言葉の原石
手紙の代筆をしていたことがある。
ラブレターや感謝の思いを伝える手紙をメインに、どんな依頼でも受けていた。
何年か続けたが、実績と比例して依頼が増え嫌になった。
「予想していた以上に伝わる手紙を書いてもらえた」というコメントが、闇を抱えた依頼人を増やした。
サービス内容には「相手との関係改善や、思いの成就をお約束するものではありません」と書いていたが、そういう注意書きをきちんと読む人は人間関係を修復不可能な状態にはしない。
学びは多かったが、依頼内容は手紙でどうにかできる範囲を超えていた。
文章が苦手でうまく気持ちが伝えられないという依頼人は、ほとんどが文章以前に人として間違っていた。
必要なのは手紙の代行ではなくカウンセリングではと思ったが、黙って書いた。
その仕事からは「魔法の言葉なんてない」ことを学んだ。
行動が伴わないのに、言葉だけで壊れたものを直すことはできない。
楽しくはなかったが、私がしたいのは誰かの心の中にあるダイヤの原石を、持ち主を輝かせるまで磨くことだと気づかせてくれた仕事でもある。
花粉と黄砂が晴れた5月、磨いたような空を見て思い出した。
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