きっと、あっという間に大人に

なっちまうだ。俺も、Aもな」

「Kは嬉しいか。大人になるの」


棒だけになった花火を拾うと

「寒い。帰ろう」

そう云ってKは走り出した


途中でくるりと向きを変え

「嬉しいわけないじゃんか」

そして寮に向かって再び走って行った


「僕も同じ」

Kとの部屋に急いだ


     END








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