見出し画像

「いかに『プロジェクト』を成功させるか」で知る、プロマネの進化

章によって「それ、ちょっと前の欧米か!」と言いたくなる内容と、現在も有効な考察で納得の内容と、ばらつきが大きい本ですが、「ハーバードビジネスレビュー」の本です。

なぜこんなことを言うか?というと、
この本が発刊されたのは2005年1月だからです。

定評ある論文を執筆するにはその2~3年前である2002~2003年のケーススタディが最新になるはずです。
2005年刊行ということは、欧米圏はリーマンショックもサブプライムローン問題も経験しておらず、世の中が不確実になる前、「効率の良さへの集中」「ウォール街は絶対強者」という世界線でもあります。

そのため、この本を読んで最初に感じるのは、「プロジェクトマネジメントもより多様により可変に進化している」ということです。特に、「垂直立ち上げ前提」のプロジェクトは、さすがに微妙な世の中になったと感じます。

こんな人におすすめ

プロジェクトマネジメントについての理解を深めたい「プロジェクトリーダーやプロジェクトマネージャーを務める人」におすすめです。
ただ、冒頭にお伝えした通り、「古い!」と思う部分は否めません。

この時代はこういうプロジェクトマネジメントのスタイルがあり、だからこそ現在PMPではアジャイル型のプロジェクトや、スクラムマスターのあるべき姿を問うことが増えるようになったのか!
と理解するのに向いています。

「これがすべて! 」と信じるには古すぎるし、欧米の価値観や組織形態が基本になっているため、日本ではそのまま活用できません。

冒頭の前書きに…

社内政治に発展するような問題がプロジェクト失敗の最大の原因と言われることが多いですが、あるコンサルティング会社によれば、「プロジェクト・マネージャーとしてのトレーニングを受けた人材、すなわち複数のプロジェクトに参画した経験に乏しい人材がリーダーを務めてしまうこと」を最大の原因に挙げています。
いかに「プロジェクト」を成功させるか
まえがきーリアル・プロジェクト・マネジャーの不在 p.ⅱ

とありますが、日本企業のDXの過程で起きているトラブル(某銀行の巨大システムなど)は、冒頭で否定された問題もカウントして対策をしなければなりません。
この辺は逆に「世界からそう見られる状態にこのプロジェクトが陥らないために何に気を付けるべきか?」の視点で読むといいと思います。

今も使える第3章、時代遅れだが見ておきたい第1章第2章

不確実性が上がり、デジタルでお客様の意向がこまめに取れる時代に、垂直立ち上げを目的とし、PDCAサイクルが完成後となるウォーターフォール型のプロジェクトはリスクが高いです。
おそらく、多くのプロジェクトがアジャイル型もしくはハイブリッド型を取りながら進んでいますし、逆にそうじゃない場合もPMPはじめ多くのプロジェクト進行の規定演技は、「フェーズゲートを設けこまめに進捗を確認」がデフォルトとなっています。

第1章:なぜプロジェクトの迷走を止められないのか(イザベル・ロワイエ)と第2章:楽観主義が意思決定を歪める(ダン・ロバロ、ダニエル・カールマン)

第1章は死に体プロジェクトを止められず、集団信仰状態になって突き進むプロジェクトという問題に対して「いかに組織として成功の過信を食い止めるか?」という話、第2章は「いかに楽観主義の罠を回避するか?」という話を扱っています。

PMPではスコープ、コスト、スケジュールをマネジメントするだけではなく、事前の見積もり精度を上げるプロセスも叩き込まれます。
過去の見積もりだけに頼らず、悲観・楽観含めた見積をすることや、リスクを加味することなどが入っています。

そのナレッジが徹底された理由はこんなことだったのか!と感じる章です。

結論としては、第1章では「旗振り役と見切り役を設ける」になりますが、日本でたまに起きるような「途中で入った全く違う思想の人間の大暴れによるとん挫やインシデント発生」は想定されていません。
この説も、「見切り役≠つぶし役」としては描かれておらず、「旗振り役=信念で走る人」「見切り役=ファクトで検証する人」となっています。
第2章では、「客観的に予測するための外交的視野を取り入れ楽観主義を排除せよ」になります。第2章の方が非常に現実的で、「楽観主義の力を借りつつ、現実的に目標と予測のマネジメントを」という着地をしています。

プロジェクトマネジメントに、なぜファクト検証とフェーズゲートが強調されるようになったのか?がわかる章です。

個人的には、不確実性が高い中での進行が当たり前で、信念は必要不可欠な中で、第1章の「確実にうまくいくものだけやるべきである」というのは、机上の空論だなと感じました。
絶対に成功して社内に波風の立たない新規事業くださいッ!
みたいな思想にならないよう読みたい章ですね。
第2章の意見があったからこそ、プロジェクトマネジメントが進化したのだと感じる部分でした。

第3章:チームEQの強化法(バネッサ・アーク・ドリュスカット、スティーブン B.ウルフ)

これはプロジェクトの形式が変わった現在では、より重要視されていることだと思います。現に、PMPではスクラムマスターのやるべき仕事として、「プロフェッショナルなチームメンバーの働きやすさを高める」を重視していますし、人のマネジメントの比重は大きいです。

そのような流れを論文にまとめたのがこの第3章で、チーム能力を高める上で欠かせない3つの条件として、

  • メンバー間に信頼関係が築かれていること

  • メンバー一人ひとりがチームへの帰属意識を持っていること

  • 各メンバーが、チームの強みを認識していること

が上げられます。PMPでも、これが個人のスタイルではなく、「正しいノウハウ」として教えるように定着したのだと感じさせられる章です。

また、個人EQとチームEQの区別についても触れていて参考になります。
※EQについてはこの本からの引用を使っています。

ダニエル・ゴールマンは、

EQの高い人間は、自らの感情の変化を意識し、これを制御できる。そしてこのような意識と制御は、自己の内面にも、他者にも向けられる。
「EQ こころの知能指数」

と述べており、そのようなマインドセットから生まれるのは「個人のコンピタンス」であり、「社会的なコンピタンス」他者の感情や情動を意識・制御することであるとしています。

これをチームに当てはめると、

  • メンバー

  • チーム

  • 外部の個人やチーム

それぞれの立ち位置、場面での、感情・情動・雰囲気を意識して制御するということがチームEQに不可欠なものとなる、というのがこの章の概要です。
「感情的な問題に対処するための経営資源を設ける」(愚痴っていいタイムやご機嫌斜めを明るく言う慣習を組織に作る等)
「肯定的な環境を醸成する」(非難し合いそうなときは強制的に前向きな空気を作る)
「能動的に問題解決する」(チーム管轄外でも検証と提案してみる等)
といった具体例もあり、スキルの高いチームの人達の方が、そうかそういうやり方ならやりやすい!と思えるチーム規範につながる、学びの多い章です。

これは最後の図がめちゃくちゃチェックリストとして優秀なので、ぜひ実物で読んで欲しいパートでもあります。(載せたいけど我慢)

プロジェクトマネジメントはいつも進化している

こうして2002~2003年頃のケーススタディを元にした論文を見ても、プロジェクトマネジメントというノウハウ自体が「生もの」のような側面があるとわかります。
20年前と今は全然状況も、発想も違うのです。

そして、今はより多様で自由な世の中になった分、デジタル化によりPDCAの速度が恐ろしく上がり、そこに人間が「ひるまない」ことも重視されます。チームEQの章が、普遍的に感じたのはその点かもしれません。

少し前の本ですが、プロジェクトマネジメントの古今東西を知るべく読んでみることをおすすめしたいです。


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?