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映画クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝 ネタバレ感想考察

みさえの先輩感が際立っていた。しんのすけの自由な忍法が忍びの里に風を起こした。ちよめと珍蔵の成長物語であり、親子関係をしっとりと描いた30周年作品。風子の変化も良かった。クレヨンしんちゃんのファンからは中程度の評価をされているようだ。

本稿では、歴代の映画クレヨンしんちゃんをすべて視聴した私、街河ヒカリが、『映画クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝』の感想と考察を書いていく。監督へのインタビュー記事も参考にする。およそ4600字あり、全文が無料だ。

『映画クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝』は、2022年4月22日(ニンニン)に公開された。

1992年のアニメ放送開始から30周年となる「クレヨンしんちゃん」の劇場版30作目。おなじみのギャグを満載しながら繰り広げられる忍者アクションと、しんのすけの出生にまつわる謎をテーマにした物語が展開する。

出典:https://eiga.com/movie/96288/

ある日、野原家にちよめと名乗る女性が訪れ、自分がしんのすけの本当の親だと主張する。突然のことにひろしとみさえは戸惑うが、身ひとつでやってきたちよめを追い返すわけにもいかず、ひとまず彼女を家に泊めることに。するとその夜、謎の忍者軍団が野原家を襲い、ちよめとしんのすけが連れ去られてしまう。「映画クレヨンしんちゃん オラの引越し物語 サボテン大襲撃」「映画クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン 失われたひろし」などを手がけてきた監督の橋本昌和、脚本のうえのきみこら、これまでのシリーズを支えてきたスタッフが集う。

出典:https://eiga.com/movie/96288/

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これ以降、映画の詳細(ネタバレ)があるので注意してほしい。

ここからネタバレ

天然なちよめと先輩のみさえ

ちよめの天然っぷりが何度も表れていた。

ちよめは野原家に上がったとき、自分たちと野原家が家族である理屈を真顔で語り、みさえとひろしを困惑させた。その後の夕食では「おかずがピザ?」とつっこまれていた。子どもを取り違えたことが嘘だったと明かしたときにはひろしから「だろうな」と軽く言われた。野原家を「平凡」と言ったときにはみさえから「けんか売ってんの」とつっこまれた。巨大傀儡を自分一人で操縦できると思い込んでいた。ここでもみさえから「一人でやるつもりだったの?」とつっこまれた(ここまでの台詞はすべてうろ覚えです)。

嘘が下手。視野が狭い。素人くさい。おそらくちよめは人間関係の幅が狭かったため、言動について他者からフィードバックを受ける機会が乏しかったのだろう。だから天然だったのだ。忍びの里が外との交流を制限していたことも、ちよめの天然っぷりの原因だったのだろう。

一方、みさえは人生経験が豊富な先輩だった。ちよめの子どもである珍蔵は忍者幼稚園に通っていなかったが、しんのすけは幼稚園に通っていた。みさえは保護者たちとの交流があった。

ちよめは、周りがみんな忍者なので「助けてほしい」と言える状況になくて、野原家に希望を見いだします。みさえはそんな自分より少し若いちよめに、先輩お母さんとして自分の経験を踏まえながら「誰かに助けを求めていいのよ」と彼女を大きく包み込むんです。

劇場版パンフレット「橋本昌和(監督)インタビュー」

みさえとひろしは珍蔵の我慢のリミッターが外れることを予想し、案の定、終盤で予想が的中した。ちよめが長老から突き飛ばされたときにみさえは即座にちよめへ駆け寄った。妊娠、出産、育児を経験したことでちよめに仲間意識と先輩意識があったのだろう。秘書が長老を飛ばした後には、みさえは秘書とハイタッチをした。ほぼ初対面の相手とハイタッチをするとは!みさえは他者と仲間意識を醸成する力を発揮していた。

『爆睡!ユメミーワールド大突撃』では、みさえは母から子への想いをかなり直接的に説明した。『もののけニンジャ珍風伝』ではみさえはそこまで直接的な説明をしなかったが、それでもみさえの想いが分かりやすく表現されていた。


忍びの里が内側から変わった

閉鎖的だった忍びの里に、野原一家たちが風を吹き込んだ。

後半でへその栓が抜け、さらに代わりの栓が抜け、それでも長老がまだ私利私欲に執着していたとき、もはや忍びの里の忍者たちには冷めた空気が流れていた。このとき長老に立ち向かった人物は、野原一家でなく、秘書だった。これは重要だ。

彼の周りにいる人たちは、「長老は間違っている」と思いながらも、彼の指示に従っているんです。でも野原家と関わり、「長老についていってはダメだ」と気づく。その結果として、長老を懲らしめるのは野原家ではなく、長老の一番側にいる女性秘書が奮起するとしました。 そうでないと忍びの里は変わりませんから。

劇場版パンフレット「橋本昌和(監督)インタビュー」

前半で風子としんのすけが長老のお城に潜入し、脱出し、「忍法傘ぐるま」で空を飛んだときには忍びの里を一望した。一気に開放的になり、風子は「楽しかった」と笑った。しんのすけの見張り役だった風子が変化していった。

へその栓への最後の一押しが必要になったとき、風子が風を送ってしんのすけと珍蔵は高く舞い上がり、そして栓を押しこめることに成功した。これも重要だ。前半でしんのすけが起こした変化が、最後に回収され、物語をきれいにまとめた。

自由になった珍蔵がモモンガになって空を飛んだ。秘書と風子が自分の意思で行動した。

結局、忍びの里が内側から変化したことが重要だ。野原一家たちはきっかけに過ぎない。

物語の軸は親子関係であり、みさえ、ひろし、ちよめの3人にかなりの重点が置かれていたが、それでも最後に問題の解決をした人物は、かすかべ防衛隊と珍蔵と風子、つまり子どもだった。

アクション仮面が登場したが、しかしアクション仮面の活躍はなかった。私はアクション仮面が子どもを救出したり敵と戦ったりせず太鼓を叩いていたことに驚いた。

その場面で注目すべき人物だけにスポットライトを当て、他の人物の活躍をバッサリと切り捨てた。潔い脚本だ。


男女に違いがある?

再び監督へのインタビューを引用しよう。

話が通じないお父さんの象徴としてゴリラにしたんですけど、彼は彼で、仕事をしないと世界が滅んでしまうからどうしようもないと思っている。息子の未来を守るためにも仕事をしなければならない。それは、お母さんたちと一緒に子育てしたいけど仕事を辞めるわけにはいかないと悩んでいる今の世のお父さんたちそのものなんです。 そういう意味では、忍びの里は僕たちが生きている今の社会で、そこに僕たちの身近な問題を詰め込んだ感じですね。

劇場版パンフレット「橋本昌和(監督)インタビュー」

前掲したインタビューでも、橋本昌和監督は「秘書」でなく「女性秘書」と語っていた。おそらく、橋本昌和監督を初めとした制作者の方々は、登場人物の行動や性格を、女性と男性で意図的に区別しているのだろう。秘書と風子はどちらも女性だった。

前半で風子が実力を発揮した場面のあと、忍者のだれかが風子を「くのいちにはもったいない」と言っていた(台詞はうろ覚えです。もし間違っていたら申し訳ない)。どういう意味だろう?もしかして忍びの里では「くのいちは男の忍者よりも地位が低い」という前提があったから「くのいちにはもったいない」との発言が生まれたのだろうか?

女だから長老にはなれないと諦めながらも、強くカッコいい忍びになるためストイックに頑張る女の子です。

劇場版パンフレットに掲載された風子役を演じる雨宮天のコメントから引用

パンフレットにはこのように書いてあったが、「風子は将来長老になれるほどの実力があるが、女だから長老にはなれない」という意味で「くのいちにはもったいない」との発言が生まれたのか?

『もののけニンジャ珍風伝』における女性と男性の役割や行動の違いについては、私はこれ以上論理的に考察することができないので、ここまでにしておく。


総括

『もののけニンジャ珍風伝』は、脚本が丁寧だ。描くべき要素を濃く描き、省略してよい要素を潔く切り捨てた。ギャグは豊富であり、クレヨンしんちゃんらしい自由を愛する価値観が表れていた。

前作『謎メキ!花の天カス学園』は登場人物の個性が強烈で、最後のマラソン大会で大きく盛り上がり、風間くんとしんのすけのめんどくさい友情がこってりと濃く描かれていた。要するに派手だった。『謎メキ!花の天カス学園』はクレヨンしんちゃんのファンから非常に高く評価されている。

『謎メキ!花の天カス学園』に比べると『もののけニンジャ珍風伝』には派手さがない。しっとりとした感触だった。私はこのような雰囲気の映画クレヨンしんちゃんがあっても良いと思う。

しかし、『もののけニンジャ珍風伝』は登場人物の魅力が弱い。また、忍者ではないかすかべ防衛隊がもののけの術を使ったことが少し唐突だった。都合が良すぎないか?と少し違和感を抱いた。

私はクレヨンしんちゃんファンたちの感想を調べてみたが、『もののけニンジャ珍風伝』は中程度の評価をされているようだ。「前作『謎メキ!花の天カス学園』に比べると、劣っている」との評価がちらほら見受けられた。私、街河ヒカリも同じ評価をしている。私は『もののけニンジャ珍風伝』の質が、歴代作品の中で中位に位置すると考えている。


ネタの考察

物語の本筋ではないが、私が注目したポイントを書いていく。

前半で野原一家がしんのすけを探しに行くストーリーは『電撃!ブタのヒヅメ大作戦』に似ている。中盤で突然変な人(シタゲー博士)が現れたこと、しかもその変な人が味方だったことも、『電撃!ブタのヒヅメ大作戦』に似ている。

映画冒頭で歌が流れ、映画終盤でかすかべ防衛隊がその歌を歌う、というストーリーは『バカうまっ!B級グルメサバイバル!!』に似ている。太鼓を叩いたことまで似ている。『バカうまっ!B級グルメサバイバル!!』の脚本もうえのきみこさんだった。

『もののけニンジャ珍風伝』の全体を通し、何度も親子関係が描写されていた。中盤でしんのすけがおにぎりを食べようとしたとき、オタマジャクシの群れが描かれた。オタマジャクシは子どもたちの比喩だろう。終盤でへその栓を運んでいるとき、子猫と親猫が描かれた。ここでも親子だ。

タイトルの『もののけニンジャ珍風伝』には「珍」と「風」がある。珍蔵と風子の名前と字が同じだ。エンディングではネネちゃんと風子が何かをしゃべっている様子があった。ネネちゃんのことだからきっと「珍蔵くんのこと、どう思ってんのよ」と聞いているのだろう。


次回作

映画の最後に次回作の予告があった。「シン次元」と言っていたが、アニメが3Dになるのか?最近は「シン」というタイトルが流行している。


最後に。

クレヨンしんちゃんの放送30周年、映画化30周年、おめでとうございます。


お読みくださり、ありがとうございました。

私、街河ヒカリが書いたクレヨンしんちゃんの記事をこちらのマガジンでまとめています。

ヘッダー画像の出典:https://twitter.com/crayon_official

【追記】

近年の映画クレヨンしんちゃんについての雑感を記事にしました。

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