呪いが解けた日
「今が一番いい時期よ」は、義母の口ぐせだ。
結婚したばかりのころ、仕事をする前、ローンの支払いが始まる直前、子どもができる前。
義母は事あるごとに「今が一番いい時期よ、これからは地獄なんだから」とくり返した。
まだ20歳そこそこだった私はヘコみ、腹を立て、落ち込んだ。
実の両親からは人生は楽しむものだと教えられたが、田舎では不遜な態度なのだろうか。
義母のように考えていなければ、私にはいつか罰があたるだろうかという考えがいつもつきまとった。
まるで呪いのように。
子どもにはこの呪いをかけさせまいと義両親から距離を置いた。
接触が少なくなって新たな呪いをかけられることはなくなったが、戦闘態勢は崩さなかった。
彼らがかけ続けた呪いは、意外にも早い時期に結果を出した。
身体的にいくつものリスクを抱えた義父が運転する車で、夫婦で壁に突っ込んだのだ。
安易な気持ちで義父に運転させ、事故を起こした。自殺ではなかった。
2人は高度な医療に命を救われ、後遺症を抱えて生きている。
呪詛のようにネガティブな言葉を吐き続けていたが、わが身を省みることはない夫婦だった。
きっと不運な自己に見舞われたと思っているだろう。
義両親の事故からほどなくして急逝した実父は、ネジが抜けているかのように前ばかり向いて生きている人だった。
家族や知人はみんなあきれていたし、よく失敗もしていた。
けれど家族で集まれば父のバカ話に花が咲き、失敗してもうれしくても「もし父がいたら」と思い出す。
私は前を向こうと思う。
バカバカしいほど前を向いて、楽しく生きていこうと思う。
もしかしたら見ることもなかった「人生の答えあわせ」に2度も遭遇したことを、偶然だとか、こんな生き方もある、なんて知ったふうなこと、言わずに飲み込んでいくのだ。
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