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451度と100分de名著

満を持して?!100分de名著に登場、予定を変更して(火)急的に読んだ。なので、ここでは本編とEテレ視聴の所感が混ざったものを書き記す。他サイトでもほぼ同じ記事を載せてますが、こちらにも投稿します。

本書は、時代が変わろうとも何らかの気づきをその時代の読者にもたらす実に示唆に富む作品であった。

登場人物たちの口を借りて、ブラッドベリが紡ぐ言葉は後世の著述家が引用したくなるような金言そのものといっていい。この本の訳者が巻末に出典のページを置いたように、後世の作家たちは自身の書籍にブラッドベリの金言を引用して、「華氏451度」のフェーバーのセリフから、なんて書くかもしれない。

本題に入ろう。この小説が孕んでいるディストピアの内容と私達の現実世界の諸相との近似性への驚きから述べたい。半世紀以上前の作品なのに、要所でドキリとしてしまうこと度々であった。

例を挙げるなら、社会の加速化や単純化、ダイジェスト化についてである。私達が暮らす現実世界ではネットの方が速いし(まとめサイトなどのダイジェスト)刺激的でもあるから、本を読む頻度や人口は減少傾向である。TV業界も伊集院氏が指摘したようにタブルミーニングやシニカルなものはゴールデンタイムから消えてゆく可能性が高い(もう既になってるのか?)。


私は彼の言葉を視聴して、とあるネット記事を思い出した。動画サイトで映画の本編を編集して、さわりだけを違法と分かりつつもアップしてるチャンネルがあって、若者らを中心に時間短縮のために視聴する人が多いという。その影響は前後の文脈や行間から滲み出るものを理解できなくなり、映画や文学作品の読解力の低下に繋がるのでは?という懸念へと発展していく。

そして制作サイドはそういう大衆に迎合して分かりやすい単純化されたコンテンツしか作らなくなるというのだ。

一億総オタク社会。誰でもが、譲れない興味あるものや趣味、 あるいは推しが自身に存在していて、それ優先の生活に陥る人が増えてゆく。

例えばこんな人たち。周囲に(ミルドレッドが壁に映る家族との会話に没頭するように)合わせるためオタクに成りたいという人たちだ。その教養としてアニメや映画などを効率的に視聴するためのツールが先の短縮された動画。

その気持ちは分からないでもないと言うつもりはないが、否定も出来ない自分がいる。ネットには多種多様なコンテンツや関心事に応じたコミュニティがあるが、本好きにもSNSに読書家が気軽に集まるれる場所がある。

中には私のように積読本だらけの人々もいる。人生100年時代とは言うものの、本当に読み終えられるのかという葛藤は私だけではあるまい。琴線に触れた本や好きな本を読み耽り、読了すると次は何を読もうかと積読本棚を眺める日々。好きなことだけしか目に入らない、面倒なことは取り敢えず埒外。どこか視野狭窄で、自己中心的な振る舞いが目立つ読書生活は本人にその自覚がなくて無関心さが漂う。

私達の現実世界は、ややもすると家族への無関心に気づかず、仕事よりも趣味重視に走る傾向に成りやすいのだろう。今の世は夢中になれるコンテンツに溢れているのだ。ただでさえ仕事が忙しくてその上、家庭での煩わしさも合わせると趣味に没頭するための、推しに捧げるための時間が圧倒的に足りないのだ。本を読んでその後思考する、そんな悠長な時間どこにあるというのだ。

だけど、そう愚痴ってるそばから新商品や新情報に狂喜し、時には見ず知らずの他者を誹謗中傷し噛みついてゆく。加えてSNS上の同じ趣味仲間の動向も気になっている。これってミルドレッドと同じではないかのか?!

壁に映る家族との会話にどっぷりハマっていた彼女は、その似非家族無しでは生きられない。ミルドレッドも私達も極端にバランスを欠いているのではないか?そう気づいた時「451」を読み終えた人は、とある境地の分岐点に立たされているというイメージを抱いた。

趣味に凝るのは腹八分目にするべきなのではないか?という問いである。顔を合わせたことのないネット住民と競って新情報を得たり、いいねの数やリア充を見比べたりする行為からの一部解放である。

ミルドレッドが壁の家族らと話す眼差しは薬漬けによる虚無感そのもの。アイドルやSNS、YouTuber動画にどっぷりハマっている私達の眼差しは、そうなってるのではないか?!プラトンの洞窟の中に囚われている!!

であるならば外に出てみよう。クラリスのように時には散歩したりしてお月様を眺めてみるのだ。もちろんその時はスマホも本も持たず手ぶらで。

散歩中、本当の家族と交わした会話や家族が自分にしてくれた、たくさんのことを思い出したりしてみるのだ。そして、ブラッドベリが本作で暗に匂わせてる反省的思考から読みとって、今後の本との関わりかたを、生活上の精神的バランスの見直しを考えることから始めるのだ。

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