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息子の早稲田大学の入学式を自宅で生配信で見ていたら、サプライズゲストであの村上春樹氏がスピーチをしてくれて、度肝を抜かれた!


2021年4月1日,晴れて受験を突破し早稲田大学文化構想学部に入学した息子が入学式に出席した。この日は文学部・文化構想学部約1400人の学生の入学式が早稲田アリーナで行われることになった。 コロナの影響で式に参加できるのは本人のみ。身内は家で入学式の生配信を見ることができるということだった。
田中愛治総長の日本語と英語でのスピーチが終わり、「今日はサプライズゲストをお招きしています」との紹介の後現れたのはなんとあの村上春樹氏だった。

息子は受験で5学部に合格した後どの学部に入学するかかなり迷っていた。
人気の国際教養学部はすでに英検一級取得、スピーチやディベートも経験し留学経験もあるため、英語は自分で研鑽することに決め、他の学部を考えた。最後まで迷ったのは社会科学部と文化構想学部どちらを取るかだった。高校時代から歴史オタクで、歴史をより深く学べる方がいいと、悩んだ結果文化構想学部を選択した。
結果これが吉と出て村上春樹氏の生スピーチを聞けることになったのである。

Web で生配信を見ていた私たちには村上氏のお姿や生のお声は残念ながら聞くことができなかった。スピーチが始まったとたん画像は動かなくなり、ひたすら日本語と英語の字幕が踊り始めたのだ。
が、当然式に出ていた息子は氏のお姿を見ながら、生のお声でのスピーチをしっかり聞くことができた。
後で感想を聞いてみると、「もっと気難しい人を想像していたけど、親しみやすい感じで優しい人だった」ということだった。「あー!コロナじゃあなければ私も出席できたのに!」


村上氏は昭和43年に早稲田大学文学部に入学し在学途中に結婚・起業を経験した。その後に卒業ということで「普通の人と順番は違うのであまりお勧めはできませんが」と場内を沸かせた。

◆肝心のスピーチの概要は以下の通りだった。

小説というのは直接的には社会の役にはほとんど立ちませんが小説というものの働きを抜きにしては社会は健やかに前には進んで行けないんです。
社会にもやはり心というものがあり意識や理論だけでは掬いきれないものを掬い取っていくのが小説、文学の役割です。小説家という職業は1000年以上にわたって松明のように受け継がれてきました。心を語るのは難しいんです。僕らが自分の心だと思っているのは全体のうちのほんの一部にすぎないからです。 僕らの意識は心という池から汲み上げられたバケツ一杯の水みたいなものに過ぎない。 残りの領域は手付かずで未知の領域として残されています。 でも僕らを本当に動かしているのはその残された心なんです。 その心という未知の領域をどうやって探り当てればいいのか。 その役割を果たしてくれるものの一つが物語です。
小説家というのは優等生じゃないくらいがちょうどいい。頭のいい人は大抵頭で考えて小説を書く。 でも頭で考えた小説は大抵面白くない。 頭じゃなくて心で考えないと 良い小説って書けません。 でも他の人に読んでもらう文章を書くのは結構頭を使いますから、ある程度の頭も必要です。秀才・優等生じゃないくらいがちょうどいい頃合いなんです。 その辺の頃合いを見つけるのが大変なんですが、早稲田大学ってそういう作業には結構適した環境なんじゃないかと思う。
皆さんの中に小説という松明を受け継いでくれる人がいたら僕としてはとても嬉しいです。

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          早稲田大学構内の大隈重信像

「そうだ早稲田大学の文学部ってそういうところだった」 多くの文人を輩出した自由な独特な空気がそこにはあるのだろう。
ある時期までは早稲田の演劇部出身の俳優が大勢活躍していたことを思い出した。
若い頃に演劇を少しかじった身としては、坪内(逍遥)博士記念演劇博物館など興味深い。

息子は特に小説家になりたいとか出版社やマスコミに就職したいとか言うわけではなく、しいて言うなら歴史を勉強したいという動機で文化構想学部に入学した。受験生の時は、入試の偏差値や大学の知名度等に主に目が向いていた。物書きを志している人々にとってはもったいないと言うか、まさに猫に小判とはこのことだなという感じである。

時代とともに大学のイメージも変わるのか、昔は早稲田といえばバンカラなイメージで通っていたが、今の学生達はそこそこ垢抜けておしゃれな人たちが大多数を占めている。今やバンカラのイメージを残すのは、応援部の部員など一部の限られた学生のみになっている。

最後に学生全員で日本一有名な大学校歌を 、応援団長に言われた通りに拳を気恥ずかしそうに振りながら唄って式は終了した。
彼らはなぜ早稲田大学を選んだのだろう?

猫に小判、息子に村上春樹。全国の村上春樹ファンの皆様にちょっと申し訳ないような気がした。

◆2021年10月1日に早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)が早稲田キャンパス内にオープンする。設計は建築家の隈研吾氏によるもの。
見学は予約制だが、ご興味のある方は足を運ばれてはいかがでしょうか?

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