【エッセイ】バズとそれから
人生で初めてバズった。
それは最近ネットフリックスで視聴した『カラオケ行こ!』の感想をX(旧Twitter)でつぶやいた時のことである。
あまり大きな声では言えないが普段からTwitter(現X)で呟くときは、心の中で「バズれ…!」と思いながら言葉を放つわけだが、勿論そのようなことは悟られたくもないので心の隅で思うだけだし、それが無風のような反応であっても全然大丈夫なふりをする。(本当は「なんでだよおおおお」くらいの気持ちを隠しながら)
だが私のアカウントはバズらない。本当にバズらない。ちゃんと呟いて、ちゃんとバズってほしいなと願って、ちゃんとバズらないという一番残念なパターンだ。これを見ている方も是非フォローしてほしい。びっくりするくらい無風なので。
さて、そんなSNSライフを普段過ごしているような私だ。
初めてみる600を超えるいいね。
なんてことだ。初めは我が目を疑った。
だが、徐々に感覚が現実になっていき、私の思いは確信へと変わる。
「これがインターネットで承認欲求が満たされるという感情…!」
何か、放流した稚魚を大きくする遊びのような感覚に陥ったことを覚えている。
そこからは、スマホの画面を見ながら肥大していく文字列を眺める日々。
うんうん、良いね。
リツイートもあるね。
いやあ、大きく育ったねえ。
普段から、バズを定期的に出しているアカウントというのは、このような気持ちなのか。
これはなかなかに脳汁が出るなと思った。
インターネットというのはなんと恐ろしい場所なのだろう。
しかし、ここからが本題なのである。
バズってから数日後。私はある一つの事実に気づいてしまったのだ。
繰り返す、いいね。
ひっそりと行われる、ブックマーク。
ならばと、我が作品や、我がYouTubeの動画の宣伝ポスト。
……。
無風。
凪、なのである。
カームベルトってこの状態のことを言うのだろうか(©︎ワンピース)
そう、それはバズっている割に、全く文芸サークル”バケツズ”や、サークル代表の”横林大”への還元がないことだった。
ひたすら、いいねの通知は来るが、私と言うパーソナリティには全く触れてこない。
ただただ通り過ぎて、手前のポストばかりに群がる。
私などと言う個人のことなどは関心がない。
これには驚いた。
多少バズれば人生が好転するものだと勝手に思っていたのだが、実際のところは全く響きがない。
当たり前の話だが、この程度のバズでは変わらない。ネットでリアルは変わらないのだ。
ああ、これはと気づいた。これは、人生だ。
誰も彼もが人生というのものを持っているが、それは星のように輝くわけではなく、道に転がる石でしかない。
そしてバズは、少し変わった形であったり鉱物の成分で光ったりくらいの物珍しさで拾われるようなもので、けれどまた日常という道端へ戻される。
中には時々どこかに運ばれたりする場合もあるが、それは選ばれた偶発的なものか、悲劇の瞬間でしかない。
命を賭せば、あるいは知略を練れば、バズによる恩恵も受けられるのだろうか。
しかし私は、そんな勇気もなく、自身が楽しくて面白いことをやるだけのSNS。
物語というのは、一番の人生の盛り上がりを切り取って描かれるからこそ、関心が持たれる。
だが、そのエンディングの後も我々の人生は続いていくのだ。私たちの前には漠然とした、その後が取り残されているわけで、その際に600を超えたいいねは、思い出としては美しいが、それだけではお腹が空く。
私は、初めバズと出会ったあの日。
間違いなく人生がキラキラと輝いて瞬いて、まるで自身が無敵であるかのような感覚に陥った。
バズと過ごした日々は、とても居心地が良くて、世界のすべてと言ったって大袈裟なものではなかった。
その手触りは、激しさを増す社会の中において、希望や光のようであり、けれど初めから終わりのある関係性を理解しながら過ごす数ページで。
きっと私は、あのときめきを忘れないだろう。
だけどね、バズ。
どうやら、もう、さよならの時間が訪れてしまったみたいなんだ。
うん、そうだね。
とても楽しくて、そわそわして、寂しくて悔しくて、キラキラと輝いていたね。
きっと僕は、胸にポカリと空いた穴を優しく撫でるような日々がしばらく続くのだろうな。
その様は、割と滑稽なのかもしれない。
どうか、バズ。
そんな僕をまた、遠い誰かの元でこっそりと覗きながら、バカだなって笑って見守っていてね。
僕も生活の、どうしようもない時間の間に、君との日々を思い出したりしながら生きていこうと思うから。
ねえ、バス。
最後に、いいかい。
一つだけお願いがあるんだ。
うん、そう、そうなんだ。
この記事を、最後に。
バズらせて、さよならにしないかい?
うん、そうなんだ。
100くらいのハートマーク。
あと、あわよくば、エックスによる1万くらいのリツイート。
うん。頼むよ。
頼むよ、バズ。
あと、インスタもやってるから、それもバズらせて……
おーい、バズ。
どこに行くんだよ、なあ。
バズ、
おーい。
……。
そこには、そよぐ風もない静かな凪が残されるだけでした。
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