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理想の人生の描き方 ハーバードで学んだこと

ライフデザインについて書いてみたいと思う。

私の人生は、だいたい40歳の前と後とでがらっと変わっている。「前」の私は、独身で新聞記者として昼夜なく仕事をし、アメリカの大学院に行ったり特派員をさせてもらったりと、わかりやすくキャリア志向、仕事人間だった。

40歳直前に夫の母国であるデンマークに来てからは、子供を2人出産し、子育て中心の生活にがらりと変わった。出産・育休の合間に仕事も少しずつしはじめたが、フリーランスでやっているし、デンマークに来る前とは仕事のスタイルも内容もずいぶん違って見えると思う。

その変わり方が極端なので、「よく思い切って決断したね」と人に言われることが時々ある。たしかに表向きは劇的な変化ではあるし、大きな組織で着々とキャリアを重ねて活躍するかつての同僚や大学院時代の友人を見れば、なんだか置いていかれた感じもしなくはない。

けれどそれ以上に、もしも自分が取ってきた選択をしなかったら、と想像する方が、実はずっと恐ろしかったりする。私の場合、夫がたまたまデンマーク人だったので、結果的にライフスタイルの振れ幅も大きくなったが、急に大きな選択に迫られた時に自分が納得できるライフデザインの「軸」にしがみついておいたことは、すごく大事だった、と振り返ってそう思う。

ライフデザインについて意識するようになったのは、ハーバード大に留学していた時の経験が大きかった。実に色々な機会で、自分の理想とする人生とはどんなものなのかを考えさせられたのだが、今回はその中でも「イメージすることの大切さ」を教えてくれた、あるワークショップについて書いてみたい。


オーバーアチーバーの罠

「オーバーアチーバー」(Overachiever)という言葉をご存知だろうか。私はハーバードに行くまで耳にしたことがなかったのだが、日本語の辞書を見ると「知能水準から期待される力よりはるかに高い学業成績を示す者」という定義がある。

ハーバードに来るような人は、特にアメリカ人の場合、飛び抜けて成績優秀、かつ、学校外の活動でも優れたリーダーシップを取った実績があるだとか、スーパーマンみたいなタイプに見える。でも、天才肌を別にすれば、たいていの場合、ちょっとだけ人よりできる子が、周囲の大人の期待に応えようとものすごく努力した結果だったりする。こういう人たちは、自分に過度のストレスをかける「オーバーアチーバー」と呼ばれ、キャパ以上に頑張り過ぎる傾向がある。

オーバーアチーバーの人たちは、親など周囲の人間が期待することや、一般的に”すごい”と思われていることを目標にして頑張ることが多い。野心家で、一つの目標が達成されたら、すぐに次の目標を見つけ、自分を鼓舞しながら頑張り続ける力がある。

ただ、親の期待や、社会的にすごいと言われることに焦点を合わせ続けるうちに、自分が本当は何をやりたいのかわからなくなり、「あなた自身は何をしたいの?」という単純な質問にうろたえたりする。何がしたいのか、なぜハーバードなんかに来たのかよくよく考えてみると、かつてハーバードに入学できなかった親のリベンジを果たしてあげたいと、子供心に思ってきたからだと気づいたりする。入学したはいいけど、この先どうしよう、と思い悩んだり、勉強する意義を見出せずに落ちこぼれていき、学生生活が続けられなくなる人もいる。

ハーバードで「幸せの授業」を受けた時のことは、このnoteの記事にも書いたが、この授業の1回目の講義で講師のタル・ベンシャハー氏が言ったのが、学生の間に蔓延するうつ病の深刻さだった。ハーバードに入学できれば一生幸せが約束されている、なんてことはあるはずもない。"幸せについて、科学的な根拠を伝える”という授業が、大学史上最多の学生を集めたという事実が、それを物語っていたように思う。

とあるワークショップの力

ハーバードには他人の期待に沿って努力しすぎるオーバーアチーバーが集まりやすい、ということもあってか、「自分にとっての成功とは何か」ということをよく考えさせられた。当時は、米エネルギー企業・エンロンによる巨額な粉飾決算事件(エンロン事件)の記憶が新しく、事件を起こして刑務所行きとなった一人が、ハーバード大のMBA出身のエリートだった、という背景もあったと思う。この人のことはキャンパスでも生々しく語られていて、自分の能力を過信するあまりにモラルや常識的感覚が麻痺することの恐ろしさを自戒させられていた。

そんなふうに、社会の価値観にとらわれずに、自分にとっての幸せとは、成功とは何かを考えさせる機会の一つが、私が学んだ公共政策大学院でのワークショップだった。

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