言葉の宝箱 0276【夏の恋は若者のもの。大人の恋は、秋こそ相応しい】
「あぽやん」とは文中にこう説明がある。
・あぽとは空港のことだ。
航空業界、旅行業界では、かつてテレックスを使っていた名残で
アルファベット三文字で事物を表わすことが多い。
旅客はPAX、航空券はTKT、ホテルはHTL、そして空港はAPO、それをそのままローマ字読みしたアポは、普段の会話の中でもよく使われる業界用語だ。そこから取ったあぽやんだが、
もともとは悪い意味で使われる言葉ではなかったらしい。
ツアーの出発点となる空港で、
様々なトラブルを排し旅客を無事に送りだす空港のエキスパートを、
賞賛を込めて呼んだのが始まりのようだ。
それが変化したのは、社内での空港の位置づけの変化に伴ってだろう。
金を生まない現場を軽視するようになった。
かつては女性スタッフもすべて本社採用の正社員であったらしいが、
今は現地採用の契約社員のみであることからも
いかに力を抜いているかがわかる P19
・空港には癖が強くとっつきにくいが、旅客のためならなんでもするし、
本社サイドのミスも大概カバーしてくれるような
空港のエキスパートがいるらしく、それをあぽやんと呼ぶのだ P44
お仕事小説、情報小説としても愉しめる
『笑って、笑って』『ファミリー・ビジネス』『オンタイム』
『ねずみと探偵』『金の豚』『不完全旅行』の六話、
ミステリタッチの連作短編集。
・笑顔って伝染するものなんだよ P60
・心の中にひと足早い冬を出現させた。僕はぶるっと震えて思った。
ああ、恋がしたいと。それは温もりがほしいというのと同義だった(略)
母の温もりなど求めない。暑苦しい男の友情も気分じゃない。
この冷えた心を癒してくれるのは、
想うだけで愛しさがあふれる恋人の存在しかない。僕はこのとき悟った。
秋こそ恋の季節だと。夏の恋は若者のもの。
大人の恋は、秋こそ相応しい P125
・過去の自分が現在の自分に影響をあたえることもある。
それは教訓ではなくひとつの事実 P244