死んで欲しい。1 「再会」

もう誰か好きになったり愛したりしないと思っていた。
そもそも僕には愛する家族があって、これ以上愛を注ぐ人がこれからの自分の人生に出てくるなんてこれっぽっちも思ってなかった。そんな欲望もなかった。

人生も折り返し、特に不満もなく平日は仕事をし、週末は家族と過ごす、穏やかなありふれた日常が毎日繰り返されていた。あの日もそのうちの同じ1日が繰り返されるはずだった。
そんな中、君はふっと僕の前に現れたんだ。
君に会った瞬間、僕しかわからない暖かい懐かしい風が頬をかすめた。
えっ?
なんで今来るんだよ。
遅いんだよ。
僕ではない僕の声が頭の中で叫んだのが聞こえた。

僕は聞こえなかったふりをした。
その声を消すように僕は君にはじめましての挨拶をし、たわいもない世間話はじめた。
君はただ、無邪気な笑顔で僕の話を聞いている。

あの時の無邪気な笑顔で。
僕の中にしまっておいた遠い遠い昔の記憶のアルバムの中に
挟み込んだあの写真と同じ笑顔の君が、今僕の目の前にいる。

君だよね。





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