同人誌の感想:雲形ひじき『あるペロリストの酒記・壱』
以前は同人誌の感想をブログに上げていたのですが、あまり読みやすくないし使い勝手もよくないので、こちらに移行しようと思います。(※ここのヘッダ画像は商業本やweb小説などの感想でも使い回します)
古い感想もできればこちらに転載したいのですが、そこそこの量があるのでどう整理するかはまだ思いつきません。
さて、記念すべきnote第一回の感想文は、雲形ひじきさん作『あるペロリストの酒記・壱』です。
ひじきさんは我らが芋研ゼミ長であり、マガジン「芋研ゼミ」にも充実した記事を寄せてくださっているので、そちらをご覧くださった方もいらっしゃるかと思います。
(ひじきさんのnoteはこちら)
ここのところ芋とリンゴとフィナンシェの人扱いばかりしてしまっていますが(すみません)、ひじきさんは創作文芸でもすごく素敵な作品を書いていらっしゃいます。
なかでも特徴的なのが、「ペロリスト」という創作スタイル。
ひじきさんが日本酒を舐めたとき、思い浮かんだ情景や物語を書き綴ったのが「あるペロリストの酒記」なのです。
この「舐めた」というのがポイントで、ひじきさんは下戸なのであまりお酒は飲めないのだそう。
日本全国のお酒を舐めて綴られた散文は、一行詩や警句のような短いものから、まとまったストーリーを持った掌編までさまざま。
内容も、ユーモラスだったりシリアスだったり、絵画的だったり物語的だったりと千差万別です。
本書ではそれらを「舐める家」という連作短編がゆるやかに繋いで、ひとつの幽玄で蠱惑的な世界をなしています。(えろいともいう)
とりわけ私が好きなものを三つ引用します。
(※noteのレイアウト上、本文と字寄せや改行が異なります)
・秋田/ゆきの美人 純米吟醸 全量山田錦(秋田醸造)
おとなしいなと戯れに手首をつかんでみれば、
ふっと目線をそらされる美しい女である。
・岐阜/射美 WHITE(杉原酒造)
肌を切りそうな草そよぐ野に立つ。高い志があるわけじゃない。
ただ引き返す路がないだけなのだ。
・京都/呑み足りて味を知る 純米酒(松本酒造)
今日も何も起こらなかった。
そんな日が続いてほしいと思うし、
願ってしまうと言うことは続かないのだろう。
それぞれのお酒がどんな味だったのか、なんとなく想像ができる気がします。
下戸なのに情景が思い浮かぶ、というのははじめ不思議でしたが、読み終わる頃には下戸だからこその才能なのかな、と思いました。
人間を含む一部の類人猿だけが、お酒(エチルアルコール)を分解する酵素を持っていますが、そもそもお酒はほとんどの生物にとっては毒です。
しかし、ひじきさんにかかれば、「下戸」も「毒を毒として摂る力」に変わります。
身も蓋もない言い方ですが、「酒記」とはひじきさんが酒という毒のせいで見た幻だと言い換えることができるのかもしれません。
それゆえに、作品自体もどことなく酩酊的な雰囲気を帯びています。
言うなれば、「読める酒」でしょうか。
私も筋金入りの下戸です。
残念ながらひじきさんのような才能はなく、どの酒を飲んでも「盛ーらーれーたー」「薬品味」「殺されるウイルスの気持ちが分かる」みたいな感想しか出ません。
そのうえ私は不眠症気味なので、「寝酒を飲むとコロッと眠れるんだ~」みたいな人をいつもうらやましく思っていました。
けれどもいま私の手元には読める酒があります。
眠れぬ夜、下戸の私は寝酒をあおる代わりに、この酒を読むことができます。
そのことをとても心強く感じるとともに、わるい酒を覚えてしまったかな、と心のどこかで思うのでした。
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