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映画クレヨンしんちゃんの脚本の雑感

『映画クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝』までの歴代の映画クレヨンしんちゃん全体を振り返って、おもしろさを生む要因と今後の脚本について書いてみたい。この記事はおよそ3400字あり、全文が無料だ。

私・街河ヒカリは歴代の映画クレヨンしんちゃん30作品をすべて観た。以前私が書いた記事「映画クレヨンしんちゃんの歴史と脚本の傾向」では整理整頓して書いたが、今回はそこまで整理整頓せず、あいまいな感想やおおざっぱな仮説を書くことにする。ネタバレがあるので注意してほしい。

今年・2022年に公開された『もののけニンジャ珍風伝』は、つまらないわけではなかったが、去年・2021年の『謎メキ!花の天カス学園』に比べると、それほど質が高いわけでもなかった。『謎メキ!花の天カス学園』は名作すぎた。これを上回る映画クレしんを作ることはかなり難しいだろう。

映画クレしんのおもしろさの要因とつまらなさの要因を、いくつか挙げてみたい。


物語に筋が通ること、個性を活かすこと。


『謎メキ!花の天カス学園』は、最初の動機と目指すゴールが明確だった。

風間くんはしんのすけたちと一緒にいたい、だから同じ学校に進学したい、だから体験入学でエリートポイントを獲得したい。しんのすけたちは、吸ケツ鬼に噛まれておバカになっちゃった風間くんを元に戻したい、学校の謎を解きたい。この動機とゴールが明確だった。

後半でしんのすけが焼きそばパンを巡って「スーパーエリート風間さん」に闘いを挑んだあの展開に私は驚いた。突然の展開であり突拍子もないが、しかし、しんのすけの個性とクレヨンしんちゃんの世界観が確立しているから、物語として滑らかだったし違和感がなかった。最後のマラソンは、焼きそばパンを目指すという明確なゴールがあった。

歴代の映画クレヨンしんちゃんを振り返ってみると、物語が動き出すきっかけが偶然だった作品もあった。映画のオリジナルキャラが偶然にも野原一家やカスカベ防衛隊に遭遇した、とか。

『もののけニンジャ珍風伝』も、きっかけが偶然に近かった。ちよめが出産のときに野原一家と同じ病室にいて同じ日に出産したことで、ちよめは野原一家を知ったのだった。

いくらフィクションとはいえ、物語が偶然(または、偶然に近い展開)によって動くようでは都合が良すぎるし納得できない。

登場人物が個性を活かして自分たちの力で物語を前に進めると、おもしろくなる。


ファンタジー的にするか?現実的にするか?


歴代の映画クレヨンしんちゃんの中では、魔法や超能力や、タイムマシンのような未来の科学技術が軸になるファンタジー的な作品と、それらがない現実路線の作品があった。『謎メキ!花の天カス学園』や『電撃!ブタのヒヅメ大作戦』などは現実路線だった。『謎メキ!花の天カス学園』に登場したAIのオツムンや『電撃!ブタのヒヅメ大作戦』のコンピュータウイルスは、現実的かどうか微妙だが、タイムマシンのような未来の科学技術に比べれば、まあぼちぼち現実的だろう。

私・街河ヒカリが好きな作品は、現実路線のほうだ。魔法や超能力やSF的な要素に頼らず、生身の身体で闘うから、登場人物の個性と創意工夫が活きるのだ。『謎メキ!花の天カス学園』のマラソンはまさに!

ファンタジー的な作品では、その作品世界の中のルールがあいまいになってしまったことがあった。その魔法で何ができるのか?その世界はどのように成立しているのか?という疑問が生まれたこともあった。

『もののけニンジャ珍風伝』は忍術を使ったのだが、最後にカスカベ防衛隊とひまわりがもののけの術を使ったことが唐突だった。ニントルが漏れ出していることと、子どもは自由な心を持っていることが理由として説明されたが、それでもうまくできすぎている気がした。

とはいえ、あまりに現実的すぎると、もはや映画クレヨンしんちゃんのおもしろさがなくなる。このバランスが重要だ。

2020年の映画『激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』は、このバランスが上手かった。

『謎メキ!花の天カス学園』は、天カス学園という閉じた世界だったから、現実の社会にはない規則とエリートポイントが存在しても自然だった。『謎メキ!花の天カス学園』の設定はうまい。これは映画クレしんに限らず様々な作品で使われるテクニックである。学校や異国のような閉じられた空間を舞台にすると、「これはこの中だけのルールなんだ」という納得感が生まれやすい。


映画オリジナルキャラの魅力


しんのすけを初めとした原作の登場人物は映画の後にテレビアニメに戻るため、映画の前後で性格が変化することができない。大きく成長することができない。だから歴代の映画クレしんでは、映画のオリジナルキャラの心情の変化と成長を描くことが重視されてきた。オリジナルキャラの魅力が、その作品の魅力を大きく左右していた。

『嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』にはケンとチャコという強烈なキャラがいた。二人には深みがあった。

『謎メキ!花の天カス学園』には個性的な登場人物が何人もいた。だから最後のマラソン大会で個性が爆発し、カタルシスを得ることができた。

映画オリジナルキャラではないが、ぶりぶりざえもんは特別扱いされている。『電撃!ブタのヒヅメ大作戦』と『激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』は、ぶりぶりざえもんが最後に物語を大きく動かした。『激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』のラストはほぼ確実に『電撃!ブタのヒヅメ大作戦』のラストのオマージュだろう。なお、ぶりぶりざえもんの初代声優は塩沢兼人、現在の声優は神谷浩史だ。


まとめ


ここまでをまとめよう。ずいぶんと私・街河ヒカリの個人的な好みが反映されるのだが、映画クレヨンしんちゃんをおもしろくするために重要な要素はこうなる。

  • 物語の最初のきっかけを、偶然にしない。

  • 登場人物が個性を活かして物語を動かす。

  • ゴールを明確にする。

  • その世界のルールを明確にする。

  • 魔法やSF的な要素を使いすぎない。しかし現実的になりすぎない。

  • 魅力的な映画オリジナルキャラを出す。


もっと別の言いかたにすると、「カタワレ系の悪い性質が表れないように注意する」ということだ。「カタワレ系」は私が作った言葉だ。説明すると長くなるので、私が書いた記事を読んでいただきたい。


新作をどうする?


さて、じゃあこれからどうすればいいのだろう?

次回作は「シン次元」らしいから、フルCG?3D?なのか?現時点では情報不足なので分からない。次回作の脚本もテーマも分からない。

30作品も作ったのだから、脚本がネタ切れになる可能性があるだろうか?

映画ドラえもんのように過去作のリメイクをすればいいのだろうか?もしリメイクするなら、順当なのは『ヘンダーランドの大冒険』と『電撃!ブタのヒヅメ大作戦』だろう。『嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』と『嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』のリメイクはやめてほしい。

まさかの選択で『おもちゃウォーズ』を映画化するか?

歴代の映画クレしんでまだやっていないテーマといえば……音楽がある。映画クレしんには劇中歌があり、登場人物が歌ったり踊ったりミュージカルみたいなことをする場面があるのが毎度お馴染みなのだが、いっそのこと新作のテーマを音楽にしてみてはどうだろう。ミュージカルのような映画クレしんがあってもいいかもしれない。『伝説を呼ぶ 踊れ!アミーゴ!』はミュージカルではないだろう。

『謎メキ!花の天カス学園』は、風間くんとしんのすけのめんどくさい関係をこってりと濃く描いた。歴代の映画クレしんでは野原一家の家族愛を何度も描いてきたが、野原一家以外の人間関係をこれほど濃く描いた作品は、『謎メキ!花の天カス学園』が初めてではないだろうか?

野原一家以外の誰かを濃く描く、というアプローチは有効かもしれない。たとえば、ふたば幼稚園の先生たちを中心にするストーリーはまだない。よしなが先生、まつざか先生、園長先生にがっつり重点を置いてみてもおもしろいかもしれない。でもまつざか先生の悲恋(行田徳郎との関係)を映画化するのは無理だろう。


以上です。

なお、このページのヘッダー画像は、『謎メキ!花の天カス学園』、『もののけニンジャ珍風伝』、『激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』の劇場版パンフレットの表紙です。

私・街河ヒカリが書いたクレヨンしんちゃんの記事をこのマガジンにまとめています。

ありがとうございました。

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