認知症の人の心の中はどうなっているのか? (光文社新書) 佐藤 眞一 (著)

認知症の症状と、認知症になった人の心が書かれている。怖いけれど、知っておくべきだ。
読んでいて驚いたのは、日本は認知症大国であることだ。認知症の人は、世界中で5000万人と言われているが、そのうち日本にいる認知症患者は約550万人で、世界の有病者の1割以上に相当するのだそうだ。

世界の人口76億人に対して、日本の人口は1億2000万人、1.6パーセントなので極端な高さになる。これは、主な理由は日本が世界1の長寿国であるためだ。

認知症にはいろいろなタイプがあるが、有効な治療法が見つかっていない。知的活動をしている人かかかりにくいかというと、そうでもないという。

認知症になった人は知的活動をしてこなかったのかといえば、そんなこともありません。よく知られた認知機能検査「長谷川式認知症スケール」の考案者であり、生涯を認知症の研究に費ややした精神科医の長谷川和夫さんも、自身が認知症になったと、2017年に公表しました。人一倍頭を使った人でも、認知症にならないわけではないのです。


じゃどうすればいいのか。読めば読むほど暗然とした気持ちになるが、本書が優れているのは、認知症患者の気持ちを丁寧に解説していることだ。

患者の人たちは、単に脳が衰えているわけではなく、認識する世界が変化しているのだ。しかも、かつて社会で活躍してきた記憶はあり、プライドもある。

筆者は認知症の人の苦しみとして具体的に説明している。いくつか紹介しよう。

自分が認知症だと知る苦しみ、日常生活ができなくなる苦しみ、人に見せたくない自分を見せてしまう苦しみ、相手に合わせざるを得ない苦しみ、自分がなぜここにいるかわからない苦しみープライドとの闘いなどだ。

認知症の人たちが抱く、もどかしい気持ちを理解することが、大切だと説く。

何も打つ手がないのかといえば、そうではありません。認知症を医学の視点で〃脳の病〃 と捉えれば、現状では不治の病です。けれども生活の視点で捉えれば、 何も変えられないわけではありません。やりようによっては、不自由さを減らせるかもしれない。もう少し快適にできるかもしれない。もう少し暮らしやすくできるかもしれない。介護の仕方や周囲の接し方で、症状を緩和することはできるかもしれない。そのように考えて行動することが大切ですし、そこにもっと注目が集まる必要があると思うのです。


筆者は、大坂大学の大阪大学の老年行動学研究分野教授だ。本にも書かれているが祖母も認知症になり、母親は別の病気になり、施設に入院中だという。認知症の人たちへの温かいまなざしは、こんな実体験から生まれている。

60代になった自分としても、認知症をもっと知らなければならないと実感した。

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