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風 5

一生分の恥ずかしい体験を人前に撒き散らすような苦い痛みを感じながら、私は声をしぼり出す。

かすれる私の力ない声は、肺の中にあるすべての空気で押し出さなければ、歌にはとても届かない。

喉の奥から息が漏れるような、はしゅっ、という音が抜けそうになる。

このまま抜いてしまわないように、少しずつ、少しずつ、肺から喉へと、押し出す空気の量を増やしてゆく。

恐る恐る、しかし、ていねいに。



(つづく)




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