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AIにおいて問題が起きる権利関係について

こんにちは、よじまるです。

経産省から出されたAI・データの利用に関する契約ガイドラインがとても有用だということで、解説記事を書いています。


今回の記事では「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」の第3章の前半から、

・AI利用に関わる各当事者の立場
・問題が生じうる事項
・知的財産権等の権利に関する整理


について解説します。

目次
1. 各当事者の立場の整理

2. 問題が生じうる事項
 - 生データに特有の問題
 - AI技術を利用したソフトウェアに特有の問題
 - 知的財産権の貴族・利用条件に関する問題
 - 責任に関する問題
 - そのほか、ユーザ側の開発・利用目的(事業上のニーズ)と、ベンダ側の技術的な認識の不一致からくる問題

3. 知的財産等の権利に関する整理

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1. 各当事者の立場の整理

AI利用に関する各当事者とは基本的に、開発をお願いする側(ガイドライン内では「ユーザ」と呼ばれる)と開発を実際にする側(ガイドライン内では「ベンダ」と呼ばれる)の二者です。

本解説記事においてはイメージを簡単にするために、ユーザを大企業、ベンダをAI企業と呼びます。

各当事者の立場を含めて全体としてどのようにするべきかについては以下の記事で述べています。




それぞれの立場を整理すると以下のようになります。



データを持つ大企業は

・データは活用したいが他所には使って欲しくない

・なんならデータを使って出来たソフトウェアは自社の権利にしたい

・開発したらどれくらいの性能が出るかは事前に知って費用対効果を把握しておきたい


対してAI企業は

・開発するソフトウェアの性能はデータを見ないとなんとも言えないので事前に保証することができない

・開発したものは他所に使えないとビジネスが出来なくなる


と考えています。両者とも自社の利益を考えると至極真っ当に思えますが、この状態では実際に利用が進むことはありません。権利関係を含めた様々な問題が起こるからです。

それでは、実際にどのような点で問題が起こり、権利などについてはどのように扱うのが良いのかを見ていきます。

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2. 問題が生じうる事項

問題が生じる事項は、以下の数点です。

- 生データに特有の問題
- AI技術を利用したソフトウェアに特有の問題
- 知的財産権の帰属・利用条件に関する問題
- 責任に関する問題
- そのほか、ユーザ側の開発・利用目的(事業上のニーズ)と、ベンダ側の技術的な認識の不一致からくる問題


より簡単な表現をすると

- データに関する問題
- 作成するAIに関する問題
- 権利・責任・そのほかの問題


の三点に集約されます。これらの問題では


認識の摺り合わせと契約による合意によって解消する

ことが推奨されています。


各問題のチェックポイントを見ていきましょう。

2.1 データに関する問題

データについてのチェックポイントは以下です。

・データはそもそもありますか?
・そのデータは遅延なく提供できますか?
・品質は良いですか?(欠損が多かったり邪魔なものが多く入っていませんか?)
・データは十分な量揃っていますか?

データの質が作られるAIの性能にとても大きく影響を与えるので、上記について認識のすり合わせが必要です。

2.2 作成するAIに関する問題

作成するAIの特徴については以下の記事で詳しく解説しています。


特に大事なのが、

開発前にはどんなものを作るか、どれくらいの精度が出せそうかわからない


という点です。これを考慮して以下のような点をチェックする必要があります。

・完成することができますか?
・完成義務を発生させますか?
・品質についてどのように扱いますか?(事前にはわからないため)


2.3 権利・責任・その他に関する問題

権利や責任、その他についても様々な問題が起こり得ます。

・成果物・途中で生じた知的財産についての権利は誰のものですか?
・作ったAI関連で事故その他が起きた時の責任は誰にありますか?


などの点はチェックしておくことが望ましいです。


本記事の最後では、特に交渉において問題が起こりやすい権利関係について整理をします。

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3. 知的財産等の権利に関する整理

権利に関するものは大きく分けて以下の三つになります。

- データ
- プログラム
- ノウハウ

3.1 データ

この部分は最も誤解されやすいのですが、

データは「所有権」の対象とはならない


です。法律において無体物(情報)は所有の対象とはなり得ないとされています。データに関して発生する可能性のある権利は以下のものとなり、その点についての扱いを考える必要があります。

- 著作権法
- 不正競争防止法
- 個人情報保護法


データは所有権の対象とはならないので、契約の際にはデータの「帰属」ではなく、アクセス可能な者やその利用の制限について議論する必要があります。

簡単にいうと、データは

「誰がアクセスでき、どのように利用していいのか」


を議論するべきであるということです。


3.2 プログラム

プログラムについての権利は単純で、

原則として、著作権を取得するのは著作者(作成者)であり、特許を受ける権利を取得するのは発明者(作成者)である。 

とされています。つまり、


プログラムは基本的に作った人の権利


ということですね。ただ一応著作権などは譲渡をすることも可能ではあるので、

妥当な契約条件(金額その他)を提示することで合意すれば、権利の譲渡も可能


ということになります。こちらは契約の際に議論することが望ましいですね。


3.3 ノウハウ

ノウハウも無体物であるので、こちらも所有権の保護対象とはなりません。ただこちらも、不正競争防止法の保護や特許法の保護が及ぶことがあり得ます。

合意がなければ、現実にアクセス可能なものが自由に利用できるのが原則ですが、利用条件を含めて契約において合意することが推奨されています。


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まとめ

今回の記事では、

・AIの利用に関わる各当事者の立場

・問題が発生する事項の整理

・権利関係の整理

についての解説を行いました。次回の記事では、「権利の帰属や利用条件の設定」について解説いたします。


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株式会社ACESでは、上記のガイドラインの内容を踏まえ、AIの技術導入及び技術導入のためのコンサルティングを行っております。

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