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道がピンク

強い雨の朝。

登校途中の息子が電話してきた。

「雨で桜が散ったよ」

残念だねぇ、と言おうとしたら、

「道がピンク!」

と、ウキウキした声が返ってきた。


遠くを見てしまいがちな大人に比べて、
子供の目線は、
とても身近な、目の前の、今の瞬間に向いている。

自分の子供の頃を思い出す。

椅子やテーブルで秘密基地を作ることにワクワクした。
ふるいを使ってサラサラの砂を作ることに熱中した。
バスタブの縁に水玉を丸く大きく置くことに苦心した。
ブランコから遠くに飛び降りることを何度も何度も繰り返した。

時が止まったように、
そこだけに没頭した、なんと濃密な時間だったことか。

ぼやけた遠い将来よりも、
目の前にあることの方が
ずっとビジュアルで、鮮明で、
手触りがあって、刺激的、
ということを子供は知っている。
今目の前にこんな面白いことが広がっているのに、
将来を夢想している暇はない。
「今を生きる」というのは、
文字通りそういうことなのではないか。

息子にとって、目の前のピンクは、
散ってしまうことを憂う間もないほどに
目を奪われるものだったことだろう。

いつしか忘れてしまっていた心持ちを、
我が子が思い出させてくれる。

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